研究の概要
1. 研究開発の背景
近年、地球規模の環境問題が大きくクローズアップされている。既に、陸上ではNOx等の大気汚染物質の排出について厳しい規制がなされている。船舶からの大気汚染防止に関しても、平成9年(1997年)国際海事機関(IMO)において船舶エンジンからの窒素酸化物(NOx)の排出規制を定めた議定書が採択される等、世界的な取組みがなされている。
わが国においても、これに先がけ、平成5年12月1日運輸技術審議会船舶部会の答申で、取り組むべき重要技術開発課題として、舶用ガスタービンシステム研究開発が取り上げられた。この答申を受けて、運輸省(現国土交通省)はじめ関係機関のご支援のもと、舶用エンジンメーカー5社が結集してスーパーマリンガスタービン技術研究組合を設立し、平成9年度から造船業基盤整備事業協会(平成13年度から運輸施設整備事業団)及び日本財団からの助成金を受け、スーパーマリンガスタービン(以下SMGT)の研究開発に取り組むことになった。
舶用推進プラントとしてガスタービンをみた場合、NOx排出量がディーゼルエンジンに比べて格段に低くなる可能性があり、抜本的な排気ガスのクリーン化(低NOx化)が期待できる。
また、わが国では海上輸送の高度化や船舶の近代化が要請される中で、船舶の高速化、特に内航船舶については船内環境の改善、船内労働の軽減が求められている。軽量・小型、低振動・低騒音、メンテナンスの容易さというガスタービンの特徴がこれらの要請にも応え得る。
この様な利点を持ちながら、燃費等の経済的な理由から、これまでのガスタービンは、舶用としては特殊な用途に限定されていた。
このような現状を打破して舶用の用途が広く拡大することを目指すのが、クリーンで高効率な次世代型舶用ガスタービンのSMGTである。
また、ガスタービン船の場合、ディーゼル船と比較して機関スペースが小さく、軽量になることで、船内一般配置、船型、推進システム選択等に大きな自由度が生れる。これにより、積荷量を増加させた船内一般配置、船形改良による船体抵抗低減の可能性もあり、船舶の総合的な経済性向上が期待できる。
2. 開発目標
SMGTは、出力2,500Kw級の舶用ガスタービンで、次の3点を主な目標とした。
(1)NOx排出量が1g/kWh以下
(2)熱効率が38〜40%
(3)燃料としてA重油が使用可能
この目標値は、NOxはディーゼルエンジンの約1/10、熱効率は高速ディーゼルエンジンとほぼ同等である。
また、これらを同出力クラスの従来のガスタービンと比較しても、NOx排出量では現状値(液体燃料焚)の1/3、熱効率では10ポイント、燃費で3割もの向上を目指すものである。
また、燃料は舶用として入手性を考慮してA重油を使用可能とする。
この様にSMGTの開発目標は、従来の技術水準を大きく越えるもので、世界的に見ても意欲的なものである。
3. 研究開発スケジュール
平成9年4月組合の発足と同時に研究開発活動を開始した。研究開発予定期間は平成14年度までの6ヵ年で、その間のスケジュールを図1に示す。
初年度の平成9年度にSMGT全体の基本計画を行い、上記のSMGT全体目標を圧縮機、燃焼器、タービン等のガスタービン構成要素(以下、要素)のレベルで達成すべき目標に展開した。この各要素目標は、夫々が従来水準を超えるものであり、目標達成のためには解決すべき様々な研究課題があった。
この要素研究は平成10年度から平成12年度までの3ヵ年間にわたり実施された。
平成11年度から、この要素研究成果を取入れた2,500kW級の実験機を設計・製作し、平成13年度から平成14年度にかけ、陸上での性能試験を行った。
4. 研究開発体制
SMGT研究組合は、鉱工業技術研究組合法に基く組合組織で、図2の組織構成になっている。
理事長の諮問機関として運営委員会と技術評価委員会がある。運営委員会の傘下に業務部会、技術部会があるが、技術部会は主として技術的問題を扱う。
研究開発は、組合がこれら委員会に諮問して、企画、立案、調整を行い、組合参加会社に研究開発を委託して行っている。
また、研究計画および研究成果等については、外部有識者で構成する技術評価委員会にて第3者的立場で公正に評価して頂いている。
組合参加会社は、現在、石川島播磨重工業株式会社、川崎重工業株式会社、ダイハツディーゼル株式会社、ヤンマー株式会社(50音順)の4社である。(株式会社新潟鐵工所は、平成14年3月31日脱退)
各社への研究委託分担は、ガスタービンの各構成要素を各社が担当し、全体取りまとめを川崎重工(幹事会社)が担当した(図3)。
5. 委員構成
技術評価委員会(平成15年5月16日現在)
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委員長
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吉識 晴夫
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帝京平成大学情報学部情報工学科
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教授
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副委員長
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角 洋一
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横浜国立大学工学部建設学科
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教授
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委員長
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乾 猛士
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(社)日本旅客船協会
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海務部会工務委員
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今市 憲作
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大阪大学
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名誉教授
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岡 實
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(財)日本海事協会
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常務理事
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刑部 真弘
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東京商船大学動力システム講座
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教授
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鎌田 実
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東京大学大学院工学系研究科
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教授
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川口 修
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慶応義塾大学理工学部機械工学科
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教授
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篠原 孝雄
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運輸施設整備事業団
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理事
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嶋田 武夫
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日本郵船株式会社
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顧問
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仙波 泰彦
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独立行政法人 航海訓練所
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教官
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葉山 眞治
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東京大学
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名誉教授
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山下 暁
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(社)日本舶用工業会
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専務理事
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横山 勲
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(社)日本造船研究協会
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研究部長兼企画部長
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松坂 武彦
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栗林商船株式会社
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取締役船舶部長
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渡邊 巌
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独立行政法人 海上技術安全研究所
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理事
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オブザーバ
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丸山 研一
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国土交通省海事局技術課
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課長
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田中 護史
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国土交通省海事局舶用工業課
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課長
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染矢 隆一
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海上保安庁装備技術部船舶課
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課長
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北原 豊
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運輸施設整備事業団業務第四部
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部長
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技術部会(平成15年5月16日現在)
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部会長
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杉本 隆雄
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川崎重工業(株)ガスタービン開発センター センター長
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部会委員
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今井 究
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石川島播磨重工業(株)艦船ガスタービン部課長
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宮地 宏
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川崎重工業(株)ガスタービン開発センター エンジン開発部長
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中西 謙一
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ダイハツディーゼル(株)ガスタービン技術部課長
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濱地 康之
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ヤンマー(株)エンジン研究グループ 主席研究員
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オブザーバ
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迫 洋輔
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国土交通省海事局技術課原子力技術係長
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大上 圭
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運輸施設整備事業団業務第四部業務課 課長代理
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図1 研究開発スケジュール
図2 SMGT技術研究組合組織図
担当部分 |
担当会社 |
担当部分 |
担当会社 |
全体構造&取り纏 |
川崎重工 |
F型パワータービン |
ダイハツディーゼル |
F型軸流圧縮機 |
川崎重工(新潟鉄工) |
V型パワータービン |
石川島播磨重工 |
V型軸流圧縮機 |
川崎重工 |
熱交換器 |
石川島播磨重工 |
遠心圧縮機 |
ヤンマー |
制御システム |
川崎重工 |
燃焼器 |
川崎重工 |
船舶対応技術 |
4社 |
ガスジェネレータ・タービン |
川崎重工 |
陸上試験 |
4社(主担:川崎重工) |
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図3 研究委託分担
注)新潟鉄工は平成14年3月31日脱退
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