Q&A
クエスチョン&アンサー
不安や悩みを打ち明けたり相談することができないのはなぜでしょう? それは多くの場合、誰にでも次のような思い込みがあるからではないでしょうか。
(1)めったにない病気にかかってしまった?
(2)育て方や家庭環境が悪かったから?
(3)もう治らないかもしれない?
(4)遺伝ではないのか?
(5)危険な行為をしてしまうのではないか?
このような「思い込み」は、家族がそのために心を閉ざす5つの大きな「壁」でもあります。この壁を乗り越えるには、きちんとした知識を得て、まずは「思い込み」を修正していくことが必要です。
では、きちんとした知識とはなんでしょうか。ちょっと理屈っぽいところもありますが、少し我慢して読み続けていただけますか?
Q めったにない病気?
A いいえ、統合失調症はありふれた病気です。
多くの調査によると、人が一生のうちで統合失調症にかかる割合は成人100人に1人弱、つまり1パーセントにおよんでいます。これによると、統合失調症の方は日本に約100万人程度いると推計されます。
国が3年ごとに行っている患者調査によれば、統合失調症の患者数は70万人を超えています(この数字は医療機関にかかっている人の数字です)。ちなみに慢性肝炎の患者数は約72万人ですから、統合失調症がたぐいまれな病気というのは間違った考えであることがおわかりいただけると思います。つまり、統合失調症は、ごくありふれた病気なのであり、「めったにない病気」というのは思い込みということになります。
統合失調症は common disease
100人に1人以上がかかるような頻度の高い病気をcommon disease(ありふれた病気)といいます。common diseaseには、アレルギー、糖尿病、高血圧などがあり、統合失調症もその一つです。
Q 育て方や環境のせい?
A いいえ、統合失調症は脳の障害で起きる病気であり、育て方や環境のせいで起きるものではありません。
一昔前までは、統合失調症は原因不明の病気だといわれていました。しかし、現在では研究の進歩によって、原因に関して多くのことが次第に解明されつつあります。どのような脳機能障害が症状に関係しているか、ということまでは、すでにわかっているのです。
Q もう治らない?
A いいえ、統合失調症は治療可能な病気です。
薬による治療を「薬物療法」といいます。これが治療の基本です。統合失調症の治療に主に使われている薬は「抗精神病薬」とよばれ、過敏になった脳神経の活動を抑える働きをします。
また、病状の回復状態や程度に応じて精神療法やリハビリテーションが行われます。
統合失調症の新しい薬
統合失調症の新しいタイプの治療薬がここ数年相次いで日本でも発売されています。海外では日本よりも早くから広く使われており、次のような特長が認められています。
(1)従来の薬よりも、効果が高い
(2)従来の薬が効かない人にも効く人の割合が高い
(3)従来の薬よりも副作用が格段に低い
日本で発売されている新薬は、リスパダール、ジプレキサ、セロクエル、ルーラン、の4種類です。
Q 遺伝ではないのか?
A 遺伝がすべての原因ではありません。
統合失調症はありふれた病気である、と先に述べましたが、家族や親戚に患者がいない場合でも発症する割合は1パーセントで、どちらかの親が統合失調症の場合、子供が発症する確率は13パーセントとなります。
かつて遺伝がすべてだと言われた時期もあり、反対に遺伝の影響はまったくない、と言われたこともありましたが、どちらも正しくありません。現在では「遺伝の影響はある程度はあるが、それがすべてではない」と考えられています。
これまでの研究から、統合失調症に関係があると思われる遺伝子が多数確認されており、この障害には数種類の生化学的障害が関与しているものと考えられています。しかし、遺伝子以外にも多くの因子が関与しており、現在、それらの因子は少しずつ解明されてきています。
Q 危険な行為をしてしまうのでは?
A 治療とリハビリテーションが大切です。
幻聴(まわりの人には聞こえない声や音が聞こえる)や妄想(真実ではないことを信じ込む)あるいはイライラ感などのために暴力的・攻撃的になる患者さんも確かにいます。しかし多くの患者さんはきちんと治療を受け、服薬を継続していれば、暴力的でも攻撃的でもなく、むしろもの静かで几帳面で、非常に繊細な人たちが多いといわれているほどです。
また、治療だけではなく、デイケアや作業所などのリハビリテーションの場に通うことで、生活にリズムがつき、また、他人との関係もでき、状態もよくなってくることが多くの方の経験からわかっています。
それなのに「何をするかわからない怖い存在」と思われてしまうのは、不幸な事件などの報道で「通院歴」とか「精神障害」という印象だけが一人歩きするためです。司法統計によれば、刑法犯として検挙された精神障害者の約7割は一度も治療を受けたことがない人と、治療を受けたことはあっても(通院歴はあっても)長い間通院をやめてしまっている人たちです。
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