「中海土地改良事業」後における宍道湖・中海政策の第1次提言
2003年2月10日
(財)宍道湖中海汽水湖研究所
1. 提言にあたって
(現状)
(改めるべき課題)
(目標の設定)
2. 基本的なあり方
(両湖を「ラムサール条約」の登録湿地にすること)
(「自然再生推進法」の活用)
3. 宍道湖・中海における水質をはじめとする湖沼環境の改善
1)水質浄化の目的・目標
2)水質改善のための対策
1. 汽水域としての特性・機能の回復。(海水の交換条件の回復)
2. 流域からの汚濁負荷の削減策
3. 湖内・湖岸対策
4. 宍道湖・中海の水産振興対策
1)中海
1. 中海における水産振興の基本方向
2)宍道湖
5. まとめ
「中海土地改良事業」後における宍道湖・中海政策の第1次提言
1. 提言にあたって
(現状)
「中海土地改良事業」後の地域振興策のあり方については様々な課題があるが、これについて島根県は「今回の事業中止に伴う周辺整備等について、県議会や関係市町の意見を十分お聞きした上で、地元の要望にも十分応え、また、県の責任ある計画として国に要望し、その実現に努力してまいります。さらに、国や関係市町等の協力を得て、新たな視点に立った中海圏域全体の振興に全力を挙げて取り組んでまいりたい」(平成12年9月20日定例議会知事提案理由)と述べられているにもかかわらず、未だ新しい視点に立った振興についての例示は全くない。
そのような中、本庄工区干拓事業の中止から2年経過し、平成14年12月には淡水化事業の中止が決定された。その結果、新たな課題として中浦水門の取り扱いが浮上してきている。この2年間に限っても、魚介類の大量斃死する状態が発生しており宍道湖・中海の水質や、生態系の問題は、改善されるきざしはない。今後、島根県が取り組んでいく宍道湖・中海の地域振興策は、多くの改めるべき課題がある。
(改めるべき課題)
(1)宍道湖・中海の地域振興策の基本に、宍道湖・中海水系一体となった漁業振興を唱えること。
(2)宍道湖・中海のワイズユース、その基本的なあり方についての理念を確立すること
この水域は住民にとって「親水権」の享受地域であり、産業としての活用―漁業、海運(中海)、観光も考慮すること。
(3)活発な漁業が、水質保全を支え、逆に良好な水質が漁業振興に最も必要であることを基本認識として、今後の地域振興を図っていくべきである。
(目標の設定)
両湖が本来持っている機能を回復させることを第一義とする。そのためには夏場を中心に両湖で頻繁に見られる「貧酸素水塊」の解消や漸減を目指すことを目標とする。
そのためには、まず締め切り堤(森山堤・大海崎堤)の一部(各200m)を開削し、その漸進的な改善効果に期待する。
また、本庄工区に関する堤防は、両湖最大・最長の人工湖岸であり、200mを開削した後の残る部分についても、積極的に湖岸植生帯(陸上、水上部)を創生することを目標にすべきである。
2. 基本的なあり方
日本最大の汽水域である宍道湖・中海が、人間と自然と共生のモデルとなるよう、今後官民あげて取り組みを開始し、残置すべきである。また、今後の環境再生にあたって、そのための理念と方策を探るため、速やかに「ラムサール条約」の登録湿地を目指すとともに、今後の事業主体やその財源等を考慮し「自然再生推進法」の活用を検討する必要がある。
(両湖を「ラムサール条約」の登録湿地にすること)
宍道湖・中海のワイズユースについてはまず理念の構築をしなければならない。これからの湖の管理に当たっての理念は「ラムサール条約」の登録湿地となることで獲得することができる。その行為を行うことは国内外に対し両湖の将来の基本的な取り扱いについて宣言することと同じである。
というのは、「ラムサール条約」とは単に渡り鳥を保護するためのものではなく、湿地全体を有効に活用・保全するための指針を示す条約であるからである。このような認識に切り替えれば、「ラムサール条約」の登録湿地になることは、今後の地域振興策との矛盾は全くみられない。むしろ、今後の湖管理の基本方針となる。以下「ラムサール条約」について説明を加える。
条約では、湿地の定義がつぎのように行なっている。
「ラムサール条約」でいう湿地は、「湿地とは天然のものであるか人工のものであるか、永続的なものであるか一時的なものであるかを問わず、・・・中略・・・淡水であるか汽水であるか鹸水であるかを問わず、沼沢地、湿原、泥炭地または水域をいい、低潮時における水深6メートルを超えない海域を含む」(条約第1条)と極めて幅広い範囲の水域に適用される。
また条約では、湿地の利用について、次のように定義をしている。
湿地の利用について、過剰な利用をさけるため次の条文がある。「締約国は、登録簿に掲げられている湿地の保全を促進し及びその領域内の湿地をできる限り適正に利用することを促進するため、計画を作成し、実施する。」(条約第3条1項)、この日本語文の中では中々読みとりにくいが、この条文は「湿地の賢明な利用」について述べている。訳文では伝わりにくくなっている部分が英文原本では明確である。(The Contracting Parties shall formulate and implement their planning so as to promote the conservation of the wetlands included in the List, and as far as possible the wise use of wetlands in the territory.)
更に「賢明な利用」については、第3回締約国会議で次のように定義をしている。
「賢明な利用とは、生態系の自然特性を変化させないような方法で、人間のために湿地を持続的に利用することである。」
「持続的な利用とは、将来の世代の需要と期待に対して湿地が対応する可能性を維持しつつ、現在の世代の人間に対して湿地が継続的に最大の利益を生産できるように、湿地を利用することである。」
この事項は第6、7回の締約国会議でも更に発展してきて、「賢明な利用」を持続可能な利用と同一のものと見なしている。
登録湿地と賢明な利用原則。
条約に基づいて湿地を国際的に重要なものと指定する(登録する)という行為は、保全と持続可能な利用という道程に踏み出すにふさわしい第一歩であり、その道程の終着点では、湿地の長期的かつ賢明な(持続可能な)利用を達成するものである。
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ラムサール条約第7回締約国会議決議VII.11から
昨年11月に開催された第8回の締約国会議では、新たに「湿地の復元のための原則とガイドライン」(ラムサール条約第8回締約国会議決議VIII.16)が決議されていることを付け加えておく。
(自然再生推進法の活用)
全事業の中止が決定された今、「誰が両湖の環境改善の主体となるべきか」ということでボールの投げ合いが始まろうとしている。しかし、両湖の環境改善については、そういった議論を行う余裕などはない。速やかに必要な施策を実行に移すことが求められている。そのためには、改善のための事業主体については、島根県があたるという覚悟で作業に着手しなければならない。そこで、法律の中身が未確定であり、中身に問題があるとの議論もあるが、平成14年12月に成立し今年1月1日に施行された「自然再生推進法」の活用を検討する必要がある。
(目的)
第一条 この法律は、自然再生についての基本理念を定め、及び実施者等の責務を明らかにするとともに、自然再生基本方針の策定その他の自然再生を推進するために必要な事項を定めることにより、自然再生に関する施策を総合的に推進し、もって生物の多様性の確保を通じて自然と共生する社会の実現を図り、あわせて地球環境の保全に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「自然再生」とは、過去に損なわれた生態系その他の自然環境を取り戻すことを目的として、関係行政機関、関係地方公共団体、地域住民、特定非営利活動法人(特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)第二条第二項に規定する特定非営利活動法人をいう。以下同じ。)、自然環境に関し専門的知識を有する者等の地域の多様な主体が参加して、河川、湿原、干潟、藻場、里山、里地、森林その他の自然環境を保全し、再生し、若しくは創出し、又はその状態を維持管理することをいう。
2 この法律において「自然再生事業」とは、自然再生を目的として実施される事業をいう。
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自然再生推進法から
この法律がいまだ未整備だということで消極的な判断があるとすれば、中海・宍道湖の再生作業を通じて、この法律を充分なものにしていけばよいのではないか。今島根県に求められるのは、取り組みの過程で示すそういった進取性、積極性ではないのか。
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