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「川のでき方、滝、沢、川と植物」〜植物で知る川の変化〜
東京都高尾自然科学博物館 嘱託 森廣信子
1 川の性質を知る
川・河・谷・沢・渓流ということば
 厳密に定義されているわけではないが、習慣で呼び分けている。河は川より大きく、かつ平地を流れる印象がある。谷は山の中の深く切れ込んだ線状の地形を指し、水の流れはなくてもいい。沢と渓流は山の中の比較的小さい流れを指すようだ。大きさは相対的なもので、川より大きな沢もある。
 川は便宜上、本流と支流を区別する。最も川床の低いものを本流、それより川床の高いものを支流としている。ただし合流点では、土砂が堆積してわかりづらいことがある。
 「この一滴から川が始まる」という表現がされるが、もちろん川の水はもっと広い範囲から集まってくる。1本の川が水を集める範囲を「集水域」という。ある川の集水域に降った雨は、地表を流れるだけでなく、地下も通っていずれその川に集まる。集水域の広さや状態によって、川の水の量や変化の程度が左右される。
 
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河口からの長さ
 
川の流量は変化する・・・どこまでが川の領域か?
 堤防がある川では、堤防より流れに近い部分は川の領域で、増水時には水に浸かる可能性がある。堤防がない川では、増水したとき、どこまで水がくるかを、まわりの様子から読みとろう。
 日本の河川は、平常時と増水時の流量の差が非常に大きいという特徴がある。広い河原のある川は、流量の変化が大きいことを表している。大陸の川のように、川岸に河原がほとんどない川は、流量の変化が小さく穏やかである。
 
平常時
 
増水時
 
川の水の増え方
1 増水 川の水が増えると、水の勢いも強くなる。水だけでなく、泥や石や流木も一緒に流れてくる。普段は穏やかな流れの川でも、人の力で低抗することができないほどになる。
2 鉄砲水 流木などで一時的に川がせき止められて水が溜まり、次にせき止めていたものが壊れて、溜まった水が一気に流れ下る。雨が降っているのに水かさが減るようなことがあったら、上流に「一時ダム」ができたと考えよう。鉄砲水の及ぶ範囲は、ふつうの増水よりはるかに大きい。また巨大な岩でも動かすようになる。
3 土石流 水より土砂の量のほうが多いような流れ。雲仙岳の噴火の時は、火山灰が溜まったところに雨が降って、溜まった火山灰を押し流した。崩れた土砂が川の近くに溜まっているようなとき、火山でなくても発生する。破壊力が非常に大きい。
☆ 浸食の起こり方を考える
 「川には浸食・運搬・体積の働きがある」「氷河はU字谷、川はV字谷をつくる」と教科書には書かれているが、普段の川は土地を削っているようには見えないし、透き通った水は泥を含んでいないことは明らかだ。それでは、いつ、どうやって浸食し、V字谷をつくるのだろうか?
 森林はその中でどのような役割をしているのだろうか?
 
川の中にはいろいろなところがある
 
 川の中の水の流れは一様ではない。流れの遅いところやほとんど流れのないところ、上流へ向かう流れ、底に向かう流れもできる。思わぬ強い流れに注意。
 
2 植物が語ること
 川のそばには他のところとは違った植物が生育していることが多い。これは湿っているからだと考えがちだが、もっと大きな理由がある。
 
植物の生活の組み立てと寿命
 植物の生活の特徴は、「動かない」ことだ。洪水・山崩れ・火災が起こると、逃げることはできないで、死ぬしかない。これに抵抗するには、寿命を短くして、洪水が起こった後から次の洪水が起きる前までに、生長して花を咲かせ、種子(植物にとって、一生のうち最も抵抗力がある時代であり、移動可能な唯一の時代)を作る必要がある。
 また、ほとんどの植物は、同じように水・ミネラル・光を必要とする。これらが不足すると、生長速度は極度に遅くなって、時には生長が止まってしまう。特に光は、植物が茂ることによって次代の植物から奪われてしまう。背の高い植物が茂れば、背の低い植物は光を奪われる。
 植物にとって、以上の二つは全く違った影響を与える。
1 できあがった体を壊すような事件が起こる環境
 植物は破壊と破壊の間の短い期間に一生を完了するか、少しでも種子をつくるようにしなければならない。大きな体をつくる時間はないので、小さい体でも成熟するようになる。寿命が長くても、長い寿命を享受するチャンスはない。
2 光合成生産が遅くなるような環境
 ゆっくりとしか生長できないから、成熟には長い時間が必要になる。そのため長い期間破壊が起こらない、安定した環境でなければならない。安定した環境であれば、時間をかけて生長することもできるし、十分生長したら、長い間繁殖を続けることもできる。この場合は、寿命は長い方がいい。森林の樹木は、百年以上生きる。
 
 川辺は1の環境にあたる。川との位置関係で、破壊の程度と頻度が変わるので、川辺では、他の場所では見られない植物群落が見られることになる。
a・・・世水時の水位
b・・・平均水位
C・・・渇水時の水位
 
川辺の植生
 
池や沼の植生







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