1954/07/01 読売新聞朝刊
[社説]自衛隊の発足に際して望む
陸、海、空三軍の建設をめざして、防衛庁、自衛隊は、きょう一日から発足する。そのはじめの前身である警察予備隊は、二十五年八月、朝鮮動乱突発のすぐあと、マッカーサーの「至上命令」で、設けられた。二十七年十月には、日米安全保障条約の発効にともない「自衛力の漸増を期待」されて、保安隊へ脱皮、発展した。こんどで三度目のコロモがえだが、いうまでもなくMSA受諾によって、自衛力の漸増を「約束」したからである。
新しい上部機構も、いちおう整備され、これと並行する人事も、四、五の重要ポストをのこして、ほとんどきまった。アメリカの統合参謀本部にあたる統合幕僚会議議長や陸海空の三幕僚長は、文官出身の●を起用したけれど、これを補佐する統幕事務局長、各幕僚部副長などのイスは、みんな旧陸海軍人でうずめた。また、十三万に増強される陸上自衛隊のうち、その四割弱五万を指揮下にもつ北部(札幌)方面隊総監も、これまでの文官出身とかわって、旧軍人が転出した。中堅幹部にも大量の旧軍人が採用されたことも目立つ。
実質的な軍隊に編成がえされて、急激な膨張をつづける段階にあたり、豊富な知識と経験をもつ軍事専門家を活用するのは、やむを得ない現実である。いや、むしろ当然であるかもしれない。ただ、われわれの恐れるのは、文官優位(シュープレマシー)の原則がくずれることである。ひいては、政治が軍事の上位にたつという大眼目が、ゆらぐ場合も、考えられるからである。
ことに、防衛庁法では文官任用制限令を撤廃したから、よけいにその心配が濃くなった。保安庁法では旧軍人はもちろん、文官でも一度制服をきると、内局(保安庁)の課長以上の職につけなかった。これを廃止したために、制服の政策面にたいする突破口ができたのである。
政治がしっかりし、文官が旧軍人に劣らぬ知識を得、経験を重ねて、力を培養すれば「軍事」を統御できぬわけはない。しかし、実際にはそう簡単にゆかぬようだ。汚職、暴行にあけくれる政治の不安動揺、また内局幹部のなかには「文官優位の崩壊は時間の問題だ」と早くも自信を失っているというウワサもきく。
理想をいうならば、前歴を問わず、文武一体に融合して、新国軍の基盤を築くべきだが、これも現状では望み得ない。防衛庁首脳は、制服をよく掌握し、かりそめにも主導権を渡すようなことがあってはならない。旧軍出身者も、徒党をつくったり、政策面に口を出したりしてはいけない。「政治」の指揮に従い、職分を守ってそのラチ外に踏みだすなと警告したい。それは国民の信頼を集めるとともに、自衛隊の強化にも役立つのである。
政治の優位は、いかなることがあっても、確保しつづけねばらない。自衛隊の新しき出発に際して、われわれは強く激しくこれを要望する。問題点は、ほかにもたくさんある。
アメリカの援助なしに、自衛力増強は考えられぬけれど、計画の樹立にあたっては、出来るだけ自主性をつらぬくことも必要である。航空機の配属をめぐって、新設の航空自衛軍と陸海のあいだに、対立のきざしが現われ、いまだに調整もついていないようだが、速やかに具体的な結論をだして、紛争のタネをとり除かねばならない。
旧軍における陸、海の対立は、敗戦の一つの有力な原因であった。それを繰返すようなバカな真似は、もうたくさんだ。
(日本財団注:●は新聞紙面のマイクロフィルムの判読が不可能な文字、あるいは文章)
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