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1989/02/11 毎日新聞朝刊
新しい学習指導要領 現場まかせの選択拡大=解説=表付き
 
 新しい学習指導要領が十日公表された。十年余に迫った二十一世紀を視野に入れ、「自ら学ぶ意欲」「個性を生かす教育」など、響きのいい言葉が全体にちりばめられているのが目につく。高学歴志向の高まりで受験戦争が小学校低学年にまで及び、学校教育全体をゆがめていることはだれもが認めている。現行の「ゆとりの教育」のもとでは校内暴力、いじめのあらしが吹き荒れた。今回の改定で学校が子供にとって、居心地のいい場所に生まれ変わるだろうか。「豊かな心をもち、たくましく生きる人間の育成」という狙いを達成するには、数多くの難題が横たわっており、行政、学校現場双方で相当の努力が求められる。(社会部・赤司 正文)
 制度面的に最も大きく変わるのが、中学校の選択履修の拡大である。現行では一、二年生が英語、三年生が英語に加え音楽、美術、保健体育、技術・家庭を選択することになっている。これを改め、今の三年生が選択する教科を二年生に引き下げ、三年生は全教科を選択の対象にし、履修時間も現行の週四時間から八時間までとれるようになる。「三年生になって、学科の勉強はいやという生徒は体育や芸術的な教科を選び、まだもの足りないと思う生徒は国語や数学をとれる。個に応じた教育」(文部省)というのが改定の理由だ。
 選択は学校が対象となったすべての教科を用意し、生徒が自由に選べるようにするのが原則。しかし、現行の英語を除く四教科選択でも、実際に四教科すべてを開設している学校は全国平均で三割しかなく、半数の学校が一教科しか開設していないのが現状。教師の増員など十分な手当てが必要になってくる。教育予算の伸びが鈍い中で、どこまで可能だろうか。
 当然、受験用の時間割り編成をする学校も出てくるだろう。これに習熟度別クラス編成ができることを合わせると、できる子、できない子の選別がいっそう進んで学校内での格差がでることにつながる。また、学校ごとに履修方法が異なるので、学校間格差も広がる。父母が隣の校区の学校と比べて、もっと受験対策用の体制を組んで欲しいと要望した場合、学校がどこまで抗しきれるか。文部省は選択拡大で「これまでの制度に安住している学校に揺さぶりをかける」と学校が主体性を持つことに期待している。
 また、道徳性を強調し、日の丸・君が代の扱いをはじめとして、わが国の文化と伝統を重視したのも特徴。小学校低学年で導入される「生活科」は基本的生活習慣といったしつけ面や動植物の飼育・栽培など自然との触れ合いを重視するが、教師が通知表の評定もする。テストの得点といった公平な基準がないだけに、教師の恣(し)意的な評価になるおそれもある。
 
◇キメ細かな対応とる
 西岡武夫文相の話 新学習指導要領が十分に理解され、運用されるために、これまで以上に(教育)現場と接していき、キメ細かな対応をしていきたい。また、新指導要領が目指す教育をできるだけ早く実現するために必要な措置を講じることを考えている。
 
◇答申が生かされた
 教育課程審議会会長の福井謙一・基礎化学研究所長の話
 一昨年十二月の教育課程審答申の趣旨が十分に生かされており、二十一世紀に生きる子供たちに必要な資質を養う基礎ができた。
 
◇かつてない大改悪
 福田忠義・日教組委員長の話 「日の丸教育」ともいえる国家主義を前面に打ち出している。臨教審構想にもとづく「戦後教育の総決算」で、かつてない大改悪。道徳教育の重視は「修身」につながり、日の丸・君が代の義務づけは偏向教育の押しつけ。教育現場でこれまで以上に教育課程の自主編成運動を強め、あらゆる場面で文部省のやり方に対決していく。


 
 
 
 
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