日本財団 図書館


2003/05/03 産経新聞東京朝刊
【主張】憲法改正 イラクと北で緊急性増す
 
 施行五十六周年の憲法記念日を迎えた。イラク戦争、北朝鮮の核開発など、日本を取り巻く国際情勢は、自国の安全を「諸国民の公正と信義」に委ねようという憲法前文が、いかに現実離れしているか、をまざまざとみせつけている。同時に、戦後日本が取ってきた国連中心主義や専守防衛などの諸原則に対しても、核武装国家の出現という新たな事態に対応できるかどうか、の視点からの見直しが必要である。
 小泉純一郎首相は三月二十日、米のイラク攻撃を支持した際、「米国は、日本への攻撃は米国への攻撃とみなすと言っているただひとつの国」と語ったが、頼りは日米同盟である。国連の集団安全保障の非現実性は、イラク問題での国連安保理の機能不全で改めて露呈したが、世界に例を見ない国連至上主義の功罪も問われよう。
 問題は日米同盟の強化なり、自国の備えを万全にする方策を迅速かつ的確に取れなくなっていることである。
 日本はイラクの戦後復興への協力を表明したにもかかわらず、米国の復興人道支援機構(ORHA)への人員派遣に際して憲法解釈に時間を取られ、結果として参加は迅速さを欠いた。自衛隊派遣についても、国連平和維持活動(PKO)協力法が、協力の対象を国連決議に基づく「国連の統括下の活動」(第三条)と定めているため、派遣する根拠を見いだせず、新たな根拠法を待つしかないとしている。憲法解釈による自縄自縛に陥り、なすすべがないのが現実だ。
 専守防衛についても、石破茂防衛庁長官が三月、敵基地攻撃能力について「検討に値する」と発言したことを踏まえ、いかにして日本を守るかという議論の中で、この問題を整理する必要がある。「座して自滅を待つべし」という論理は通らない。
 日米同盟の強化にしても、同盟関係を真に保証するのは集団的自衛権の行使の明言にほかならない。集団的自衛権に関し「あらゆる事態の研究」を二年前の四月に明言した首相は、今年二月、「(行使は)許されない」と後退してしまった。
 憲法が想定していない事態を乗り切るため、憲法を含む国のかたちを見直すことが政治の構造改革であり、これこそ首相の最大の課題である。


 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION