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1993/01/31 毎日新聞朝刊
[社説]政治 憲法論議で考えるべきこと
 
 国会での改憲論議のあと、宮沢内閣は「現段階で、憲法改正は考えない」との申し合わせを行った。
 降ってわいたような改憲論議は、自民党や公明、民社両党などから「憲法をタブー視すべきではない」という形で提起され、政府内でも護憲論の宮沢首相と、改憲論の渡辺副総理・外相が対立していた。
 国の最も根本的な規範をめぐる閣内不統一は、政治を混乱させ、政治不信を高める。内閣の意思統一は妥当な対応である。
 いうまでもなく憲法は国の最高法規であり、それに基づいて法律や制度、政策が決定される。政治や経済、社会の広範な分野で、国民一人ひとりに深くかかわっている。
 施行後の半世紀近い経過の中で、憲法を取り巻く内外の環境は大きく変わった。憲法問題について、いろいろな論議があってもいいと思う。憲法を国民の身近なものとするうえでも意義がある。
 しかし、その際に憲法が本当に時代にそぐわないものになっているかどうかの検証を抜きに論じることはできない。「まず改憲ありき」のムード的な憲法論議や政争絡みの改憲論は、国の進路を誤らせる。
 日本は過去の反省に立って、国民主権、基本的人権、平和主義を基本原理とする現在の憲法体制を築いてきた。「国際紛争を武力で解決しない」という憲法九条は、その重要な柱の一つである。
 これからの憲法論議にあたって必要なことは、まず第一に、冷戦後の時代にふさわしい新しい平和国家の理念、二十一世紀を展望した国際社会での日本の進路を明確にすることであろう。
 憲法の理想に少しでも近づく可能性のある冷戦後の時代を迎えて、これを転換することが日本にとっても、国際社会にとってもプラスかどうかを含めて、憲法のどこにどのような問題があるのかを冷静に考えなければならない。
 自民党内からは国連の集団的安全保障への参加、安保理常任理事国入り問題といった国際貢献にからんでの改憲論が提起されている。しかし、より基本的な論議を抜きにしての性急な改憲論は、あるべき憲法論議とは懸け離れている。
 第二に、これまで日本は国際貢献や国内的な憲法の充実という点で、精いっぱいの努力をしてきたのかどうかの反省である。
 国際社会の平和と繁栄のために、私たちはもっと積極的な役割を果たせるのではないか。
 軍縮の促進、自由貿易体制の発展、途上国援助、貧困追放、難民救済、地球環境保全など、日本の特性を生かした貢献の道があるのではないか。それは憲法の平和主義を世界に普遍化する努力でもあろう。
 第三に、国民の憲法感覚を尊重することである。憲法改正に極めて高いハードルが設けられていることからも分かるように、国民レベルの地道な論議の積み重ねが憲法論議にとって最も大切だと思う。
 毎日新聞社の世論調査では、憲法を時代に合わせて変えた方がいいという意見は反対論よりやや多いが、同時に常に八割前後が憲法九条を支持している。この憲法意識を抜きにして、国民的な合意を形成することは難しいだろう。
 私たちも、新しい時代にふさわしい憲法の理念を不断に磨きあげていくべきだ。そのためにはどうしたらよいのかを、国会や政党、国民が真剣に考える時だろう。


 
 
 
 
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