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2003/08/27 毎日新聞朝刊
[社説]改憲案指示 首相は軽く扱っていないか
 
 小泉純一郎首相が25日自民党の山崎拓幹事長に対し、05年の自民党結党(保守合同)50周年に向けて、憲法改正案をまとめるよう指示した。同時に、改憲の手続きを定める「国民投票法案」の検討も求めた。
 00年、両院に設置された憲法調査会ですべての政党が加わって論議し、来年か再来年に最終報告を議長に提出する予定だ。
 この日程をにらみ自民党憲法調査会のプロジェクトチームは先月、安全保障分野に関する改正要綱案をまとめ、来年、全体的な要綱案策定の運びになっている。
 改憲案づくりの指示はこの流れに沿ったものだが、自民党の首相としては初めてのことだ。同党の歴代首相は一貫して慎重な姿勢を取り続けていた。
 首相は「結党時の精神が自主憲法制定だった」と述べたように、1955年11月の結党の際決めた「政綱」には「自主憲法制定」がうたわれた。連合軍の日本占領が終わり、独立して間もないころで、占領中「独立したら自前の憲法を」との願望が根強かった保守勢力の意向が反映されていた。
 しかし、高度経済成長実現の過程で、経済重視・軽武装・日米安保条約機軸の考え方が自民党の主流となり、改憲着手は事実上タナ上げされてきた。歴代首相が「現内閣では憲法改正はしない」と言明したのはその表れであった。
 首相は一昨年の総裁選ですでに改憲に言及、改憲を必要とする首相公選制導入を訴えていた。
 憲法をめぐる状況、とくに世論は、十余年前の冷戦終結、湾岸戦争以降大きく変化、各種世論調査では改憲論が護憲論を上回るのが常態化している。
 ただ改憲をいうだけでなく、改正案をまとめ、改めるべき内容を具体的に国民に示すのは政党としてあるべき姿だ。
 だが、首相は指示にあたり基本的方向さえ明らかにしていない。今回の総裁選で自身の公約や、次の衆院選で自民党の公約にする考えもないようだ。26日には「仮に総裁選で再選されても、小泉内閣が政治課題に乗せる余裕はない」と述べた。自民党独自の考えをまとめるにとどめたいようだ。
 首相は一昨年の総裁選で「8月15日の靖国神社参拝」を公約したが3回とも果たしていない。混乱を最小限にとどめたが、公約を軽く扱ったことは否定しがたい。
 首相公選制導入や自民党の事前審査制廃止も、必要性を言明はしたものの熱意をもって実現しようとしたか疑問である。
 改憲案づくりの指示が、総裁選の党員票、さらに国会議員票獲得を狙ったものとの見方が自民党内外にある。もしそうだとすれば、改憲という重い課題を軽く扱っているとしか思えない。無責任な態度さえ感じられる。
 世論は改憲論の方が強いといっても、政治に変わってほしいという政治変革期待の表れの要素が強い。経済打開が最大課題の時に、国論を二分するような論議に首をかしげる人々も多いことを、首相は直視しなくてはいけない。


 
 
 
 
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