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2000/11/28 産経新聞東京朝刊
参院憲法調査会 参考人聴取 元上智大教授加藤周一氏/元東海大教授内田健三氏
 
 参院憲法調査会(村上正邦会長)は二十七日午後、元上智大教授の加藤周一氏、元東海大教授で評論家の内田健三氏を参考人として招き、意見を聴いた。
 加藤氏は、戦争放棄と戦力の不保持をうたった憲法九条は変えずに、外交努力などで現実を憲法の精神に近づけるべきだとの考えを強調、積極的な国際貢献を理由とする改正論を「倒錯的で勇み足の議論」と批判した。
 一方、内田氏は「『憲法は不磨(ふま)の大典だ』というのは思い込みがすぎる感じがし、改憲論が出てくるのはごく当然かなと思う」と述べ、現行憲法の改正を論じることは自然の成り行きだとの認識を表明。中曽根内閣当時の諸改革について「研究する必要がある」と述べた。
 
□元上智大教授 加藤周一氏
◆九条変えない方がいい
 現行憲法の三原則は平和主義、国民主権、基本的人権の尊重だが、明治憲法との大きな違いは国民主権、基本的人権の尊重。諸外国と比べると日本のように徹底した平和主義は他国になく非常に目立つ特徴だ。第二次大戦後、世界は国際規約などで戦争を制限しようとの流れにあり、その意味で九条は潮流を先取りしているから変えるより変えない方がよく、現実を憲法に近づける方がいい。自衛という概念はあいまいでぼうばくだから、拡大する危険性を持っている。そもそも自衛権は脅威が想定されなければ非現実的な議論になり、「武装しないと守れない」という議論も日本では弱くなっているのではないか。人道目的にしても国連の委託による武力介入はうまくいかない例が多く、抑止力が戦争を抑止するという考えもあまり説得力を持たない。
 
□元東海大教授 内田健三氏
◆「論憲」は大いに結構
 政治ジャーナリストの立場から現実的に見ていくと、「憲法は不磨(ふま)の大典だ」というのは思い込みが過ぎる感じがし、改憲論が出てくるのはごく当然かなと思う。国際情勢や国民意識も変化しており、「論憲」は大いに結構。岸内閣当時に発足した政府の憲法調査会は岸元首相が憲法を改正するため設置したが、竜頭蛇尾に終わり、両論併記の報告書となった。当時の状況から当然だったと思う。池田内閣は経済発展、国民を豊かにさせることを重視した。中曽根内閣の誕生も転機だったが、戦後政治の総決算を掲げたものの、憲法改正でなく、さまざまな改革を行った。この時の改革路線は研究する必要がある。政治は十年、二十年先を見据えてやるべきで、戦後五十年あまりの歴史を踏まえながら、必要な改革は何であるかを議論すべきだ。


 
 
 
 
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