1999/05/03 毎日新聞朝刊
[探る斬る]憲法調査会(その1) 議論平行線、設置足踏み
憲法に関する問題を審議する「憲法調査会」(仮称)の衆院設置をめぐる議論が、衆院議会制度協議会で足踏みしている。自民党、民主党、公明党・改革クラブ、自由党の4会派は「議案提出権のない調査会設置」「規模は50人」などで基本的に合意しているが、共産党、社民党・市民連合は「憲法改正につながり絶対反対」との姿勢を崩さず平行線のままだ。【鬼木浩文】
◇期間など温度差−−賛成派
最も積極的な自民党は「憲法は現実とのかい離が生じている。基本理念は変えずに、そういう点を協議する憲法調査会が必要」と、(1)名称は憲法調査会(2)今国会中に国会法を改正して設置(3)調査期間は3年――などを提案した。名称問題は4会派ともに異論がないが、調査会の設置時期や、結論を得るまでの期間などで、各会派間に微妙なずれがある。
民主党は「改正を前提とせず、憲法について議論することは必要」との立場で、調査会設置は「次期通常国会から、調査期間は5年程度」と主張している。
同党内は羽田孜幹事長ら改憲派の保守系議員と旧社会党出身者などの改憲慎重派とが混在しており、発言も慎重だ。
公明党・改革クはまだ、参院に慎重派を抱える公明党と積極派が大勢を占める改革クとの意見調整を進めている段階で、設置時期などを示すのは連休明けになる。
これに対し、自由党は「調査期間は2〜3年、最長でも5年程度」などと積極的な姿勢を示している。
◇全会一致を盾に−−反対派
共産党、社民党は「憲法の理念が戦後日本の平和を保ってきた。憲法が現実に何かの障害になったことがあるのか」と設置に疑問を投げかける。調査会設置が改憲論議に直結することへの強い危機感があり、「問題点が生じたら既存の委員会で審議すればよい」とあくまで反対する構えだ。
賛成派と反対派の意見が対立する中で、今後問題になるのが「国会の構成にかかわる問題は全会一致で決める」との慣例だ。慣例を守る限り衆院議会制度協議会は永久に結論が出せない。
「全会一致の原則」には例外もある。同協議会が1997年に、衆院決算委員会を改組して決算行政監視委員会を設置するための国会法改正を検討した際、旧民主党と共産党が反対したまま議論の結果が議運委に送られ、議運委が国会法改正案を提出して決算行政監視委員会が誕生した。自民党などは必ずしも全会一致の必要はないとの立場だ。
◇「多数決」狙うが−−今後の行方
今後の議論の行方について、超党派で作る憲法調査委員会設置推進議員連盟の幹部は「議論をつくした上で多数決で決めればいい。座長を務める中川秀直議運委員長の腹次第だ」と、採決に持ち込んだ上での早期決着に期待している。
しかし、社民党幹部は「憲法は、非常に重い問題だ。協議会の全会一致は、調査会設置の絶対条件」と主張しており、今後の協議会の議論は、難航が予想される。
◇鳩山首相時、内閣に設置−−世論に配慮、両論を併記
憲法調査会は、かつて内閣に置かれたことがある。1956(昭和31)年、保守合同で自民党が誕生した翌年だった。調査会の目的は「憲法に検討を加え、憲法上のさまざまなテーマを調査、審議し、結果を内閣に報告、内閣を通じ国会にも報告する」ことだった。
調査会ができた当時は鳩山一郎内閣。前任の吉田茂内閣は解釈改憲による再軍備をもくろんだが、鳩山内閣は自民党の数の力をバックに憲法改正を目指した。その象徴が政府内委員会の調査会だった。
憲法調査会法は56年5月16日に成立したが、委員の任命は岸信介内閣になった57年7月30日、第1回総会が開かれたのは8月13日で、約1年2カ月も開店休業状態に置かれた。政府が超党派で調査会を発足したいとの思惑を持っていたためだが、社会党は最後まで参加拒否を貫いた。構図は今と似ているが、当時は護憲勢力が衆院議席の3分の1を超え、憲法改正を阻止できる数だった。
調査会は国会議員と学識経験者からなり、会長は憲法学者の高柳賢三氏だが、副会長の山崎巌氏は東久迩稔彦内閣の内相でタカ派の代表的人物、もう一人の副会長の矢部貞治氏も戦前の近衛(文麿首相)体制の有力ブレーンと、改憲色が強い陣容だった。しかし世論に配慮し、憲法改正論議を俎上(そじょう)に載せなかった。
調査会は(1)日本の憲法はいかなる憲法であるのか(2)日本国憲法の制定経過をいかに評価すべきか――を改憲、改憲反対の両面から検討するとともに、天皇、戦争の放棄、国民の権利・義務、国会、内閣、司法、財政など15項目の検討を行った。調査会は64年7月3日に多数説の改憲論と少数説の改憲不要論を併記した最終報告書を池田勇人首相に提出して、翌年6月3日に廃止された。【中川佳昭】
◇衆院議会制度協議会
衆院議長の私的諮問機関。与野党が激しく対立していた1966年、院の運営について話し合う場として、議運委が設置を決めたが、法的な根拠のある組織ではない。
議運委員長が座長を務め、議運の理事とオブザーバーがメンバー。
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