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2000/01/21 読売新聞朝刊
[社説]国会に「論憲」の舞台が整った
 
 「論憲」の時代が始まった。
 第百四十七通常国会初日の二十日、衆参両院に憲法調査会が設置された。国会に憲法問題を専門に議論する場が設けられたのは、現憲法下では初めてのことである。
 衆院の中山太郎調査会長が述べているように、「日本の戦後史上、一つの新しい日を迎えた」といっていい。
 一九五七年から六四年にかけて活動した政府憲法調査会には、当時の野党第一党だった社会党や共産党は参加しなかった。こんどの憲法調査会には、共産党、社民党も参加する。いわゆる護憲派も、「論憲」を拒否することは出来ない時代になったことを示している。
 憲法を議論するということは、二十一世紀の日本はいかにあるべきなのか、を議論するということである。逆に、日本の将来像を議論する時に、憲法論議を避けて通るわけにはいかない。
 小渕首相の私的諮問機関「21世紀日本の構想」懇談会が先にまとめた報告内容も、基本的には憲法次元からの議論、つまりは憲法改正を視野に入れた議論が必要である問題が多い。
 それを議論する場としては、国権の最高機関であり国民代表の集まりである国会こそが、最もふさわしい。
 「論憲」に向けて、各政党内でもいろいろな準備が進んでいるようだ。
 自民党内には、現行憲法制定過程の再検証に力点を置くとの動きもあるという。制定過程の再検証は、戦後史の総括にも結びつくだろう。
 民主党は、党内の憲法調査会を党首直属機関に格上げし、鳩山代表は、二、三年以内に独自の憲法改正試案を作成する意向を表明している。野党第一党のこうした姿勢が、「論憲」への環境づくりに果たした役割はきわめて大きい。
 また、自由党は、独自に憲法改正国民投票法案を提出するという。憲法に国民投票による改正規定があるのだから、その手続法を定めないまま放置していたのは、国会の怠慢というべきだった。これも「論憲」を進める上で、重要なポイントである。
 その他、超党派の議員団や派閥単位の憲法研究会もある。
 参院調査会の村上正邦会長は、八年後の憲法改正に言及している。しかし、民主党やそうした研究集団が次々と憲法改正試案を世に問うことになれば、国民の側の「論憲」にも、もっと早い時期に弾みがつくのではないだろうか。それが急速に変動する時代の要請でもある。
 条文ごとの検討課題としては、いろいろとあろう。憲法九条も、もちろん検討対象とすべきである。
 すでに多様な議論が出ているが、国民主権・議会制民主主義、基本的人権の尊重、平和主義など現行憲法の基本原理は堅持すべきだという点では、すべての議論が一致している。
 そうした基本原理を踏まえつつも、自由闊達(かったつ)な、タブーなき「論憲」が展開されることを期待したい。


 
 
 
 
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