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1954/07/01 産業経済新聞朝刊
【社説】自衛隊の発足
 
 自衛隊が七月一日から発足する。陣容も陸海空三軍を整えたし、兵力も六万四千五百に増強された。装備もMSA援助によって大いに近代化されつつある。その性格も直接侵略に対する防衛という大きな使命が加わり、まさに画期的な転換をとげた。あたかも七月一日からは新警察法が実施される。また秘密保護法も実施となる。国際的不安のなかにあるとはいえ、防衛力、治安力が総理大臣の指揮下に次第に強化されてゆく現状は、決して明るいものではない。国の自衛、治安の必要は認めるとしても、これは一歩を誤れば再び昔の軍閥国家、警察国家の愚を繰返さないとも限らない危険な要素を内包しているのである。これを救うものは国民の声が切実に政治に反映されることであり、国民として、これらの強い力のあり方を監視すると同時に、これに対する国民の声をふさごうとするような動きがあったら、それこそ民主政治の危機として強く反対せねばならぬのである。
 今日の自衛隊の前身は四年前、警察予備隊として誕生した。それが二年後には保安隊に生れかわり、さらに自衛隊へと発展した。警察予備隊は国●、自●の警察力を補うものと定められていた。いわば駐留米軍が朝鮮戦線に急遽出動したあとの治安力を補う目的だった。それが陸の保安隊、海の警備隊とかわると、間接侵略に備えて治安出動の任務が明確にされ、さらに自衛隊となると直接侵略にも対抗することとなった。組織としても統合幕僚会議が設けられた。また任期三年の予備自衛官の制度ができた。安保条約において、防衛力の●増に責任を持つことを「期待」されていた時代から、MSA協定によって「個別的、集団的自衛のため効果ある方策を推進する能力を高めるべき自発的措置」を強く「希望」され義務づけられたことに対応するものであろう。
 自衛力いかんということは常に国際情勢に影響されるだろう。周、ネール会談で相互不可侵が謳われても、まだこの相互不可侵を保証する制裁力をも必要がないという事態にまで達していない。常に平和主義を唱えるネール首相も「今持っている武力を棄てることはできない」と語っている。それは世界の情勢と国内の治安がそこまで来てないからである。だが、われわれが恐れねばならぬのは、自衛力と称する力があらぬ方向に逸脱することである。帝国主義的な意図の下に行使されたり、あるいは軍事的にしか物を考えない人々によって支配され、またはこの力を以って民主政治を破壊しようとすることの危険である。
 昔の軍部横暴にこりて文官優位ということが叫ばれているが、自衛隊への切替えとともに、内局と対立する統幕事務局が生れ、また任用制限の撤廃でこの原則は崩れ去ろうとしているといわれる。だが、警戒されなくてはならないのは制服であろうと文官であろうと、その考え方が軍事的のみに閉込められた頭脳であり、これが排除されなくてはならない。軍人まがいの考え方にとらわれた文官は軍人よりも始末の悪いものとされている。文官優位の原則はただ制度だけの問題ではない。政治が国民のための政治であり、その政治が完全に自衛力を掌握することによって文官優位の原則がほんとうに確立される。形だけ文官優位でも、この文官がぼんくらだったら、結局、制服にぎゅうじられてしまう。その結果はまことに恐るべきものがある。海外派兵の問題の如きも、国民の声が政府、国会を通して確実に反映される政治が行われる限り、自然と解消するといっても過言でない。
 急テンポに増強される防衛力に対処して、憲法を改正してその●力を確立する問題とか、自衛隊の指導精神の問題とかがいわれているが、これとともに今日この情勢に対応して、何にもまして必要なことは、政治の健全化である。民主政治が完全に軌道に乗っていなければ、自衛力も警察力もこれを利用して道をふみはずさせようとする者が牙を出すのである。国民によるこれらの力の完全な統御が、国会および政府を通じて行われる道を確立することが最大の要件といわねばならない。

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