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1988/08/07 毎日新聞朝刊
臨教審最終答申から1年、改革の行方は不透明
 
 臨時教育審議会(臨教審)の最終答申が提出されて七日で丸一年になる。この間、文部省は、新任教員に一年間の初任者研修を義務づける教育公務員特例法(教特法)の改正や、大学改革を推進する大学審議会設置など臨教審答申に盛られた三十項目以上の提言を実行に移している。しかし一方で、最終答申の最大の柱である秋季入学制が手つかずだったり、鳴り物入りでことし十二月から試行を始める新テストの不人気ぶり、さらに深刻な財政難など問題が山積みしており、教育改革の行方は、いまだ不透明だ。
 六十四年度予算概算要求を目前に控え、文部省は教育改革推進と、経常経費マイナス一〇%という概算要求基準のはざまで、ジレンマにおちいっている。初任者研修の試行拡大など臨教審関連の新規事業を行おうとするほど、行政改革で切りつめられた同省の予算がさらに圧迫されるからだ。
 そこで同省が予算獲得の最後の切り札として期待しているのが、首相直属のポスト臨教審設置だ。実は、同省は昨年の臨教審解散時、ポスト臨教審には反対していた。中曾根前首相の意向が強く反映された臨教審の解散を機会に、文教行政の主導権を取り戻したかったからだ。しかし「司(つかさ)、司」で各省の意向を重んじる竹下内閣の誕生で、同省の姿勢は一変した。「文部省主導が保証されるなら、むしろポスト臨教審は、文教予算拡大の有効な武器となる」(同省幹部)からだ。
 ポスト臨教審設置法案は現在、継続審議となっており、税制改革が最大目的のこの臨時国会での成立は困難な見通しだが、同法案が付託される内閣委員会が開かれるようなら、同省は文教委員会を休眠状態にしてでも、同法案の成立に全力を挙げたい、としている。
 一方、答申の中で、ポスト臨教審と並んで同省が反発していた秋季入学制度については、いまだに省内でのアレルギーが強い。今秋、総理府が行う同制度の世論調査の結果をみて、調査会を発足するとしているが、結論を先送りしている感はいなめない。
 初任者研修制度や、共通一次試験に私大も参加させる新テストなど実現したものは、臨教審答申にも書かれているものの、文部省のかねてからの懸案だったものが大部分。秋季入学制度や、中学と高校を一貫教育とする六年制中等学校制度など、従来の教育制度を大規模に変える提言は今後もなかなか実現が難しそうだ。


 
 
 
 
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