1995/04/06 読売新聞朝刊
[社説]国民は憲法論議を望んでいる
憲法をめぐる国民意識の変化は、もはや定着した、といえるのではないか――。
読売新聞社が三月下旬に実施した全国世論調査によると、憲法を「改正する方がよい」とする人が過半数を超え、三年続けて改正派が多数を占めた。これに対し、「改正しない方がよい」する人は三分の一以下にとどまった。
しかも、憲法改正派であるか、非改正派であるかを超えて、憲法についての論議をすることが「望ましい」とする人が、全体の七二%に上った。昨年三月の六五%から大幅に増えている。逆に「望ましくない」とする人は、二一%からわずか一三%へと減った。
憲法論議自体がタブー視されたような傾向は、完全に過去のものになった、といっていいだろう。
だからといって、国民多数が、現行憲法を否定している、ということではない。全体の七五%が、現行憲法が戦後の日本で果たしてきた役割を評価している。
それでも「改正した方がよい」という意見が多数を占めるのは、時代状況の変化を現実的に受け止めてのことだろう。改正した方がよい理由として、「国際貢献など、いまの憲法では対応できない新たな問題が生じているから」を挙げる人が断然多いところにも、それが表れている。
背景には、東西冷戦構造の崩壊、その過程での湾岸戦争、国連平和維持活動(PKO)への協力実績に加え、この一年間でいえば、自衛隊違憲論の中心勢力だった社会党の合憲論への転換、阪神大震災に関連した自衛隊の役割論議などの流れがある。
読売新聞社は、昨年十一月、国民的論議のたたき台として、「憲法改正試案」を提示した。現行憲法の基本精神である国民主権、平和主義、基本的人権の尊重などを堅持・拡充しようという内容である。
この提言への反対論の多くは、改正の試み自体を「軍国主義の復活」「戦争への道」などと決めつけるだけのものだった。
国民多数の憲法意識は、そうした“観念的”な反対論のレベルをとっくに乗り越えていることが、今回の調査結果で明らかになった。
ところが、政治の舞台では、与野党とも内部に改憲派、非改憲派を抱え、連立体制や党内に混乱が生じるのを恐れて、憲法論議を回避している。
政治の存在感が希薄化して、無党派層が五〇%前後に及んでいるのは、こうしたところにも原因があるのではないか。
本来なら、時代状況を的確にとらえ、先見性をもって国民的論議を主導するのが政治の役割のはずである。
今回の調査結果の特徴の一つに、「緊急事態に際し首相がすばやく対応できる規定を設けた方がよい」という意見に、九〇%以上の人が賛成していることがある。
以前から、「読売憲法試案にも、諸外国の憲法のように、緊急事態条項を盛るべきだった」という声も寄せられていた。
こうした点なども含めて、国民的な憲法論議が高まることを期待したい。
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