日本財団 図書館


2000/02/16 産経新聞東京朝刊
憲法調査会きょう初会合 「道筋」明確化には時間
 
 衆参両院に設置された憲法調査会は十六日、参院で初会合が開かれ、国会で初の本格的な憲法論議がスタートする。十七日には衆院の初会合も行われ、各党とも理論武装など準備を本格化させている。ただ調査期間をおおむね五年間とするなど調査会の性格から、具体的な憲法改正への道筋が見えてくるまでには時間がかかりそうだ。
 
◆自民、勉強会着々 民主、示せぬ方針
●各党準備
 「日本に集団的自衛権は認められるが行使しないとする内閣法制局の見解をどう思うか」(山崎拓元政調会長)
 「内閣法制局は占領軍の精神で憲法解釈をする」(奥野誠亮元文相)
 自民党憲法調査会(葉梨信行会長)は十五日も、北岡伸一・東大教授を招いて勉強会を行った。北岡氏が「憲法を改正しないと政策が行えないというのはどうか。憲法を神聖不可侵にしないことも大事だし、常識や国際法に応じて解釈を柔軟に変えてもいいのではないか。学術の論理と政治の論理は違ってもいいと思う」などとしたのに対し、“大物議員”からも現行憲法の限界や矛盾を指摘する声が相次いだ。同調査会では今月八日にも西修・駒沢大教授を呼ぶなど週一回のペースで勉強会を続けており、調査会に臨むにあたって理論武装に努めている。
 一方、民主党は十四日の党憲法調査会役員会(鹿野道彦会長)で「はじめに改憲ありきではないが、憲法改正をしてはならないとの立場もとらない」との“論憲”で臨む方針を確認した。党内には「改憲派」と、これに抵抗感を示す旧社会党系議員らの間で考え方が百八十度離れていることから、一定の方向性が示せないためだ。
 憲法改悪阻止が基本姿勢の共産党は(1)恒久平和など先駆的内容を多く含む(2)憲法と現実とのかい離の原因は自民党政治のゆがみ−などを調査会で明らかにしていくとしている。社民党も護憲を訴えていく方針だ。
 
◆制定経緯を再検証「遅すぎる」の声も
●昭和30年代の論議
 「憲法調査会」は昭和三十年代に内閣に設置されたことがある。いまの民主党の鳩山由紀夫代表の祖父、鳩山一郎首相(当時)が憲法改正に積極的だったこともあり、改正論議の盛り上がりを背景に三十二年七月に設置され、七年近くの調査活動をへて報告書をまとめた。憲法論議で今日、指摘される論点やテーマは「環境権」「プライバシー権」など近年クローズアップされてきた新しい権利を除いて、「ほとんど当時とかわらない」(自民党憲法調査会幹部)との指摘がある。
 制定経緯についても報告書は(1)無条件降伏の意義(2)マッカーサー草案(3)連合国軍総司令部の権限−などを検証した上で、「占領下において制定されたことは明らかであるから、押し付けられ、強制されたものであるとすることも十分正当である」と“押し付け憲法論”を肯定。さらに「日本国民の意思も部分的に織り込まれたうえで、制定された憲法であることも否定できない」としている。
 もちろん制定経緯の事実関係についてはその後も研究が続けられ、大筋で各党ともコンセンサスができつつあり、衆参両院とも制定経過再検証から取り組む方針。改正に積極的な与党幹事の中からは「本当は、いまごろこんな段階では遅きに失している」という声が漏れてきている。
 
◆迫る総選挙 腰据えた議論に「?」
●不透明な性格
 調査会の調査期間は、衆参両院ともおおむね五年間。調査終了後、最終報告書を両院議長に提出するが、「それでどうするかははっきりしない」(衆院調査会事務局)。共産、社民両党を議論の土俵に乗せるため、目標が「改正」であることを公言しにくい空気があり、調査会の目的を「日本国憲法を広範かつ総合的に調査する」ことにとどめたのもこのためだ。
 ただし、衆院の中山太郎会長、参院の村上正邦会長ともに「改憲派」。七十五歳の中山氏は最近も与党幹部に「おれたちの政治生命があるうちに(憲法改正を)やろう」と意欲を語ったという。
 こうした環境を受け、調査会の外からも憲法論議を加速させようとの動きも。自民党山崎派は全所属議員に憲法に対する考えをリポートとして提出させ、今年五月に出版する予定。その後、夏をめどに派としての憲法試案を策定する。また自由党は現行憲法に欠けている改正手続きの法整備のため「憲法改正国民投票法案」(仮称)を今国会に単独でも提出する方針だ。
 ただ衆参の足並みは必ずしもそろっていない。衆院は今年秋までに総選挙があるため、腰を据えた議論ができるかどうか疑問視される上に参院と調査・論議の進み方がずれると予想され「衆参合同調査会の開催なども検討したが、日程の設定一つとっても難しい」(国会関係者)という。
 村上氏は憲法改正のめどを平成二十年としており、改正問題が現実の政治課題となるまでには時間がかかりそうだ。
 
■憲法調査会の権能 日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行う。常任委員会や特別委員会と比べ(1)本会議から案件が付託され、審査結果を本会議で報告することがない(2)自ら法律案を提出する権限がない−点で異なる。調査に必要なら議長を経て、閣僚、最高裁長官らの出席説明や、内閣、官公庁などに必要な報告・記録の提出を求めることができる。
【写真説明】
 衆参両院に設置された憲法調査会の初会合を控え、開催された自民党憲法調査会=自民党本部


 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION