日本財団 図書館


1950/08/11 産業経済新聞朝刊
【社説】警察予備隊に望む
 
 いま時、拳銃や軽機銃位で戦争出来が出来ると思うものはあるまい。余程の近代的準備が無ければ戦争の出来る軍隊としては扱つて呉れまい。警察予備隊にどれだけの武器が装備されるか知らないが、まさかタンクや飛行機まで装備することはあるまいから、これを以て軍隊の再現だという心配はあるまい。
 吉田首相は前の国会で、予備隊は共産軍に対抗するためだと言つて、後でこれは国内の共産勢力を目当てにするのだと訂正したが、外からの共産軍に対抗するためには少くとも対戦車砲かそれ以上のものを備えねば、上陸を阻止することは出来ないことは素人でも判る。これはまた自衛のための義勇軍などと一口に言つても、侵略する相手の武装が高度のものであれば、自衛するだけでも一寸やそつとの武装では何にもならないことと同じである。
 いよいよ警察予備隊七万五千の設置についての政令が十日付で公布され、十三日から九月十五日まで隊員の募集を始めるという。同時に海上保安庁の増員も十九日から九月二日まで募集される。政令第一条に「わが国の平和と秩序を維持し、公共の福祉を保障するのに必要な限度内で」設けるといい、第三条に「治安維持のための特別の必要ある場合に」行動すると規定している。これは特に軍隊化の誤解を避けようという意図から出たものであろう。
 警察が秩序維持のため、公共の福祉保障のために設けられていることは言わなくても判つていることだがとくに予備隊の性格を判つきりさせているものは、第三条である。即ち治安維持のために特別の必要ある場合において、「内閣総理大臣の命を受けて行動する」点である。
 普通の国警は内閣総理大臣が国会の承認を経て任命する国家公安委員会の管理下にあり、都道府県国警も地方自治警察も夫々公安委員会の管理下にある。ところが予備隊は直接総理府の機関として置かれ(第二条)内閣総理大臣の命令で行動することになつている。ところが、警察法第六十二条、第六十三条によると国家公安委員会の勧告に基いて内閣総理大臣が、全国又は一部区域に国家非常事態の布告を出すことが出来る。この場合は国警も自治警察も総理大臣の統制下におかれることになつている。予備隊はいわば、この国家非常事態の首相の統制権を今日の緊急事態に応じて常時化したものと見ることが出来るのである。
 それだけ治安維持力としては強いものとなり得るわけであるが、一方伝家の宝刀は成るべく鞘を離れることなく、その使命を達成することが望ましい。共産党の活動も逐次過激な暴力主義となつて来ているが、これに対しては迅速な処置をとつて予備隊の威力を発揮して、「公共の福祉」を保障せねばならぬ。しかし、予めそういうことを起させないように、警戒警備にその威力を発揮することをより望みたい。たとえば重要な電力源の保護とか、交通の警備とかも望まれる。
 予備隊が政府の私兵と化することは八千万国民の眼と国会が厳に警戒せねばならぬ点である。濫用は厳に戒しめねばならぬ。同時に事に処して敏速な行動のとれる機動性のあるものでなければならない。さらに、このために睨みがきいて、事が起きなくなるようになればなおさら結構なことであるといわねばならない。ヒトラーの再軍備は警察隊を利用したものというが、全然、近代軍隊としての武器もなく軍需工場もない日本では事情が違う。膨大な税金を食う予備隊である。十分集団暴力に睨みのきく予備隊となることを希望する。


 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION