2001/11/19 産経新聞東京朝刊
【一筆多論】終焉迎えたビンのフタ論 論説委員 中静敬一郎
いま、インド洋に向かっている三隻の自衛隊艦隊の司令官、本多宏隆海将補(五四)は米海軍を心底、うならせた経験をもつ。イージス艦「金剛」の初代艦長としてハワイ沖の日米共同訓練に参加した数年前のことだ。
イージス艦はレーダーで数百キロ先を飛んでいる目標物を識別し、同時に十以上を迎撃できる能力をもっているが、金剛はほぼ百発百中の成果を示した。同じ能力をもつ米イージス艦の命中率はそう高くなかったという。
日ごろの訓練のたまものであるが、同じ兵器を自分たちより、はるかに見事に使いこなす自衛隊の能力について、米側は称賛と同時にやはり警戒心を持ったに違いない。
こうした、いずれか一方の感情が対日政策に投影されたのは否定できない。米国は公式に認めないものの、日本の強大化を押さえ込む「ビンのフタ」論はその一例である。 一九九〇年、在日米海兵隊のスタックボール司令官は「在日米軍は、日本の軍国主義化を防止するためのビンのフタだ」と発言した。象徴的なケースは、八〇年代に起きた次期支援戦闘機(FSX、現在のF2)開発だった。
日本の自主開発方針に米側が反発し、共同開発方式に覆った背景には、日本が独自に航空機を開発する能力を封じ込める狙いも指摘された。
この対日政策の基調は、日米安保共同宣言が発表された九六年には、ペリー元国防長官やモンデール元駐日大使が「日米の防衛協力は『憲法の枠内』で可能」と発言するなど、憲法改正をけん制する動きとも関連付けられた。だが、この基調は劇的に変わりつつあるという。
「ビンのフタは外れた」。東京・目黒の防衛研究所で五日開かれた「国際安全保障コロキアム」の席上、日米の安保関係に詳しい米側研究者はこう明言した。研究者は、ブッシュ政権の国務副長官になったアーミテージ氏を中心に昨年十月にまとめられたリポートが、対日政策の転換をもたらしたとも語った。
このリポートは「日本の力の強さを過小評価するのは、日本が八〇、九〇年代において米国の潜在能力を軽視したことの愚かさと同じくらい向こう見ず」と指摘し、「相互に助け合う建設的関係」を訴えていた。
日本側の安保実務者も、「ビンのフタ」が外れたことを実感するという。潮目の変化は、九九年、情報収集衛星を自主開発する方針に対して、米側が不快感をみせたものの、支持表明したことで、それ以降、対潜哨戒機P3Cの後継機の国産開発にもクレームを付けなかった。
憲法に関しても、アーミテージ・リポートは、日本の集団的自衛権の行使を促した。
精強な自衛隊をはぐくむなど、力を少しずつ蓄えた日本との協力によって、アジア太平洋の平和と安定を確保することが、米国だけでなく国際社会の利益になるとの判断がにじんでいる。
米太平洋艦隊指揮官のラフルアー中将は米中枢同時テロ直後、「われわれはひとつになり、テロに立ち向かおう」とのメールを元統幕議長の夏川和也氏に送った。日本は国際共同行動になんとか参加することができた。旧日米安保条約締結以来、五十年にして、日米同盟は心が通い合う関係になったといえる。
ただ、集団的自衛権の行使を認めない以上、国際社会との真の連帯はかなわない。相手が困っているとき、なにもできませんは通用しない。「普通の国」になるしか、日本が生き残れないなら、ここは憲法見直しを軸に国家改造を行う絶好の好機である。
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