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「川の動物、川で知る川の環境」
筑波大学、戸板女子短期大学 講師 西澤幹雄
川の動物
 
 生物は生きるために食物をとる。動物の食物は植物であり、植物の食物は太陽の光と水・二酸化炭素やその他のミネラルなどである。
 水中の生きものは、植物は植物プランクトンの主体となる藻類、コケ類、水草といわれる水生植物などがいる。動物はこれらの植物を食べる動物プランクトン、水生昆虫をはじめとする底生動物や遊泳する魚類などがいる。
 
1. 「川の動物」
 川を上流、中流、下流と分けると。
(1)上流 流れの速い渓流では、植物プランクトンなどは流されてしまい、動物の食物となるものは、石や岩の表面に生える藻類やコケ類である。また落ち葉がある所では、これもまた食物となる。石や岩に生える藻類・コケ類や落ち葉などを食べる動物には、カゲロウ、カワゲラ、トビケラなどの水生昆虫の幼虫がいる。水生昆虫の親は空中を飛ぶ。流れが速い渓流にいるカゲロウやアミカ、ブユなどの幼虫は、体が平たくなっていたり、砂礫の中に潜ったり、吸盤があったりして流されないようにしている。
 上流には水生昆虫ではカゲロウ、カワゲラ、トビケラ、ヘビトンボ、トンボ、ホタル、ヒラタドロムシ、アミカ、ブユなどの幼虫がいる。他にプラナリア(ウズムシ)やサワガニ、カワニナなどがみられる。これらの中では、植物を食べるものと肉食のものとがいる。水生昆虫などを食べるのが魚類でイワナ、カジカ、シマドジョウ、ヤマメ、ウグイ、アブラハヤなどがいる。
(2)中流 水生昆虫ではカゲロウ、カワゲラ、トビケラ、ヘビトンボ、トンボ、ホタル、ガガンボ、ドロムシ、アブなどの幼虫の他にミズムシやヒル、ミミズなどがいる。貝類ではカワニナやシジミなどがいる。魚ではアユ、オイカワ、ギバチ、ウグイ、シマドジョウ、カマツカ、ジュズカケハゼ、カワムツ、ニゴイ、ギンブナなどがいる。
(3)下流 カ(ユスリカ)やハエの幼虫、イトミミズ、サカマキガイ、魚ではコイ、ニゴイ、ギンブナ、ウグイ、モツゴ、ゲンゴロウブナ、カマツカ、オイカワ、ナマズ、ウナギ、ビリンゴ、タモロコ、メダカ、チチブなどがいる。
 
2. 「動物で知る川の環境」
 川は上流から下流になるに従い汚れてくる。特に人の生活が関わってくると、水の汚れ具合は急に激しくなる。水の汚れ具合により、動物によっては生活できない状態が生じてくる。このことから、生息している動物によって、川の汚れ具合を知ることができる。
 「きれいな水」とか「汚れた水」などという場合に、ある生物がいれば「きれいな水」、また、他のある生物がいれば「汚れた水」などということができれば、それらの生物を指標として「きれいな水」だとか「汚れた水」だとかとうことができる。そこで指標となる生物を、「指標生物」という。
水質階級を4区分すると、
I. きれいな水「水質階級I」
II. 少しきたない水(少し汚れた水)「水質階級II」
III. きたない水(汚れた水)「水質階級III」
IV. 大変きたない水(たいへん汚れた水)「水質階級IV」
というようになり、このような分け方が用いられている。
 
 各「水質階級」に棲む水生昆虫などをみると、次のような例があげられる。
(I)きれいな水「水質階級I」にすむ水生昆虫など。
 
カゲロウ:
マエグロヒメフタオカゲロウ、ウエノヒラタカゲロウ、フタスジモンカゲロウ、
トンボ:
ムカシトンボ、ミルンヤンマ、オジロサナエ、ミヤマカワトンボ
カワゲラ:
カミムラカワゲラ、ヒメオオヤマカワゲラ
ヘビトンボ:
ヘビトンボ
トビケラ:
ヒゲナガカワトビケラ、ムナグロナガレトビケラ、ニンギョウトビケラ
サワガニ
 
プラナリア
(ウズムシ)
 
(II)少しきたない水(少し汚れた水)「水質階級II」にすむ水生昆虫など。
 
カゲロウ:
シロタニガワカゲロウ、ミツトゲマダラカゲロウ、モンカゲロウ、フタバコカゲロウ
トンボ:
ダビドサナエ、ハグロトンボ、オニヤンマ
カワゲラ:
オナシカワゲラ
ヘビトンボ:
ヤマトクロスジヘビトンボ
コウチュウ:
ヒラタドロムシ
ホタル:
ゲンジボタル
ガガンボ:
ウスバヒメガガンボ
アブ:
クロモンナガレアブ
トビケラ:
ウルマーシマトビケラ、コガタシマトビケラ
カワニナ
 
(III)きたない水(汚れた水)「水質階級III」にすむ水生昆虫など。
 
カゲロウ:
ヒメカゲロウ、トウヨウモンカゲロウ、サホコカゲロウ
トンボ:
アキアカネ、シオカラトンボ
ヘビトンボ:
ヤマトセンブリ
ホタル:
ヘイケボタル
ミズムシ
 
シマイシビル
 
(IV)大変きたない水(たいへん汚れた水)「水質階級IV」にすむ水生昆虫など。
 ハエ
 カ:ユスリカ
 イトミミズ
 サカマキガイ
 
 「きれいな水」にすむ生物は、きれいな水にしか棲めない生物で、水質が悪くなるとすぐに死んでしまう。このような生物に対し「きれいな水」から「汚れた水」にまで棲める生物は水質の変化に耐えられるので、「少し汚れた水」や「汚れた水」に棲める生物として揚げられていたりする。
 
3. 「水生昆虫の調査」
 川底には石、砂、泥などがあり、また落ち葉や木の枝などがある。そして水生昆虫などはこれらにしがみつくようにしていたり、もぐったりしている。したがって、水生昆虫などの採集は、石や落ち葉などについているものや砂などに潜っているものなどを採る方法を行う。
 
服装
(1)帽子着用。
 
(2)川に入るのには、膝まである長靴、あるいは水の中に入れる靴で入る(この場合、着替え用の靴下や靴を用意する)。ビーチサンダルは足を傷つけるのでやめたほうがよい。
持ち物
・網。
 
・ピンセット。
 
・小型のバットか発砲スチロールのトレー。
 
・筆記用具、ルーペまたは虫めがね。
 
・ゴム手袋(汚れた水のところを調べる場合)。
・温度計。流速を測る糸と浮き(温度や流速を調べる場合)。
 
1. 採集方法
・石を裏返して表面にいる動物を採集する。小型のバットか発砲スチロールのトレーに水を少し入れておき、この中に石の裏についている動物を落とす。
・網を水面近い水中で水平にし、網の中で石の表面をこすり網へ動物を落とす。
・網を流れの中に口を広げて立てて入れ、その網の口に生物が入るように流れの上の石を足でかき回す。
◎網の中へ入った動物はなるべく早く、水を入れたバット・トレーの中に入れる。
◎食性の違う動物を同じ容器に入れないようにする。肉食性の動物は、狭い容器の中で簡単に捕食できるので、すぐに捕食してしまう。
(* 定量的に調べるのであれば、水面の一定表面積の下にいる生物を全部採集する方法を採る。この場合は、その範囲のすべての石、や砂から採集する。)
2. 採集用具
 網は川底に着く部分が直線になっているものがよい(丸網でないほうがよい)。
 水生昆虫用か熱帯魚などをすくう網でよい。
 網から虫を取り出すのには、ピンセットを用いるのがよい。また、水から取り出すときには先がかなり大きく開いたスポイトを作っておくと便利である。
3. 同定方法
 採集したものを生きている間に同定し、生きたまま川へ戻すのが最もよい方法である。しかし、生かしたまま持ち帰るには、水温が上昇したり、酸素が不足するとすぐ死んでしまうものがいるので注意が必要である。
* なお、その場で同定できないもので、持ち帰って同定する必要が生じた場合には、必要な個体数を持ち帰る。標本にしないと同定できない種類が生じた場合は、必要な個体数を80%エタノールで固定する。
 標本を同定するのには、双眼実体顕微鏡を用いるのがよい。標本を小型のシャーレ(ペトリ皿)に入れ、上下からの光源を用いて観察する。







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