1946/03/07 読売報知朝刊
憲法改正草案 政府案の全貌発表 主権在民を規定す 戦争は永久に放棄 天皇は国民統合の象徴
日本民主化の根本となる新しい憲法をどうするか、国民ひとしく幣原内閣の手ですすめられていた憲法改正の事業を注視しているとき、六日午後五時政府は憲法改正に関する政府草案の成案を得てその全文を内閣から発表、内閣に対し賜った右に関する勅語を公表した憲法改正原案は十一章九十五条からなり、その根本的精神は第一条「天皇は日本国民至高の総意に基き日本国及その国民統合の象徴たるべきこと」にある如く天皇は日本国民の総意にもとづく国民統合の象徴なりとし同時にこの表現をもって主権は在民であることを明かにした点と第九条「国の主権の発動として行う戦争および武力に依る威嚇または武力の行使を他国との間の紛争の解決の具とすることは永久にこれを放棄すること、陸海空其の他の戦力の保持はこれを許さず、国の交戦権はこれを認めざること」に明示されているように今後永久に戦争を放棄するという主旨を憲法にとり入れた点でこれは世界でもはじめてのこととして注目される、政府はこの草案を枢密院に廻して御諮詢奏請の手つづきをとり、総選挙後にひらかれる特別議会に提案する段どりである、この草案の主調が昨秋マ司令部から出た指令にもとづき松本国務相を主任とする憲法調査会で審議されていた原案とその出発点から大きなちがいをもってここに現われてきたことは最も注目される
さきに一部発表された調査会原案は、ポツダム宣言の実現途上に急速に民主化してゆく現下のわが情勢にとうてい適合すべくもなく、民主的政党およびそれを支持する民主的な世論の力によって政府は全く憲法改正について出直しを余儀なくされたものである、そして政府は総選挙前の相当期間をおいてこれを発表する必要に迫られ四、五両日の如きはほとんど徹宵の会議をつづけて五日夜に至り結論に到達、同夜幣原首相が参内内奏の手つづきをすませる一方、松本、吉田両相からマ司令部の承認をもとめてここに発表となったものである、なおこれとは別個に政府は追放令E項、G項の適用範囲について審議を行っている
天皇は国民統合の象徴 憲法改正草案要綱
日本国民は、国会における正当に選挙せられたる代表者を通じて行動し、我等自身及子孫の為に諸国民との平和的協力の成果及この国全土に及ぶ自由の福しを確保し、且政府の行為に依り再び戦争の惨禍の発生するが如きことなからしめんことを決意す、すなわちここに国民至高意思を宣言し、国政を以て其の権威はこれを国民に承け、其の権力は国民の代表者これを行使し、其の利益は国民これを享有すべき崇高なる信託なりとする基本的原理に則りこの憲法を制定確立し、これとてい触する一切の法令及詔勅を廃止す
日本国民は永世に亙り平和を希求し、人間関係を支配する高邁なる理想を深く自覚し、我等の安全及生存を維持する為世界の平和愛好諸国民の公正と信義に●いせんことを期す、日本国民は平和を維持し且専制、隷従、圧抑及偏狭を永遠に払拭せんとする国際社会に伍して名誉ある地位を占めんことを●う、我等は万国民均しく恐怖と欠乏より解放せられ、平和のうちに生存する権利を有することを主張し且承認す
我等は何れの国も単に自己に対してのみ責任を有するに非ずして、政治道徳の法則は普へん的なるが故に、之を遵奉することは自国の主権を維持し他国との対等関係を主張せんとする各国の負うべき義務なりと信ず
日本国民は国家の名誉を賭し全力をあげてこれ等の高邁なる目的を達成せんことを誓う
(日本財団注:●は新聞紙面のマイクロフィルムの判読が不可能な文字、あるいは文章)
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