複十字シール募金により運営される
インドネシア結核対策共同プロジェクト 定期評価報告
結核予防会国際部業務課 川越 貴史
はじめに
当プロジェクトは結核予防会(JATA)とインドネシア結核予防会(PPTI)の間で、1997年11月より開始され、今年で6年目になります。インドネシアは世界の結核高まん延国の第3位に位置づけられており(02年度WHO報告書)、依然として結核は大きな健康問題となっています。このプロジェクトは複十字シール募金の益金により運営されており、ジャカルタ市内にあるPPTIの2つの診療所、ジャカルタ胸部疾患センター(JRC)とバラデワクリニックにおいてDOTS戦略を実施し、結核患者の治癒率を上げ、インドネシアの結核対策に寄与することを目的としています。当会より毎年1回プロジェクト評価団が派遣されていますが、今回は杉田博宣第一健康相談所所長と筆者の2人で現地に赴きました。
治療成績から見る2つの診療所の特徴
全期間(97年11月〜01年3月)の治療成績はPPTIから4半期ごとに報告され、下記の表のような結果が出ています。2つの診療所を比較すると、症例数と治癒率それぞれにかなりの違いが見受けられます。
表 治療成績
|
JRC |
年度 |
1997年度 |
1998年度 |
1999年度 |
2000年度 |
全症例 |
27 |
161 |
286 |
269 |
塗抹陽性新患 |
26 |
91 |
130 |
152 |
治癒(%) |
19(73.1%) |
53(58.2%) |
70(53.9%) |
103(67.8%) |
完了(%) |
0(0%) |
22(24.2%) |
24(18.4%) |
18(11.8%) |
失敗 |
4 |
1 |
11 |
12 |
脱落 |
0 |
0 |
8 |
0 |
転出 |
0 |
11 |
13 |
16 |
死亡 |
3 |
4 |
4 |
3 |
|
バラデワクリニック |
年度 |
1997年度 |
1998年度 |
1999年度 |
2000年度 |
全症例 |
63 |
1,131 |
1,571 |
1,215 |
塗抹陽性新患 |
63 |
367 |
571 |
459 |
治癒(%) |
58(92.1%) |
334(91.0%) |
534(93.5%) |
408(88.9%) |
完了(%) |
0(0%) |
0(0%) |
13(2.3%) |
11(2.4%) |
失敗 |
1 |
1 |
1 |
1 |
脱落 |
0 |
19 |
11 |
17 |
転出 |
0 |
0 |
1 |
5 |
死亡 |
4 |
10 |
8 |
8 |
|
PPTI−JATA合同調整委員会にて、シスウォノPPTI会長(前列左から2番目)、杉田団長(前列中央)、筆者(前列右端) |
症例数を見るとJRCに比べてバラデワクリニックはかなり多いことがわかります。同じジャカルタ市内にあっても、高価な医療機器がそろっているJRCは呼吸器疾患全般を診療していますが、バラデワクリニックは比較的貧しい人々が住む地区に位置しており、20年以上も前から結核専門の診療所として近隣の住民に親しまれています。双方の診療所では、結核と診断された患者は、途中で脱落しないことを条件に無料で治療を受けられることになっています。現在治療をしている患者数は、JRCでは約200名、バラデワクリニックでは約700名とのことでした。訪問時、バラデワクリニックには30〜50名程の患者が来所していました。今回の訪問では、治癒率の違いについて明確な原因は突き止められませんでしたが、現地担当者によると、JRCでは治療失敗例や転出例が比較的多く、主な原因は季節労働者や住所不定者で、治療を開始しても数カ月後には行方不明になって追跡が困難になるとのことでした。一方、バラデワクリニックでは結核のみを診療しており、治療前に患者やその家族に対して医師が熱意を持って結核治療の説明をしているので、JRCに比べると患者が結核についてよく理解して治療に取り組めるのではないかと思われました。
おわりに
最終日に開催されたプロジェクト合同調整委員会では、PPTI役員、保健省結核担当官などが参加し、今回の評価の問題点とプロジェクトの継続を確認しました。またインドネシア政府側からもプロジェクトへ大きな期待が寄せられました。JRCの低い治癒率の改善や喀痰塗抹検査の技術強化など依然として多くの課題が残されており、PPTI側と協力してさらにプロジェクトを改善していく必要性を感じました。
バラデワクリニックで薬を受け取る患者さんたち
千代田区で路上禁煙条例施行開始
9月には、水道橋駅前で千代田区職員及び住民ボランティアの方々による当条例スタートのキャンペーンが実施された |
東京都千代田区で、10月1日より路上禁煙条例の施行が始まった。
千代田区は日本有数のオフィス街を抱え、夜間人口が4万人程であるのに対し、昼間の人口は約90万人に膨れ上がる。駅周辺の歩道などは通勤・通学者が捨てる吸い殻に毎日埋め尽くされ、歩きたばこの火が子供の顔に触れてやけどしたり、服を焦がされたりする被害も出ていることから、本条例制定に踏み切った。
具体的には、人通りの多い靖国通りやJR秋葉原駅、神田駅周辺など、千代田区の25%に当たる7地域を路上禁煙地域に指定し、終日禁煙とする。歩きたばこはもちろん、立ち止まって携帯灰皿を使った喫煙も禁止。禁煙地域では区職員や住民がパトロールを実施、違反者に注意し、従わなければ2万円以下の過料を徴収する。10月は注意機関とし、当面の過料2,000円は11月から徴収することとなっている。悪質な場合は警察に通報し、氏名や会社名を公表する。
全国的に見ると、たばこのポイ捨て防止条例を定めている自治体は少なくないが、相変わらず吸い殻が街に散乱するなど、思うように効果が上がっていない。千代田区は全国で初めて歩きたばこを禁止したことから、すでに30余りの自治体から問い合わせが寄せられ、都内でも港区や世田谷区、杉並区などで同様の条例制定の検討を始めているという。一方国会でも、歩きたばこなどの「他人に危害を加えるおそれのある吸い方」をした者に対する罰則を定めた軽犯罪法改正案を、6月に民主党が衆議院に提出している。
喫煙者にとっては、たばこを吸う場所の確保に頭を悩ませる時代になりつつあるが、条例があるから、というのではなく、周囲の人の健康に及ぼす害や、やけどの危険、吸い殻のポイ捨てによる環境汚染への配慮からの、喫煙マナー向上が求められよう。ちなみに結核予防会本部のある水道橋駅周辺も路上喫煙禁止区域に指定されている。条例の効果が現れるかどうか、注目していきたい。
文責 編集部
水道橋駅前に設置された看板
マスコミ資料
たばこ・肺がん
●8/23 朝 宇都宮市教育委員会が市立の全小中学校80校を完全禁煙にする方針を決めた。
●8/23 毎 たばこ問題情報センターが「日本のたばこ事情2002年版」を刊行。
●8/26 薬事日報、産 ファルマシアと武田薬品は9月2日から、禁煙補助剤「ニコレット」の24個入りを新発売する。
●9/2 中国 広島県深安郡神辺町の町立病院が9月から全館禁煙に。
●9/4 産 医療経済研究機構まとめによると、たばこが1箱300円に値上げされると禁煙する人が16%に上り、1,000円なら63%というアンケート結果が出た。
●9/5 毎 橋本元首相は4月に心臓弁の手術退院後、たばこと絶縁する決意を固めた。
●9/6 薬・読 アストラゼネカ社より、肺がん治療薬ゲフィニチブ(商品名イレッサ)が薬価基準に収載されると同時に、世界に先駆け日本で発売された。
●9/7 河北新報 福島市のタクシー会社が9月より禁煙車を導入。
●9/12 毎 学校と家庭での禁煙教育に、アーニ出版社が「タバコいや!の絵本」を出版。
●9/17 中国 岡山県議会が議会棟内を原則禁煙とした。
●9/25 毎 JR東日本は12月のダイヤ改正に合わせ、新幹線の禁煙車両の数を増加すると発表。これで全体における禁煙座席の割合は67%に。
●9/26 読 「薬局で買える禁煙補助剤」ニコレット(米ファルマシア社)の売上が、発売1年間で約90億円に達した。
●9/28 毎・読 静岡県立こども病院は10月から、全国初15歳以下の患者に禁煙専門の外来「卒煙外来」を開設する。
●10/2 朝・読・毎他 東京都千代田区は、路上喫煙や歩きたばこを罰則つきで禁止する「路上喫煙禁止条例」を1日より施行。今月間は注意機関とし、当面の過料2,000円は11月から徴収する。
●10/8 毎、10/10 朝 千代田区は、路上喫煙の禁止に関する「生活環境条例」施行後1週間で、指導や注意を計2,097件行った。また、電話・メールで575件の意見が寄せられ、このうち条例賛成243件、反対216件、禁止地区等の問合せが116件あった。
●10/12 読・毎 千代田区の禁煙地域の排水溝で、投げ捨てられた吸い殻が原因と見られるぼやが起きた。
●10/12 朝 米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに日本で開発されたイリノテカンと、シスプラチンという2つの抗がん剤の新たな組み合わせで、小細胞肺がん(肺門部にできやすく、比較的悪性度が高い)の治療効果が高まったという論文が掲載された。
●10/16 産、10/18 薬 肺がん治療薬として承認された「ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)」を服用した患者26人に肺障害が起こり、うち13名が死亡していることが明らかになった。
結核
●8/27 毎・朝 神奈川県綾瀬市の病院で男性医師(48歳)が肺結核で死亡。過去5回の健康診断で自己診断をしており、2年前のレントゲン写真から結核の疑いが確認された。
●9/6 産 南アで開かれたヨハネスブルクサミットにて、世界エイズ・結核・マラリア対策基金の実施計画で「基金を支援する十分な資金提供の約束を履行する」との1項が盛り込まれた。
●9/20 毎・産・西日本、9/25 薬 9月17日厚労省発表の結核発生動向調査結果によると、結核新規患者数・罹患率は2年連続の減少。中でも70歳以上が占める割合は過去最高を更新(詳細は 結核の統計2002を読む参照)。
●9/30 朝 千葉市の医院で60歳代の男性医師が結核に感染。通院患者500人余りを接触者健診する。
●10/9 北海道 非定型抗酸菌症の平成13年度新規患者数は道内で303人。平成10年度から結核と区分されて以来、抗酸菌全体の20%前後に達している。
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