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1999/08/09 読売新聞朝刊
[社説]「憲法」国民投票法の制定を急げ
 
 現行憲法の制定以来、ずっと続いてきた国会の“憲法無視”状態に、ようやく変化が見えてきた。
 自由党が、憲法改正国民投票法案の国会提出準備を進めている。自由党案の内容についてはいろいろな議論があり得るとしても、国会にはできるだけ早く、国民投票法を制定する責任がある。
 憲法九六条には、「この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする」とある
 国民投票手続きの詳細は、当然、そのための法律で定めなければならない。最高裁判所裁判官の国民審査については、憲法が施行された一九四七年のうちに法律が制定されている。
 憲法改正手続きについても、五二年四月二十八日に日本が独立国としての主権を回復した直後には、政府部内に法制定への動きがあった。が、結局、法案自体が未完成のまま終わった。その後は、政治の場で、憲法改正国民投票法が具体的に議論の対象になったことは、まったくない。
 憲法改正に際しての国民投票は、国民の最も基本的な主権行使の形態だ。そのための法整備は、国民主権のありようにかかわる政府、国会の義務である。いわば、政府、国会とも、“不作為”による違憲状態を続けていたことになる。戦後日本を歪(ゆが)めてきた“憲法タブー”の一面といえよう。
 この国会では、衆参両院に憲法調査会を設置する改正国会法が成立した。しかし、「憲法調査会には憲法改正の議案提出権がなく、五年をめどに報告書をまとめるだけなのだから、国民投票法の制定を急ぐ必要はない」という見方もあるだろう。
 だが、憲法の規定に基づく政府・国会の法制化義務はさておいても、やはり、法制化は早い方がいい。憲法改正の是非や、具体的な問題点を巡る論議が熱気を帯びる前に、国民投票法のあるべき内容について、冷静な議論による国民投票法を整備しておくことこそが重要だ。
 憲法改正には、全文改正も部分改正もあろう。いずれにしても、複数の改正点を一括して投票の対象にするのか、一条ごとに可否を問うのかといった問題自体が、政治的対立の焦点になることもあり得る。
 その場合、投票形式そのものが投票結果に影響するとして、議論が政治的に混乱することもあり得るだろう。
 そうした様々な可能性を考えれば、憲法改正国民投票法は、改正の内容そのものと切り離して議論できるうちに制定しておく方がいい。
 自由党は、この秋にも予想される臨時国会に、この法案を提出する方針という。
 来年の通常国会からは、両院の憲法調査会がスタートする。国会は、本格的な「論憲」を始める前に、まず、これまで放置していた憲法改正国民投票法を仕上げておくべきである。


 
 
 
 
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