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1993/02/05 産経新聞朝刊
【主張2】国連軍参加の体制整備を
 
 正規の国連軍参加は現憲法でも可能とする自民党の「小沢調査会」の答申が宮沢首相に提出された。一昨年六月、憲法改正問題も視野に入れて論議を開始したのに、この点で後退した答申に物足りなさは残るが、真の国際貢献の在り方と憲法との関係について本格的な問題提起を行い、憲法論議を活性化させたことを評価したい。
 答申の論点の第一は、現憲法が目指す国際協調による「平和主義」は、「国際の平和と安全」を維持するため「有効な集団的措置をとる」ことを第一目的とした国連憲章に何ら矛盾するものではないことである。平和な世界の最大の受益者として経済大国になった日本は、より積極的に国連主導の集団安全保障の枠組みに参加しなければならない。
 それにもかかわらず、憲法九条の条文のあいまいさが、いわゆる「護憲派」の絶対非武装論や、政府・自民党のその場しのぎの「解釈変更」の積み重ねをともに許してきた。これが第二の論点である。結論から言えば、時間はかかっても本格的な改憲作業にとりかかるべき時期である。
 答申はこの点で及び腰だ。新たな「国際的安全保障」という概念を設け、国連の指揮のもとでなら武力行使を行っても「日本国の主権発動の性格を有しない」としているが、この説明では苦しい。現在の政府見解では「国連軍の目的・任務が武力行使を伴うものであれば、自衛隊がこれに参加することは憲法上許されない」。この答申に沿うなら、現実的にはまたも解釈改憲を繰り返すことになる。
 最大の問題は冷戦終結後、続発する地域紛争の処理に国連が中心的役割を果たしていることである。ガリ事務総長が提起した「平和執行部隊」の創設構想は、国連史上初めての憲章七章に依拠するソマリアでの多国籍軍展開に生かされたといえる。旧ユーゴ・マケドニアへのPKFの「予防展開」も同様である。
 昨年、さまざまな制約を課したうえで、やっとPKO協力法を成立させた日本の対応は、目まぐるしい国際情勢の変化から完全に立ち遅れている。国連軍が近い将来結成され得るかどうかは別にして、国連軍参加への体制を整えておくことが必要である。
 本来は政治のリーダーシップによる憲法改正論議の中で解決すべき問題だが、現状では時間がかかりすぎる。その過渡的段階での緊急措置として、小沢調査会の答申の現実的な意味合いがあるといえよう。


 
 
 
 
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