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5)中海と美保湾との交換流量
 中浦水門を利用して美保湾からの高塩分水流入を軽減することによって、美保湾と中海との水交換量が減少することが懸念される。今回のシミュレーションでは、本庄工区の2つの堤防を開削することによって交換水量を保ってきた。ここでは、現況とケース3、4における美保湾と中海との交換流量の変動を考察した。年間のシミュレーション結果から中浦水門における美保湾と中海との交換流量、森山堤防における美保湾と本庄工区との交換流量、大海崎堤防における本庄工区と中海との交換流量についてそれぞれ算出し、図2.14に示した。また、各地点における6ヶ月間における平均流量を表2.2にまとめた。この表では、中浦水門におけるプラス側(中海→美保湾)の平均とマイナス側(美保湾→中海)の平均を算出し、同様に森山堤防と大海崎堤防のそれぞれの平均値と比較することにより、環境修復後における中海と美保湾との交換流量の変化を検討した。
 これによると、現況の中浦水門における交換流量が、ケース3、4では2つの堤防開削による交換流量を加えた量とほぼ同じもしくはそれ以上となり、美保湾への流量は保たれているものと考えられる。
 
表2.2 
シミュレーション結果から算出した中海−美保湾間の交換流量(5ヶ月間の平均)
  中浦水門 森山堤防 大海崎堤防
現況 中海→美保湾 130 本庄工区→美保湾 0 中海→本庄工区 0
中海←美保湾 97 本庄工区←美保湾 0 中海←本庄工区 0
ケース3 中海→美保湾 69 本庄工区→美保湾 93 中海→本圧工区 75
中海←美保湾 39 本庄工区←美保湾 86 中海←本庄工区 68
ケース4 中海→美保湾 58 本庄工区→美保湾 114 中海→本庄工区 110
中海←美保湾 37 本庄工区←美保湾 93 中海←本庄工区 73
単位:m3/S
 
図2.14 シミュレーション結果から算出した中海と美保湾の交換流量
現況
 
 
 
図2.14(続き)シミュレーション結果から算出した中海と美保湾の交換流量
ケース3:下段ゲートを常時閉めた状態
 
 
 
図2.14(続き)シミュレーション結果から算出した中海と美保湾の交換流量
ケース4:上げ潮時は全面閉鎖、下げ潮時は全面開放.
 
 
 
3. まとめ
 
 宍道湖・中海の環境を改善するための様々な修復案が提案されている中で、平成13年度は貧酸素水塊を軽減するための修復案について、改善効果を定量的に評価・検討するシミュレーション調査を行い、堤防開削による海水流入の浄化効果が示された。この結果を受けて平成14年度は、中浦水門における流量操作に着目した環境修復シミュレーションを実施することにより、更なる宍道湖・中海の環境改善効果を検討した。
 昨年度の修復案条件の中から「中浦水門に潜提設置」を「中浦水門の流量操作」に変更して、昨年度と同等な改善効果が現れるかどうか、まず8月1ヶ月間の計算を先行して実施した。それによると、中央航路部を全面開放した場合では、ケース1(下段ゲートを常時閉めた状態)およびケース2(上げ潮時は全面閉鎖、下げ潮時は全面開放)とも昨年度と同等な効果は現れなかった。そこで、中央航路部を中央閘門(幅20m)のみ開放の条件に変更したケース3およびケース4では、昨年度と同等な効果が現れ、ケース3と4を用いて1998年5月〜10月の6ヶ月間のシミュレーションを実施した。
 半年間のシミュレーションにより、ケース3と4による改善効果の季節変化をとらえた。それによると、ケース3では中浦水門を中央閘門のみとしたため、高塩分水が中海に流入し難くなり、中浦水門南部を中心に中海全域で低下した。ケース4ではケース3と比較すると高塩分水が中海に流入するが、酸素消費を抑制した浚渫後窪地を中心とした米子湾方面でDOの増加が予測され、中海の酸素環境が若干改善された。しかし、ケース4の全面開放時に下層からの逆流入も考えられ、今後は中浦水門を活用する上で実用性の検討が必要となる。
 その他、本庄工区の2つの堤防を開削したことにより、本庄工区内は塩分が上昇、DOが増加し、環境が激変する結果となった。また、中海環境修復の効果は宍道湖にもわずかながら影響していることも確認された。
 
 本報告は、当研究所が2002年度日本財団助成を受け実施した「宍道湖・中海環境修復案検討シミュレーション」報告を取りまとめたものです。このシミュレーションは(株)シーティーアイ社に研究所が示した条件下で委託した結果です。







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