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2000/02/18 読売新聞朝刊
[社説]論憲に必要な制定過程の検証
 
 国会で包括的な憲法論議が行われるのは現行憲法下で初めてのことだ。十六日は参院、十七日には衆院の憲法調査会が議論を開始した。
 初会合では、各党がそれぞれの取り組み姿勢を表明した。基本的には、自民党、自由党が憲法改正推進、公明党、民主党が改憲の是非を保留したままの論憲、共産党、社民党は改憲反対という立場だ。
 今後の議論の進め方については、まだ詰まっていないが、両院の調査会とも、当面は憲法制定過程の検証から始める方向のようだ。妥当な手順である。
 二十一世紀を展望しつつ、現行憲法を総点検してみようということであれば、その制定過程にまでさかのぼって点検するのは当然だろう。
 なによりも、戦後生まれの人の多くは、現行憲法がどのように制定されたか、よく知らないだろう。国会での制定過程点検は、そうした世代に憲法を見直すためのよい材料を提供することになろう。
 それに、それ以前の世代、たとえば青少年期に「新憲法」に触れて感激した世代でも、制定過程について詳しくは知らない人が少なくないのではないか。
 敗戦後の日本は連合国軍総司令部(GHQ)による検閲・言論統制下に置かれていたからだ。なかでも憲法草案がGHQによって作成されたという事実は、もっとも厳しい検閲対象の一つとされ、公表を禁じられていた。
 だから、憲法前文が米国憲法をはじめ米国の著名な複数の政治文書の切り張りであることなど、当時の国民はまったく知らなかった。
 国会は、制定過程の検証に際して、そうしたGHQによる検閲・言論統制の実態についても検証すべきである。戦後日本の総括にもつながる性格の作業にもなろう。
 ただし、現行憲法に盛られた国民主権・議会制民主主義、基本的人権の尊重、平和主義などの基本原理が、戦後日本の発展の基盤になったことは、正当に評価されるべきである。
 今後の手順に関連して、参院の調査会では、次期参院選で半数が改選となる前に、つまり一年半以内に中間報告をまとめるべきだという意見があった。一つの見識といえるだろう。
 国会の論議を国民的論議につなげようというなら、参院選などという区切りを待たずとも、もっと頻繁に中間まとめのようなものを出してもよい。両院の調査会とも、一つのテーマについて一段落つくごとに報告書を出す、ということがあってもいいのではないか。
 また、参院では、調査期間は二年を目標とすべきだという意見、衆院では、三年目には新憲法の概要を示し五年目には新憲法を制定すべきだとの意見も出された。
 今後の調査・議論の進展状況、国民世論の動向によっては、そういうことがあってもいいだろう。
 変化の早い時代である。国の基本法を整え直すのも早い方がよい。


 
 
 
 
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