3)ヒメマスの概要
中禅寺湖ではヒメマスは漁獲量(遊漁を含む)が最も多く、その卵は種卵として全国に供給されている。湖沼生態系を代表するヒメマスの生活史を、生息環境、餌料生物、母川回帰から記述し、資源生物からみた中禅寺湖生態系の特徴をとりまとめる。なお、最初にヒメマスの分類、形態、生態など概論を整理した。
(1)分類
ヒメマスOnchorhynchus nerka nerkaは、サケ目サケ科サケ属に属す。海に降れず、内陸に閉じこめられた、いわゆる陸封型のベニザケである。本種の分類学上の位置を以下に示す。
表4-3-1 分類表
サケ目 |
Salmoniformes |
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キュウリウオ科 |
Osmeridae |
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キュウリウオ |
Osmeras mordax dentex |
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シシャモ |
Spirinchus lancelatus |
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ワカサギ |
Hypomesus nipponensis |
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チカ |
Hypomesus pretiosus japonicus |
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アユ科 |
Plecoglossidae |
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アユ |
Plecoglossus altivelis |
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シラウオ科 |
Salangidae |
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シラウオ |
Salangichthys microdon |
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サケ科 |
Salmonidae |
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イトウ |
Hucho perryu |
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オショロコマ(カラフトイワナ) |
Salvelinus malma malma |
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アメマス(エゾイワナ) |
Salvelinus leucomaenis |
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カワマス |
Salvelinus fontinalis |
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ブラウントラウト |
Salmo trutta |
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ニジマス |
Oncorhynchus mykiss |
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サクラマス(ヤマメ) |
Oncorhynchus masou masou |
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カラフトマス |
Oncorhynchus gorbuscha |
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サケ(シロザケ) |
Oncorhynchus keta |
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ギンザケ |
Oncorhynchus kisutch |
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マスノスケ |
Oncorhynchus tshawytscha |
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ベニザケ(ヒメマス) |
Oncorhynchus nerka nerka |
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(2)形態
頭部と体の背部は鮮やかな青緑色で、時に背部と尾鰭に黒い小さな斑点がある。体側は輝きのある銀色を呈し、腹部は銀白色である。尻鰭は通常13軟条以上で、鰓耙数はサケ属中最も多く27〜44である。
成熟した雄では体がいっそう側扁し、吻は突出してかぎ状となって上に曲がる。背びれの前方はごくわずか隆起する。体色の変化は顕著で、背部と体側は鮮紅色かくすんだ赤灰色に変わる。雌の体色変化はほぼ雄に等しいが、ほかの変化は少ない。稚魚の背部は青色、体側と腹部は銀白色を呈し、パーマーク(体側の斑紋)が出現する。
(3)生態
生息適温は、水温10〜13℃で、20℃まで耐えることができる。水温が上昇しやすい浅い湖には棲息できず、北日本や山上湖などに限定されている。しかしながら湯の湖のように最大水深十数mの浅い湖でも確認されているが、これは冷たい湧水によると思われる。現在では、青木湖・本栖湖・芦ノ湖を結ぶ線より北で、深度が大きく貧栄養状態の湖で報告されている。
餌料は、動物プランクトンやユスリカの幼虫などが主で、エビなどの甲殻類やワカサギなどの小魚も食べる。また晩春から初夏にかけては湖面に落下する陸生昆虫も餌となる。行動は、昼は沖合いで集団で遊泳し、夜は岸辺で散らばって休む。
産卵は9月〜10月で、婚姻色をおびた親魚が湖に注ぐ川に遡上する。産卵は川や湖岸の砂礫底で行われる。成熟には2〜4年を要し、一回の産卵で死亡する。産卵数は、全長30cm程度の親で約800粒である。受精卵は、水温約8℃では約55日でふ化する。ふ化仔魚は18〜20mm程度である(宮地、1960)。
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