2000/04/15 読売新聞朝刊
「憲法に関する意識」 読売新聞社全国世論調査 28―31面=特集
◆生きた憲法を求める声 環境、危機管理にも視線
◎国民と衆参憲法調査会メンバー 憲法観を探る
読売新聞社の憲法に関する全国世論調査では、「憲法改正」賛成論が初めて6割に達するとともに、若い世代から高齢者まであらゆる世代で賛成派が増加するなど、国民の間で憲法改正をめぐる合意形成が一段と進んでいることを強く印象づけた。今回は同時に、衆参両院に設置された憲法調査会の全メンバーを対象に、アンケート調査を実施、憲法論議を展開中の議員たちの憲法観を探ったが、これにより国民と議員たちの憲法についての意識の共通点や差異が鮮明に浮かび上がった。(本文記事1面)
〈関心項目〉
◇Q1
◆9条問題、最大の焦点
日本の憲法のどのような点に関心を持っているかを聞いたところ、「戦争放棄、自衛隊の問題」が37%で最も多かった。この項目は、81年の調査開始以来、昨年を除いて最大の関心を集めてきたが、憲法に対する国民の関心が高まる中、憲法改正論議の“核心”である憲法9条問題が改めてクローズアップされた形だ。
2位は、「環境問題」(31%)で、「プライバシー保護の問題」(24%)、「情報公開の問題」(20%)――の順。いずれも、最近になって関心を呼んでいるもので、社会の新たな課題でありながら、憲法上の規定の不備が指摘されているテーマばかりといえる。
憲法改正賛成派と反対派がどんな点に関心を持っているか、その傾向を比較すると、どちらも「戦争放棄、自衛隊の問題」に対する関心が最も強く、賛成派で40%、反対派で41%にのぼっている。ただ、それ以外の項目に対しては、おおむね賛成派の方がより強い関心を示しており、「情報公開」で8ポイント、「環境問題」で5ポイント、「プライバシー」で3ポイント、それぞれ反対派を上回っているのが目立つ。
「裁判の問題」が15%で、昨年より4ポイント増えたのは、裁判への一般国民の参加をはかる陪審・参審制の導入など司法改革の論議が本格化していることが背景にあるものとみられる。
今回、関心項目を問う質問で、少なくとも1つ以上の項目をあげた人が、昨年調査の79%から85%に増えた。この割合は過去最高で、国民の関心の高まりを裏付ける一つの数字といえそうだ。
〈現実との矛盾〉
◇Q2
◆感じる70% 改正反対派でも56%が認識
現行憲法の規定と政治や社会の実態との間で、矛盾を感じることがあるかどうかを聞いた。その結果、「ある」と答えた人は、「大いに」と「多少は」を合わせて70%に上り、「矛盾を感じることはない」25%を大幅に上回った。
矛盾を感じる人の比率は、この設問を設けた97年調査以来、常に7割前後の高率で推移しており、こうした感覚は多くの人が共有しているといえる。
矛盾を感じるとする人は、働き盛りの30―50歳代で、それぞれ7割を超えているが、とりわけ30、40代は各75%と高い。さらに憲法改正賛成派では81%が矛盾を感じると答えたのに対して、改正反対派でも矛盾を認識している人が56%と半数を超えている。
「矛盾を感じる」人の憲法への関心項目をみると、41%の人が「戦争放棄・自衛隊の問題」をあげたほか、「環境問題」34%、「プライバシー保護の問題」28%、「情報公開の問題」25%など、すべての項目で全体平均を上回っている。
〈改正の是非〉
◇Q3
◆賛成、30歳代が最高66% 70歳以上は16ポイントの大幅増
憲法改正の是非について、「改正する方がよい」と答えた人は60%で、過去最高だった昨年より7ポイント増え、1981年の調査開始以来、初めて6割台に達した。「改正しない方がよい」は過去最低の27%で、初めて3割を切った。
改正賛成派は80年代には2割台にとどまっていたが、93年に初めて5割を超え多数派となった。その後、94、96、97年に“過半数割れ”したが、98年に再び5割台を回復してからは、3年連続最高値を更新した。これまでで改正賛成派が最も少なかった86年(23%)と比べると、30ポイント以上の増加ぶりで、改正に賛意を示す声は国民の間にかなり定着したといえそうだ。
憲法の規定と政治や社会の実態との間で矛盾を感じる人が多数派を占めていることや、各方面で憲法論議の輪が広がる中、衆参両院に憲法調査会が設置されたことが、改正賛成派の増加に追い風となっているようだ。
年代別に見ると、改正を望む人は、30歳代(66%)を最高に40歳代以下の各年代でいずれも6割を超え、最も少ない70歳以上(51%)でも初の5割台に達し、その結果、賛成派の比率が初めて全年代で5割を超えた。なかでも、70歳以上は、昨年比16ポイントの大幅増となっており、従来から改憲賛成派が多い若年層だけでなく、改正論が幅広い年齢層に浸透している。
また、支持政党別では、自民62%、民主65%、公明76%、自由67%、社民53%と、共産(46%)を除く各党支持層で改憲賛成派が5割を超えた。改憲賛成派は、社民支持層を除くすべての政党支持層で昨年より増えているが、とりわけ公明支持層は13ポイントと際立った伸びをみせている。
〈改正する理由〉
◇Q4、5、6
◆国際貢献などに対応必要46%
憲法を改正する方がよいと答えた人に、そう思う理由をあげてもらったところ、「国際貢献など今の憲法では対応できない新たな問題が生じているから」が46%でトップ。以下、「権利の主張が多すぎ、義務がおろそかにされているから」31%、「憲法の解釈や運用だけで対応すると混乱するから」30%、「アメリカに押しつけられた憲法だから」28%、「国の自衛権を明記し、自衛隊の存在を明文化するため」22%――の順だった。
これらの理由や数値は、ここ数年、大きな変化はみられないが、今回「アメリカに押しつけられた憲法だから」が昨年より4ポイントの増となった。
これは、憲法調査会で憲法制定の経過や背景をめぐる論議が行われたことが影響しているようだ。
「国際貢献など新たな問題が生じているから」を挙げた人は、20歳代の55%を最高に40歳代以下の若い層で全体平均を上回っている。これに対して、「アメリカに押しつけられた憲法だから」はおおむね上の世代ほど比率も高く、60歳代(40%)では20歳代(20%)の2倍にも達するなど、年代間の意識格差が際立っている。
改正賛成派にどのような形で改正するのがよいか聞いた結果では、制定時に想定していなかった不足部分を補足したり、不都合な部分を修正するという意見が合計8割を超えている。ただ、「新しい憲法を制定する」が今回16%で、4年前の調査に比べて7ポイントも増えているのは注目していいようだ。
一方、憲法を改正しない方がよいと思う人に、その理由をあげてもらったところ、「すでに国民の中に定着しているから」53%、「世界に誇る平和憲法だから」37%、「基本的人権、民主主義が保障されているから」23%などの順で多く、この5年間、大きな変化はみられない。
〈具体的課題〉
◇Q7
◆「自衛権明記を」73% 憲法改正反対派でも59%
現行憲法に対する改正論議の具体的な五つのポイントをあげ、修正についての賛否をきいた結果、各項目とも「その通りだと思う」との賛成意見が6―7割超にのぼった。5項目中4項目で、賛成意見が昨年より増えており、新たな課題に沿って憲法の修正を求める声が高まっていることを改めて裏付けた。
まず、国として自衛権を持っていることをはっきり書いた方がよいかどうかをきいたところ、明記賛成派が73%に達し、反対派18%の4倍強にのぼった。明記に賛成する人は、昨年調査より2ポイント増えており、この設問を設けた95年調査開始以来最高となった。
明記賛成派を支持政党別に見ると、公明、自由支持層が各79%、自民、民主支持層が各78%で、いずれも高い。かつて自衛隊の存在を違憲と決め付けた社民党の支持層でも、賛成派は71%にのぼっている。
また、明記に賛成する人は、憲法改正反対派でも59%を占め、改正賛成派でなくても、自衛権明記については、かなりの理解があることをうかがわせる。
国際機関の平和活動や人道的支援に、自衛力の一部を提供するなど、積極的に協力することをはっきり書いた方がよいか――では、「その通り」と答えた賛成派が70%を占め、昨年比3ポイントの増となった。こちらも95年以来の最高値。支持政党別では、公明支持層で8割を超えた。
PKO(国連平和維持活動)への協力実績の積み重ねが、国際貢献に対する国民の理解を深めているものとみられ、PKF(国連平和維持隊)の本体業務の凍結解除についても、今後、より具体的な議論が必要になりそうだ。
◆新たな権利 人格権や環境権「盛り込み望む」74%
緊急事態に対応できるように、首相や内閣の権限を強化する規定を設けた方がよいかどうかについては、「その通り」が64%を占めた。この意見は、阪神大震災直後の95年調査では90%に達し、その後はずっと下降傾向をみせていたが、今回は昨年比3ポイントの上昇に転じた。昨年9月、茨城県東海村で起きた国内初の臨界事故での政府の対応の遅れなどが、危機管理体制の重要性を再認識させたこともあるようだ。
衆議院と参議院のそれぞれの役割を見直した方がよいかどうかでは、「その通り」という賛成派が70%で、昨年より3ポイントアップした。
参院改革については今年初め、参院議長の私的諮問機関である有識者懇談会が、「再考の府」としての参院の役割を明確にするという趣旨の答申を行っているほか、国会の憲法調査会でも大きな論点になっており、今後とも改革論議の行方が注目を集めそうだ。
人格権やプライバシー権、環境権など、新たな権利についての考え方を、憲法に盛り込むべきかどうかについて聞いたところ、「その通り」は74%で、昨年より2ポイントの減だった。
新たな権利を盛り込むことに賛成する人は、若い層に目立ち、20歳代では88%に達した。また、現行憲法の規定と、政治や社会の実態との間で矛盾を感じている人では、78%が新たな権利を盛り込むべきだとしている
〈憲法調査会〉
◇Q8、9、10、11、13、14
◆国民「関心ある」ほぼ半数 議員「5年以内報告書」8割
今年1月、衆参両院に憲法調査会が設置され、本格的な憲法論議が初めて国会を舞台に展開されることになった。
そこで、憲法調査会の活動に関心があるかどうかをきいたところ、「関心がある」が「大いに」「多少は」を合わせて45%にのぼり、「関心がない」51%とほぼ意見を二分した。
年齢別にみると、「関心がある」は、40歳代の51%を最高に、40―60歳代でそれぞれ全体平均を上回ったものの、20歳代は32%、70歳以上は38%と、いずれも3割台にとどまった。
支持政党別では、民主支持層の関心度が55%で最も高く、自民支持層は48%。他の政党支持層や、支持政党を持たない「無党派層」も、それぞれ4、5割台とほぼ同レベル内に収まっており、それほど大きな差はみられない。
憲法調査会への関心度は、改正反対派より賛成派の方が高いが、賛成派でも、「関心がある」(53%)に対して「関心なし」(44%)も半数近くを占めている。
憲法調査会が法案提出権を持っていないことや、論議の中身がまだ周知されていないことなどから、改正賛成派がイコール関心派とは言えないようだ。
調査会で優先的に議論してほしいと思うテーマでは、「国民投票制などの導入で国民の政治参加の道を広げるかどうか」が39%で最も多かった。以下、「自衛隊が国連軍に参加できるようにするかどうか」「地方の役割や権限を強化するかどうか」「環境権など新たな権利の規定を加えるかどうか」「参院の役割や権限を見直すかどうか」だった。
これに対し、憲法調査会メンバーには、優先的に議論したいと思うことを聞いたところ、上位の5項目は同じものだった。
一方、「憲法の改正規定を緩やかにするかどうか」については、世論調査の11%に対し、調査会アンケートでは20%が議論したいテーマとしてあげている。「前文など翻訳調の表現を改めるかどうか」も、調査会アンケートの数値(23%)が世論調査を20ポイント近く上回っており、議論すべき事柄についての認識に差もみられた。
世論調査で、憲法調査会の議論の進め方について聞いた結果は、「時間をかけて議論し、報告書のまとめが遅くなっても構わない」が52%で、「議論を迅速に進め、できるだけ早く報告書をまとめる」40%を上回った。憲法改正賛成派では両者がほぼ同率なのに対し、反対派では、「時間をかけて」が3分の2近くを占めている。
これに対して、憲法調査会のアンケートでは、報告書の作成時期を、各党が申し合わせた調査期間の5年後にすべきかどうかという点に力点を置いて聞いたが、「予定通り5年後」41%と「5年後にこだわらず、できるだけ早く」40%が合わせて8割強を占め、「5年後より遅くなっても構わない」は14%と少数派にとどまった。
また、憲法調査会はどのような姿勢で議論を進めてほしいかとの質問では、「憲法改正を前提に」30%と、「現行憲法の維持を前提に」29%がほぼ並び、「前提を一切設けない」も31%にのぼるなど、ほぼ三分された。これに対し、憲法調査会の側では、「改正を前提に」議論を進めるという議員が半数近くを占め、「現行憲法の維持を前提に」と答えたのは社民、共産両党のメンバーだけだった。
〈次期衆院選〉
◇Q12、15
◆「投票の判断材料に」34% 調査会メンバー「争点にする」が過半数
次の衆院選で投票する候補者や政党を決める時に、憲法問題への姿勢を判断材料にするかを聞いたところ、「する」(34%)と「しない」(35%)がほぼ同率で並んだ。これに対して、憲法調査会のメンバーに、憲法問題を争点に取り上げるかを聞いた結果、58%が「訴えたい」と答えた。
次期衆院選に向けては、自民党山崎派が憲法改正を選挙公約にすることを既に申し合わせている。また、昨年9月の自民党総裁選では憲法問題が争点の一つとなったほか、同時期の民主党代表選では、鳩山代表が憲法改正を問題提起するなど、最近、各党、各議員が憲法についての見解を進んでアピールし始めている。
近く予想される衆院選で、憲法改正がどこまで争点になるかは未知数だが、「判断材料にする」と答えた人は、憲法改正反対派30%より、改正賛成派39%の方に多い。また、憲法の規定と、政治や社会の実態との間で矛盾を感じることが「ある」という人では、「判断材料にする」が39%で、「しない」と答えた人の倍近くにのぼった。
【衆参憲法調査会メンバーの回答分析】
◆憲法本格論議が始動 新世紀へ論点多様化
◎憲法調査会 5年めど最終報告
施行から半世紀以上を経た現行憲法について「広範かつ総合的に調査」することを目的に今通常国会開会日の1月20日、衆参両院に設置された。昭和30年代に内閣に憲法調査会が設置された例はあるが、現行憲法下の国会で本格的な憲法論議が行われるのは初めて。会長は衆院が自民党の中山太郎・元外相、参院が村上正邦・自民党参院議員会長。
97年5月、中山氏ら超党派の国会議員が「憲法調査委員会設置推進議員連盟」を発足させ、憲法問題を審議する常任委員会の設置を求める運動を開始したのがきっかけ。その後99年2月、自民、民主、公明、自由、改革クラブの5党が議案提出権のない調査会を設けることで合意し、7月に改正国会法が成立した。設置に反対した共産、社民両党も調査会に参加した。両調査会ではこれまで、制定過程調査のための参考人聴取や自由討論などが行われてきた。会合は原則公開で、各党の申し合わせにより、発足後5年をめどに最終報告をまとめることになっている。
〈改正する理由 改正しない理由〉
◇Q3
◆「新たな問題対応が必要」 「国民の中にすでに定着」
憲法改正の是非について、回答者八十人中五十五人(自民三十六、民主九、公明一、自由六、改革ク一、無所属の会二)が「改正する方がよい」と答えたが、その理由(複数回答)としては、「国際貢献など今の憲法では対応できない新たな問題が生じているから」(四十三人)、「憲法の解釈や運用だけで対応すると混乱するから」(四十一人)、「国の自衛権を明記し、自衛隊の存在を明文化するため」(四十人)がほぼ並んだ。「アメリカに押しつけられた憲法だから」を選んだのは自民、自由両党の十二人だった。
一方、「改正しない方がよい」と答えた十二人(民主一、共産七、社民四)にその理由を聞いた(複数回答)ところ、「世界に誇る平和憲法だから」(十一人)、「基本的人権、民主主義が保障されているから」(九人)、「すでに国民の中に定着しているから」(七人)の順に多かった。
〈関心事項〉
◇Q1
◆環境68%、地方自治64% 「戦争放棄・自衛隊」は88%
憲法論議の論点が数ある中で、委員たちはどんな問題に関心を持っているのか。複数回答で選んでもらった項目の中では、第九条に関連した「戦争放棄、自衛隊の問題」が最も多く、回答者八十人中七十人(88%)がこの項目を選んだ。
これは、九七年三月に読売新聞が全国会議員を対象に実施した憲法に関するアンケート調査の結果(全体の82%が選択)と同じ傾向だ。ただ、このときは他の項目がほとんど五割以下で関心が一点に集中していたのに対し、今回は「環境問題」が五十四人(68%)、「憲法改正」が五十一人(64%)、「地方自治」が五十一人(64%)にのぼるなど、憲法論議の高まりに伴い、関心事項が多様化していることがうかがえる。
政党別では、主要六党のうち自民、自由、共産、社民の四党で「戦争放棄、自衛隊の問題」がトップを占め、改憲、護憲両派とも、この問題を最重要視している状況がわかる。
一方、改憲、護憲両派が混在し、とくに九条問題では意見が分かれている民主党では「地方自治」がトップ、論憲の立場を取る公明党では「プライバシー保護」「環境問題」が最も多く、それぞれの党内事情が回答ぶりに表れた。
〈9条問題〉
◇Q16
◆改正派が半数超す 「自衛権明記」も64%
憲法論議の焦点である第九条の扱いについては、「全面的に改正すべきだ」が十八人(23%)、「戦争放棄を掲げた一項はそのままにして、戦力不保持や交戦権否認を掲げた二項を改正すべきだ」が二十六人(33%)で、改正派は合わせて四十四人と半数を上回った。「改正すべきでない」は十八人だった。
政党別では、自民党は三十九人中三十人が改正派で「二項のみ改正」(十八人)が「全面改正」(十二人)を上回った。自由党は六人とも改正派で「全面改正」の方が多かった。
自自両党の九条改正志向に対し、公明、共産、社民三党では改正派はゼロと対照的。とくに共産、社民両党は全員が「改正すべきでない」と答えた。公明党も六人中五人が改正反対で、憲法論議に柔軟な同党でもこと九条問題に限っては護憲姿勢が強いことがわかる。
民主党は意見が分かれ、十五人中改正派六人に対し改正反対が二人。「論憲」などのその他の意見が六人にのぼった。
九条問題に関連した設問で、「国として自衛権を持っていることをはっきり書いた方がよい」との意見について、「その通りだと思う」とした回答は五十一人(64%)、「そうは思わない」は十三人(16%)だった。
〈公共の福祉〉
◇Q17
◆「個人の権利重視しすぎ」 自民議員の7割以上
「公共の福祉」と「個人の権利」の調和をどうはかるかは社会のあり方を考えるうえで重要な視点で、憲法で権利と義務をどう規定するかにもかかわってくる。
現行憲法は 〈1〉個人の権利の尊重を重視しすぎていて、公共の福祉がおろそかにされている 〈2〉公共の福祉を重視しすぎていて、個人の権利が必要以上に制限されている 〈3〉公共の福祉と個人の権利の調和がよくとれている―― のどれに該当するかを聞いた。
結果は 〈1〉三十八人(48%)〈3〉十七人(21%) 〈2〉二人(3%)の順。 個人の権利が重視されすぎているとの見方が半数近くにのぼった。
政党別では、自民党は〈1〉が三十九人中三十人と圧倒的に多かったのに対し、民主党は〈3〉が十五人中八人と過半数を占めた。世代別にみると、六十歳以上は四十二人中二十五人と半数以上が〈1〉を選んだのに対し、三十―五十代では〈1〉は三十八人中十三人と半数以下。年齢が高くなるにつれ、「公共の福祉」軽視の現状を嘆く度合いが高くなっているようだ。
〈二院制〉
◇Q18
◆「現行のままで」21% 「参院権限強化」19%
衆参両院の役割分担が明確でなく参院が「衆院のカーボンコピー」と言われて久しい二院制の問題は国会改革の重要な論点。参院議長の私的諮問機関の「参院の将来像を考える有識者懇談会」では憲法改正も視野に入れた抜本的な改革案について議論を進めている。
ただ、どうすれば参院の独自性が発揮されるような制度となるか、具体策となるとなかなか難しい。「参院の権限を強め、衆院と対等にすべきだ」「参院の権限を弱め、衆院に対するチェック機関的な位置付けにすべきだ」「参院を廃止して一院制にすべきだ」「今のままでよい」の四つから選んでもらった。
結果は、「今のままでよい」が十七人(21%)で最も多く、「参院権限強化」(十五人、19%)と「参院権限縮小」(十三人、16%)が続き、「一院制」は二人にとどまった。
この問題は衆院と参院で傾向が分かれ、衆院では「参院権限縮小」と「今のままでよい」が多く、四十四人中ともに十人。参院では「参院の権限強化」が多く三十六人中十二人だった。
どの項目も選ばず、その他の意見を挙げた回答も全体で三十人にのぼり、この問題での意見集約が難しいことをうかがわせた。
衆参憲法調査会委員は衆院50人、参院45人。このうち衆院6人、参院9人の計15人からは「時間がない」「答える立場にない」「アンケートには答えないことにしている」などの理由で回答が得られなかった。また、衆院憲法調査会委員だった民主党の福岡宗也氏は今月11日に死去、以前から島聡氏が代わりに出席していたため、島氏に回答してもらった。
回答が得られなかった15人は次の通り。(敬称略)
【衆院】 久間章生、田中真紀子(以上、自民)、鹿野道彦、仙谷由人(以上、民主)、倉田栄喜、平田米男(以上、公明)
【参院】 村上正邦、陣内孝雄、服部三男雄、阿南一成、岩井国臣、武見敬三(以上、自民)、北沢俊美、角田義一(以上、民主)、佐藤道夫(二院ク)
〈質問と回答〉
数字は% ( )内の数字は衆参両院憲法調査会議員アンケートの回答
◆Q1 あなたは、今の日本の憲法のどんな点に関心を持っていますか。次の問題は、すべて憲法に関係するものですが、あなたがとくに関心を持っているものを、いくつでもあげて下さい。
・天皇や皇室の問題 |
12.4(35.0) |
・戦争放棄、自衛隊の問題 |
37.1(87.5) |
・平等と差別の問題 |
17.7(30.0) |
・言論、出版、映像などの表現の自由の問題 |
15.8(40.0) |
・情報公開の問題 |
20.4(41.3) |
・プライバシー保護の問題 |
24.3(47.5) |
・生存権、社会福祉の問題 |
17.8(41.3) |
・環境問題 |
30.6(67.5) |
・集会やデモ、ストライキ権の問題 |
1.6(15.0) |
・選挙制度の問題 |
13.4(35.0) |
・裁判の問題 |
15.4(30.0) |
・靖国神社への公式参拝の問題 |
7.2(37.5) |
・憲法改正の問題 |
13.3(63.8) |
・三権分立の問題 |
5.5(35.0) |
・地方自治の問題 |
12.0(63.8) |
・国会の二院制の問題 |
5.5(51.3) |
・とくにない |
5.3(45.0) |
・その他、答えない |
15.0(28.8) |
|
◆Q2 あなたは、今の憲法の規定と、政治や社会の実態との間で、矛盾を感じることがありますか、ありませんか。
・大いにある |
22.9(61.3) |
・多少はある |
46.6(25.0) |
・あまりない |
20.6(5.0) |
・全くない |
4.5(―――) |
・答えない |
5.4(8.8) |
|
◆Q4 【Q3で「改正する方がよい」と答えた人だけに】
あなたが改正する方がよいと思う理由は何ですか。次の中から、いくつでもあげて下さい。
・アメリカに押しつけられた憲法だから |
27.9(21.8) |
・国の自衛権を明記し、自衛隊の存在を明文化するため |
21.7(72.7) |
・権利の主張が多すぎ、義務がおろそかにされているから |
30.8(43.6) |
・憲法の解釈や運用だけで対応すると混乱するから |
29.6(74.5) |
・国際貢献など今の憲法では対応できない新たな問題が生じているから |
45.7(78.2) |
・その他 |
2.1(14.5) |
・答えない |
3.4( ―――) |
|
◆Q5 【Q3で「改正する方がよい」と答えた人だけに】
あなたは、どのような形で改正するのがよいと思いますか。次の中から、1つだけあげて下さい。
・制定時に想定していなかった不足部分を補足する |
10.2( ―――) |
・制定時からの時代の変化で不都合な部分を修正する |
30.7( 9.1) |
・不足部分の補足と不都合な部分の修正を両方とも行う |
39.9(52.7) |
・新しい憲法を制定する |
16.1(29.1) |
・その他 |
0.1(5.5) |
・答えない |
3.0( 3.6) |
|
◆Q6 【Q3で「改正しない方がよい」と答えた人だけに】
あなたが改正しない方がよいと思う理由は何ですか。次の中から、いくつでもあげて下さい。
・すでに国民の中に定着しているから |
53.3(58.3) |
・世界に誇る平和憲法だから |
37.2(91.7) |
・基本的人権、民主主義が保障されているから |
23.1(75.0) |
・時代の変化に応じて、解釈、運用に幅を持たせればよいから |
22.1( ―――) |
・改正すると軍事大国への道を開くおそれがあるから |
21.1(50.0) |
・その他 |
1.2(8.3) |
・答えない |
2.9( ―――) |
|
◆Q7 今の憲法に対する意見を5つ読みあげますので、あなたが、その通りだと思うか、そうは思わないかを、順にお答え下さい。
◇「国として自衛権を持っていることをはっきり書いた方がよい」という意見については、その通りだと思いますか、そうは思いませんか。
・その通りだと思う |
72.5(63.8) |
・そうは思わない |
17.6(16.3) |
・答えない |
9.9(20.0) |
|
◇「国際機関の平和活動や人道的支援に、自衛力の一部を提供するなど、積極的に協力することをはっきり書いた方がよい」という意見についてはどうですか。
・その通りだと思う |
69.9(60.0) |
・そうは思わない |
20.4(17.5) |
・答えない |
9.7(22.5) |
|
◇「緊急事態に対応できるように、首相や内閣の権限を強化する規定を設けた方がよい」という意見についてはどうですか。
・その通りだと思う |
63.7(58.8) |
・そうは思わない |
27.5(20.0) |
・答えない |
8.7(21.3) |
|
◇「人格権やプライバシー権、環境権など、新たな権利についての考え方を盛り込んだ方がよい」という意見についてはどうですか。
・その通りだと思う |
74.1(63.8) |
・そうは思わない |
16.0(17.5) |
・答えない |
9.9(18.8) |
|
◇「国会の衆議院と参議院のそれぞれの役割を見直した方がよい」という意見についてはどうですか。
・その通りだと思う |
69.8(62.5) |
・そうは思わない |
17.5(17.5) |
・答えない |
12.8(20.0) |
|
◆Q8 今の通常国会から、憲法問題を議論する場として、衆議院と参議院に「憲法調査会」が設置されました。あなたは、この憲法調査会の活動に、関心がありますか、ありませんか。
・大いに関心がある |
14.9 |
・多少は関心がある |
30.0 |
・あまり関心がない |
34.8 |
・全く関心がない |
15.7 |
・答えない |
4.7 |
|
◆Q9 次の憲法問題の争点のうち、あなたが、この憲法調査会で優先的に議論してほしいと思うものがあれば、3つまであげて下さい。(議員へのアンケートでは、優先的に議論したいと思うものを3つまであげてもらった)
・自衛隊が国連軍や多国籍軍に参加できるようにするかどうか |
37.7(37.5) |
・参議院の役割や権限を見直すかどうか |
25.9(25.0) |
・首相公選制や国民投票制などの導入で国民の政治参加の道を広げるかどうか |
38.7(28.8) |
・地方の役割や権限を強化するかどうか |
32.7(37.5) |
・憲法の改正規定を緩やかにするかどうか |
10.7(20.0) |
・環境権など新たな権利の規定を加えるかどうか |
29.1(38.8) |
・陪審制など裁判に一般国民を参加させるかどうか |
15.7(―――) |
・私学助成を禁止している条文を見直すかどうか |
8.0(13.8) |
・前文などの翻訳調の表現を改めるかどうか |
3.3(22.5) |
・その他、とくにない、答えない |
16.8(30.0) |
|
◆Q10 この憲法調査会は、議論の成果をいずれ報告書にまとめることにしています。議論の進め方について、次の2つの意見のうち、あなたの考えに近い方をあげて下さい。【対応質問ありQ13】
・変化の激しい時代なので、議論を迅速に進めて、できるだけ早く報告書をまとめる方がよい |
40.4 |
・憲法は慎重に扱わなければならない問題なので、時間をかけて議論し、報告書のまとめが遅くなっても構わない |
51.7 |
・答えない |
8.0 |
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◆Q11 あなたは、この憲法調査会のメンバーには、どのような姿勢で議論を進めてほしいと思いますか。次の中から、1つだけあげて下さい。【対応質問ありQ14】
・憲法改正を前提に議論する |
29.5 |
・現行憲法の維持を前提に議論する |
28.7 |
・前提を一切設けずに議論する |
31.0 |
・その他 |
0.2 |
・答えない |
10.6 |
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◆Q12 あなたは、次の衆議院選挙で、投票する候補者や政党を決めるとき、憲法問題への姿勢を判断材料にしますか、しませんか。【対応質問ありQ15】
・する |
33.6 |
・しない |
35.1 |
・どちらとも言えない |
28.0 |
・答えない |
3.3 |
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〈以下、憲法調査会議員アンケートだけの質問と回答〉
◆Q13 憲法調査会は、5年後をめどに、議論の成果を報告書にまとめることになっていますが、議論の進め方や取りまとめの時期について、あなたの考えに近いのはどれですか。【対応質問ありQ10】
・変化の激しい時代なので、議論を迅速に進めて、できるだけ早く報告書をまとめる方がよい |
(40.0) |
・憲法は慎重に扱わなければならない問題なので、時間をかけて議論し、報告書のまとめが遅くなっても構わない |
(13.8) |
・予定通り5年後に報告書をまとめられるよう議論を進めるのがよい |
(41.3) |
・答えない |
( 5.0) |
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◆Q14 あなたは、憲法調査会では、どのような姿勢で議論をしようと思いますか。【対応質問ありQ11】
・憲法改正を前提に議論する |
(45.0) |
・現行憲法の維持を前提に議論する |
(8.8) |
・前提を一切設けずに議論する |
(33.8) |
・その他 |
(8.8) |
・答えない |
(3.8) |
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◆Q15 あなたは、次の選挙では、憲法問題を争点に取り上げ、憲法に対する自分の姿勢を有権者に訴えたいと思いますか。【対応質問ありQ12】
・訴えたいと思う |
(57.5) |
・そうは思わない |
(16.3) |
・どちらとも言えない |
(18.8) |
・答えない |
(7.5) |
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◆Q16 憲法9条をめぐる議論について、あなたの考えに近いのはどれですか。
・全面的に改正すべきだ |
(22.5) |
・戦争放棄を掲げた1項はそのままにして、戦力不保持や交戦権否認を掲げた2項を改正すべきだ |
(32.5) |
・改正すべきではない |
(22.5) |
・その他 |
(13.8) |
・答えない |
(8.8) |
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◆Q17 今の憲法における「公共の福祉」と「個人の権利」のあり方について、あなたの考えに近いのはどれですか。
・個人の権利の尊重を重視しすぎていて、公共の福祉がおろそかにされている |
(47.5) |
・公共の福祉を重視しすぎていて、個人の権利が必要以上に制限されている |
( 2.5) |
・公共の福祉と個人の権利の調和がよくとれている |
(21.3) |
・その他 |
(21.3) |
・答えない |
( 7.5) |
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◆Q18 国会の二院制のあり方について、あなたの考えに近いのはどれですか。
・参議院の役割が不明確なので、参議院の権限を強め、衆議院と対等にすべきだ |
(18.8) |
・参議院の役割が不明確なので、参議院の権限を弱め、衆議院に対するチェック機関的な位置付けにすべきだ |
(16.3) |
・参議院を廃止して一院制にすべきだ |
( 2.5) |
・今のままでよい |
(21.3) |
・その他 |
(37.5) |
・答えない |
( 3.8) |
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【衆参各憲法調査会委員の調査方法】
・調査日=3月13〜24日・対象者=両院憲法調査会委員全員95人・実施方法=配布自記式・有効回収数=80人(回収率84.2%)・回答者内訳=衆議院50人中の44人、参議院45人中の36人
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【全国世論調査の方法】
・調査日=3月18、19日
・対象者=全国の有権者3000人(250地点、層化二段無作為抽出法)
・実施方法=個別訪問面接聴取法
・有効回収数=1935人(回収率64.5%)
・回答者内訳=男47%、女53%▽20歳代13%、30歳代16%、40歳代18%、50歳代23%、60歳代19%、70歳以上11%▽大都市(東京区部と政令市)19%、中都市(人口10万人以上の市)38%、小都市(人口10万人未満の市)20%、町村23%
この調査の記事は、世論調査部の本田伸一、中津幸久、徳島博史、政治部の会田一臣、林博英、塩谷裕一、森近正が担当しました。
世論調査に関する属性別データ(男女、年代、職業別などの分析表)を、実費(郵送料など500円)で提供しています。ご希望の方は、世論調査部(03・3217・8227)まで。
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