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3.2 故障診断・運転支援システムの開発
(1)SMGT診断・支援システム
 SMGTの性能評価や緊急時の不具合対応の支援、通常時のSMGT運転・保守・監視作業の軽減など、乗組員の船内負荷の軽減とSMGTのサポートを円滑に行う為に故障診断・運転支援システムの開発を行った。
(2)診断・支援システム設計
 診断・支援システムはSMGTの運転データを取り込むデータ収集装置、データの解析を行う診断装置、陸上との通信を行うデータ転送装置そして陸上側の支援装置から構成される。また、診断機能としては不具合原因診断および性能変化診断という下記の2つの機能を持つ仕様として、詳細設計を行った。
・不具合原因診断
 事例推論という手法により不具合が発生した時にその原因を速やかに推定する。
・ガスタービン性能変化診断(劣化診断)
 ガスタービンの性能を定常的にモニタリングして、不具合の発生を予知し、対応を円滑に行えるようにする
(3)診断・支援システムの製作
 システム設計に基づいて、次の機能を備えるデータ収集装置、診断装置、マルチメディアデータ収集・データ転送装置及び支援装置を製作した。(図3.2−1)
・データ収集装置
 制御装置よりSMGTのプロセスデータを収集して保存するとともに、診断結果を保存する。
・診断装置
 データ収集装置に蓄積されたガスタービンプロセスデータを用い、不具合原因診断や性能変化診断を行う。
・マルチメディアデータ収集・データ転送装置
 SMGT周辺に設置したマイクを用い、音響データを収集・蓄積する。またSMGT周辺の状態をカメラで監視する。
 また、陸上側の支援装置と通信を行い、プロセスデータや診断結果を転送する。
・支援装置
 通信により診断装置にアクセスし、遠隔支援を行う。
(4)診断支援システムの機能確認
 陸上試験で起動および負荷運転時に、事例診断及び劣化診断で用いるガスタービンプロセスデータを収集した(図3.2−2)。そして、事例診断としては不具合発生時に計測したデータと過去の事例データベースの内容と較べあわせることで、不具合原因の候補が抽出され、表示されることを確認した。
 負荷運転時のガスタービンプロセスデータより、劣化診断に用いるパラメータを算出して、動作確認を実施した。図のように実出力は変化しているが、標準状態への換算出力は変化しておらず、性能劣化が生じていないことがわかる。(図3.2−3)
 無線通信により診断装置にアクセスし、遠隔より診断を行う機能を確認した。
 
 診断支援システムを製作し、運転試験で作動確認を行い、目的の機能を果たすことが確認できた。今後は引き続きデータを収集してデータベースを充実していく。
 
図3.2−1 舶用主機向けガスタービン・診断支援システム全体構成
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図3.2−2(1) 事例推論処理フロ
(拡大画面:30KB)
 
図3.2−2(2) 事例推論概要図
 
図3.2−3 劣化診断例
(拡大画面:20KB)
 
3.3 防食技術の研究
 舶用エンジンの固有の課題として、塩分や燃料中のS分や重金属による材料腐食対策が上げられる。このために材料の腐食試験を行い、耐食性にすぐれた材料やコーティングの選定を行って陸上試験実験機に反映した。
(1)防食性能試験
 海洋環境において運転されるA重油燃焼ガスタービンでは、主に海塩粒子として取り込まれた塩分と燃料中の硫黄分の燃焼により生成した溶融塩が高温部材に付着し、高温腐食または溶融塩腐食と呼ばれている腐食損傷が加速されることが懸念される。
 このため、高温用材料であるガスジェネレータタービン、パワータービンの動、静翼材料及びコーティング候補材について、ガスタービン燃焼を模擬した高温ガス中において防食性能試験を行った。この結果、それぞれについて耐食性に優れた材料およびコーティングを選定することができ、実験機に反映して陸上試験に供試した。
(2)塩水噴霧試験
 SMGTでは、圧縮機等の低温側の部品においても海洋環境での運転により、金属部材に塩水粒子が付着して腐食する可能性が考えられる。
 このため、塩水噴霧試験により、デミスターの故障等の非常時を想定して、候補材料の塩水付着環境における耐食性を調査することとした。
 比較的低温で使用される圧縮機の静翼、動翼、ディスク、インペラおよびケーシングや空気流路面等の主要構造部に使用される材料およびコーティングの候補材について、塩水噴霧試験を行い、耐食性を評価した。この結果、それぞれについて耐食性に優れた材料およびコーティングを選定することができ、実験機に反映して陸上試験に供試した。
 
3.4 船体動揺対応技術の研究
 舶用に使用する場合は、船舶に搭載した状態での傾斜や加速度の影響について検討を行う必要がある。SMGTはディーゼル機関並みの燃費を実現するため再生熱交換器を採用しているため、ガスタービン本体だけでなく、熱交換器やその間の配管、ダクト、およびそれらの支持架台を含めたガスタービンシステム全体について検討を行った。
 陸上試験装置の基本形状を元にしてガスタービンシステム全体について解析モデルを作成し、傾斜および加速度条件における変形や応力について解析を実施し評価を行い、変形、応力そして機能上の問題等が無いことを確認した。
 これらの結果は、陸上試験装置に反映するとともに、船舶搭載に適したサポートの設計にも反映させることとした。







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