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1957/08/14 毎日新聞朝刊
[社説]憲法調査会の任務を果たすには
 
 憲法調査会は、十三日初会合にこぎつけたが、社会党不参加のままでは、首相の「あいさつ」にあった「政党政派を超越し、挙国的に行なわれるべき」という理想からは遠いといわなければならない。会議の第一日は正副会長を決めただけで、問題の議事規則は翌日に持ちこされた。正副会長の人選は、現在の委員の顔ぶれからすれば無難なところであろう。それよりも注目されたのは、各委員の間から社会党の参加を求めるために、いろいろ論議がかわされたことである。調査会の任務を真面目に遂行しようとする熱意があればあるほど、社会党の参加を求めるのは当然である。
 しかし社会党は、調査会の発足にあたって、これまでの単なる反対態度から一歩を進めて、断固廃止せよという声明まで打ち出した。現行憲法の維持を建前とする同党の改正反対の態度はわかる。しかしそうだからといって、一たん国会で成立した調査会そのものまで、廃止を迫るなどは、そこらの排外団体の態度とえらぶところはない。このような態度は、社会党のために感心できない。
 社会党は不参加の理由の一つとして、自らの反対する改憲に共同責任を負わされることをあげている。これは調査会の委員の多くが改憲論者であり、したがって改憲は既定のコースであり、それに参加することは、責任を分担するだけの結果におわる、という見方からでたものであろう。しかしこのような断定は見当ちがいである。委員中の改憲論者の底には、そうした意図も流れているかもしらないが、少なくとも調査会のあげている任務には、そうした決定権のないことは明らかである。調査会における調査審議の結果が内閣や国会に報告されるだけである。しかもその報告も、議事規則のいかんによって、必ずしも単一のものになるとはきまっていない。少数意見も尊重する建前から二案も三案もあってよいわけである。社会党にこの点の心配があるなら、それを条件にして参加してもよいはずだ。
 この点からいっても、議事規則その他会の運営について、政府からの支配干渉を排し、調査会の自主的な運営をはかるためには、できるだけ広い角度からの調査と自由な審議が保障されることが必要である。そして少数意見も尊重するようにして、数による採決で審議をしばらないほうがいい。そうすれば社会党も不参加の理由を失うであろう。また現実問題として、衆参両院とも改憲勢力が決定権をもつ三分の二に達していないのであるから、無理に調査時日を急ぐ必要もあるまい。十分な時間をかけた論議の成果を時に応じて一般に公開し、憲法問題をめぐる世論をよびおこすことも、調査会の一つの仕事であってよい。憲法改正の是非は抽象的に論ぜられることは久しいが、その具体的な内容については、一般にはあまり知られてないのが実情だからである。


 
 
 
 
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