日本財団 図書館


1999/11/03 産経新聞東京朝刊
【主張】憲法公布53年 改正論議をさらに深めよ
 
 現憲法は昭和二十一年十一月三日に公布された。それから五十三年が経過して、いま、憲法改正問題をめぐる状況は劇的に変化しつつある。
 先の自民党、民主党の党首選挙では、いずれも憲法問題が主要な争点となった。「自主憲法制定」を党是としていた自民党の総裁選で憲法がテーマになるのはまだ分かるが、民主党代表選で改憲論を大上段に掲げた鳩山由紀夫氏が当選したのは、時代の趨勢(すうせい)を象徴するものといえた。野党第一党の党首が改憲論者であるなどという事態は、数年前には考えられなかったことだ。
 来年の通常国会から衆参両院に憲法調査会が設置される。自民党が求めた常任委員会構想は退けられ、法案審議ができない調査会となったものの、戦後初めて国会に憲法を論議する場ができる意味合いは大きい。政府委員制度を廃止して、「質疑から討論へ」と国会のあり方が根底から変わろうとしているとき、調査会はその試金石となるはずだ。
 こうした流れからいえることは、自民党から民主党まで、少なくも「論憲」を認める同じ土俵に乗ったという事実である。この枠の外にいるのは、旧態依然として「護憲」の看板にしがみついている社民党と共産党だけだ。
 さらには、学界、経済界、労働界、報道界などで構成される「新しい日本をつくる国民会議」(二十一世紀臨調、亀井正夫会長)が、憲法や教育基本法など国の基本法制の検討を精力的に進めている。「さまざまな分野の基本政策ごとに日本の中長期的課題を論じ、現憲法の可能性と限界をさぐる」という基本スタンスのもとで論議を重ね、超党派の若手議員とも連動して国民運動に高めたい考えだ。
 ジャーナリズムの世界はむろん、民間シンクタンクの報告書などにも憲法がらみの言及が一気に増えた。安全保障、国民の権利と義務、教育といったテーマを引き合いに出すまでもなく、あらゆる側面で日本的システムが行き詰まりをみせているなか、改革論議を詰めていけば憲法にぶつからざるを得ないのである。
 連合国軍総司令部(GHQ)によって押し付けられたという制定過程の問題もさることながら、最近の憲法見直し論に共通するのは、新世紀を目前に、望ましい国家像をさぐる検討作業と密接に結び付いている点だ。国際社会の中での日本のありようといった課題を追求していくと、憲法の壁を抜きにしては回答を導けないのである。憲法をめぐる政治の責務は一段と重くなったといえよう。


 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION