2001/05/03 産経新聞東京朝刊
【主張】憲法記念日 「見直し」は時代の要請 熟しつつある機を逃すな
かつてない政治状況のなかで、施行五十四周年の憲法記念日を迎えた。小泉純一郎首相、自民党の山崎拓幹事長とも、憲法改正の必要性を真正面から主張しているのだ。内閣と与党のトップが改憲を前面に掲げるなど、これまでの政治常識からすれば考えられなかったことである。
自民党総裁選を圧勝した小泉首相は、八〇・九%(本紙調査)という驚異的な支持率に支えられて政権をスタートさせた。首相は集団的自衛権の行使容認、靖国神社参拝など、ともすればタブー視されていたテーマに果敢に切り込んでいる。とりわけ重視したいのが、憲法をめぐる発言である。
◆政治的環境はととのった
首相は就任後初の記者会見で、首相公選制にしぼって憲法改正に踏み切りたい意向を明らかにした。自身の選出過程が疑似首相公選の様相を帯びていたこともあってか、首相は公選制の導入にいたく積極的である。
その発言の趣旨は「ほかの条項には触れず、首相公選制のためだけの憲法改正だったら、国民には理解されやすいのではないか。こうしてやれば具体的に憲法改正はできるのだということで、より改正の手続きも鮮明になるのではないか」というものだ。
われわれは首相公選制そのものには、疑念を抱いている。天皇、議院内閣制、政党政治との関係、大衆迎合(ポピュリズム)に堕すおそれ、といった観点から議論は尽くされていないと考える。であるにしても、世界でもまれなほど改正手続きが厳格な「硬性憲法」に風穴をあける突破口として公選制を取りあげた意図は重視したい。
かつては、自民党政治家のなかで最も憲法改正に意欲的と思われる中曽根康弘氏にしても、首相在任中は「憲法改正は政治課題にあげない」と言明せざるを得なかった。ときの首相が憲法改正の意向を示しただけで、国会はストップし、機能不全に陥ってしまうのが常であった。
そうした経緯からすれば、今回の小泉首相の改憲発言が国会の場でどう扱われていくか、じっくりと見極めたい。各党党首をみても、与党・保守党の扇千景氏、野党・民主党の鳩山由紀夫氏、自由党の小沢一郎氏らいわゆる改憲派がずらりとそろっている。国民の大半も、改正に柔軟な意識を示している。「政治」が憲法から逃避し続けることは、怠慢のそしりを免れないといわなくてはなるまい。
◆国家像を追い求めたい
小泉首相が最大派閥・橋本派による支配構造に対決して、これを打ち破った今回の総裁選は、憲法をめぐる状況変化としても重要だ。田中派以来、この最大派閥は宏池会(現在、堀内派と加藤派に分裂)と連携して政権づくりの主導権を握り続けてきた。この保守本流二大派閥は政権維持のため、国論を二分するような国家の根幹にかかわる政治課題を回避し、経済重視・状況対応型の政治手法を継続してきた。結党以来の党是「自主憲法制定」を棚上げしたのも、そうした背景による。
岸信介、福田赳夫両氏らの系譜にある小泉首相の登場は、「もうひとつの保守本流」の復活という側面を無視できない。そうした意味で、小泉首相の挑戦は、保守政治の何たるかが問われる局面といっていい。
一方、山崎自民党幹事長は憲法記念日にあわせて、「憲法改正−道義国家をめざして」と題する著書を発刊する。「憲法を考えることは国のかたちやあり方を考えること」として、あらゆる課題を取りあげた包括的改正論である。その基本的スタンスは、われわれも支持したい。
本紙は作家の三浦朱門氏らによる「21世紀日本の国家像を考える」シリーズを掲載してきた。三浦氏は、憲法と体質をあらわす英語は同じつづり(constitution)であることを取りあげ、国内事情、国際環境の変化から日本は体質の新しい表現を要求しており、そのゆえに憲法の見直しが必要−と主張している。
新世紀に求めるべき国家像を追求していくと、どうしても憲法の欠陥にぶつからざるを得ない。憲法改正は、国際社会で日本がどう生きていくか、日本人としての共同体意識をどうはぐくんでいくか、という重い命題に取り組むことと同義語なのである。
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