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I 相談事業
1. 国際的児童問題
1. 国際養子縁組
 
 ISSJは、今年度も日本自転車振興会(KEIRIN)の補助金を受けて、養育者のいない子ども達が国際養子縁組によって新しい家庭の中で保護され、養育されるように国際的児童家庭相談事業を行った。ISSJは国際的に解決しなければならない問題を持っている個人あるいは家族に、その問題解決のために相談に応じている民間の社会福祉事業団である。設立当初から国際養子縁組はISSJ相談事業の柱のひとつであり、今も昔も変わらず子どもの利益が最優先される養子縁組であることの理念を守り続けている。
 我が国では、養子縁組に関する古い歴史的事実においては、家系存続、遺産および権威の継承の手段として用いられることが主であり、養子となる子どもの利益あるいは福祉が中心となるのは20世紀半ばからである。現在様々な社会変化に伴って、養子となる子どもあるいは子どもの実父母らの生活史や、社会的背景は違ってきたし、また養子となる子どもにも変化が見られる。
 第一次世界大戦、第二次世界大戦と欧米やアジアの国が関わる戦争が続き、その結果多くの戦災孤児や母子家庭が生まれ、当時の日本では偏見と差別が強く、健全な養育環境の中で生活することが困難であった。このため国際的に子ども達を救済する意味で国際養子縁組が行われ始めた。一つの国から他の国へ移動し、異なる社会的文化的そして法的制度に直面する子ども達の保護が注目され、子どもの福祉としての国際養子縁組制度に焦点が当てられるようになってきた。
子どもの成長にとって家庭は大切
 
 日本における国際養子縁組は、太平洋戦争終結後進駐軍の外国人兵士と日本人女性との間に生まれた多くの混血児が主に父親の国である米国へと国境を越え養子縁組された。当時、子どもの福祉を守るという信念を持ち、またこのような手続きは専門家によって行われるべきだとの理念で、これらの子どもの親権に注目した日本、米国およびカナダの宣教師や篤志家らが国際養子縁組に取り組んだ。
 我が国は長年にわたり養子となる子の「送り出し国」であったが、1985年ごろから養子となる子どもの「受け入れ国」にもなってきた。これは日本人男性と外国人女性との婚姻数の増加に伴って、外国人妻の連れ子あるいは親戚の子を養子にする養子縁組が行われるようになった結果である。
 国際養子縁組に出される子どもにとってそれが最善の利益であるか、子どもと実親の権利が守られているかどうか原則的にその責任は出身国にあるとされている。
 日本では国際養子縁組法がまだ制定されていない。しかし多くの国には国際養子縁組法が存在し、対象となる子どもが守られている。例えばフィリピンを例にとると国際養子縁組に関する法律が細かく規定されており、国際養子縁組委員会(Intercountry Adoption Board:以下ICAB)が渉外養子縁組を統括し子どもの福祉と安全を管理している。ICABは国内、国外の様々な情報を集め、さらに彼らが業務協定を結んだ、国外の団体と定期的に連絡を保ち、また国際会議を開催するなど、中心的役割を積極的に果たしている。日本には、このような中心的役割を果たす公的機関はないので、ISSJは日本の代表としてICABと業務協定を結んでいる。国際養子縁組は多くの国々が関っていることを踏まえ、それらの国の法制度あるいは養子縁組を取り巻く国情、現状等世界の動向を見ながら情報を収集し、また国内の国際養子縁組の現状も常に掌握できる中央当局が必要である。国際養子縁組は外国の事情と日本の事情とに通じていなければできない仕事である。「送り出し国」であり「受け入れ国」でもある日本の現状の中、国際養子縁組に関する子どもの福祉を保護する法制度の遅れが、子どもの福祉に関心のある法律家などにより度々指摘されている。日本国内の家庭裁判所で養子縁組が成立した件数は統計が取れるが、養親の国で養子縁組が法的に成立する場合、養親の本国に移民として入国する子どもの数は掌握できない。まして養子縁組が法的に養親の本国で完了したかあるいは不成立だったのか、件数はまったく明らかでない。養子候補児の福祉の視点から見れば送り出し国としては多々問題を残している。
 我が国には養子を斡旋する団体は民間の任意団体や個人を含めいくつも存在するが、斡旋の方法、費用および手続はまちまちである。また動機として、人工中絶に反対する宗教的視点を持つ団体、子どもを養子に出すことを希望する人と養子をほしいと希望する人の橋渡しの必要から、養子となる子を探すための積極的に広範囲にわたり産婦人科医との情報網を作った団体、外国人宣教師との協力により斡旋を行っている団体等々、いずれにしても統一された細かい基準や規定がないため、危険性をはらんでいる。日本の法律では何の規制もないが養親の本国法によると資格を持った専門ソーシャルワーカーが養親あるいは子どもの調査することを養子縁組成立要件としているところもある。日本では、養子縁組の斡旋事業を行うものは都道府県知事に届け出なければならないとされているが、国際養子縁組を行っているもので届出をしていないものも少なくない。さらにこれら団体に対し都道府県が指導しなければいけないことになっているが、当事者の提出する報告者のみの審査であり、また届出をしていない個人あるいは団体に対して指導対象を見つけることができない問題もある。国際養子縁組の手続きは外国の法制度が係るだけに複雑で、ただ善意からだけの斡旋を行うことは危険である、斡旋事業を行うにしても、団体がどこまで係ってどのような責任を取らなければならないのか基準が明確にされる必要がある。養子縁組という法手続きを司法機関だけで行うのではなく、国際養子縁組を扱うための社会福祉に関する専門知識及び技術をもった社会福祉機関の関与の必要性とその役割の重要性が認識されることが大切だし、また世界が共通して持つ国際養子縁組に対する法律を日本でも早急に認める方向にいかなければならないと思う。「受け入れ国」としての問題として、日本に居住する養親と同居するために入国する場合、ビザが必要であるが日本には養子縁組の目的で日本に入国する子ども達のための適切なビザがない。したがって養子候補者が入国するとき、取得できるのは短期滞在(90日)のビザしかない。(連れ子の取得できるビザは別)しかし、養親と同居をはじめて最低6ヵ月の適応期間を必要とするから、短期ビザでは日数が足りない。したがって、養子候補者のビザの延長が許可されず養子候補者の本国に帰国しなければならない可能性への不安を抱えての養子縁組手続きを進めているのが現状である。実際ビザの延長が認められず、子どもが本国に帰らざるを得なかった事例もある。
 欧米の「受け入れ国」では養子候補者のビザがあり、米国の場合は、移民ビザに含まれるため養子候補者が養子縁組の目的で養親と同居するため米国に入国する場合、米国に移民として入国することが日本を出国するときから保証されている。養子候補者の福祉から見ると適応期間中に子どもが養親から引き離されて、本国に帰されることは心理的に負の影響を与えることは疑う余地もなく、子どもの福祉が考慮される入国管理法が考察されることを望んでいる。
養子縁組の手続きも進みにこやかに
 
 国際養子縁組法手続きは完了するまでに長期にわたり複雑な過程を経なければならない。「費用がいくらかかっても構わない、健康で生まれたての赤ちゃんを何とかして早く手に入れたい」と考える養親候補者の気持ち、そして「妊娠出産の事実を誰にも知られずにこっそり子どもを養子に出し、早く見えないところに行ってほしい、早く全てを忘れたい」という実母の気持ちに振り回されずに専門的知識をもって細やかなケアーを行うことが将来に起こりうる問題を少なくし、結果的に養子の福祉と最善の利益が守られると思われる。長年にわたり養子縁組の援助にかかわる中で、行政の不備、各省庁が持つ法律をつき合わせる時、必ずしも子どもの福祉に一致しない現状につき当たり、養子縁組法、児童福祉法、あるいは入国管理法等々の見直しや変更の必要性を強く感じている。そして各省庁に法律を変えるように働きかけて行かなければならないのではなかろうか。
 国際養子縁組で一番気になることは、生活様式、習慣、言葉の違いが親、子どもの人間関係にいかに影響を持つかということである。法的、社会的、心理的考慮が常に必要であるから、社会福祉事業機関と、裁判所、病院関係者各国政府機関等との相互協力によって、チームワークが行われて始めて実親、養子、養親が満足し、関係者すべての福祉が守られると思う。養子縁組援助は、「養親」「養子」「実父母」この三者に対する相談事業である。この三者へのかかわりが持たれると最初から最後まで一貫して養子縁組手続きに責任持つことができる。しかし、最近様々な形態の養子縁組に関わるようになっている。
 最近の傾向として
 日本に在住する外国人夫婦(米国籍)が米国の福祉機関に養子縁組の申請をし、米国あるいは日本以外の国から養子を迎えるケースが増えている。主たる養子の出身地は中国である。ISSJは米国の福祉機関から、家庭調査だけの依頼を受ける。我々は米国の機関の家庭調査のガイドラインに従い、家庭調査を完了させ、米国の機関に調査書を送付する。それをもとに米国の機関は、中国政府とのかかわりの中で、養子縁組を成立させていく。ISSJは家庭調査作成だけに関わるだけが中国、米国、日本と三国の関係する養子縁組である。
 ISS米国支部あるいは直接米国州政府機関から日本在住の養親候補者の家庭調査と、子どもの委託後、親と子どもの適応状態と報告書作成の依頼も増えている。実母が母親として不適格(麻薬常習犯、アルコール依存症、養育拒否、虐待等々)とされたとき、子どもの安全確保と福祉のために母子分離をし、国が親権を取り、その子どもを実母の親族に委託しようとする場合、親族に子どもを託すかどうかの判断のもとになる調査依頼である。ISSJがこのような依頼を受けるとき、米国の裁判所ですでに審理の日が決まっていて期限付きで短期間に家庭調査を完成しなければならないケースが多い。
 分類と解釈
 ISSJで現在扱っている国際養子縁組を子どもの出身国別に分類すると以下のようになる。
 
A 日本国内に住む子どもを養親のいる外国に養子縁組目的で移住させ、その国で法的養子縁組を完了する。
B 日本国内に住む子ども(日本人、外国人)を、子どもと国籍の異なる国内在住の夫婦に委託し、日本の家庭裁判所で養子縁組を完了する。
(1)子どもと養親は他人
(2)子どもと養親は親族(連れ子、親戚など)
C 外国に住む子どもが、外国の養子縁組機関の許可を取って日本に移動し、日本の家庭裁判所で養子縁組を完了する。
(1)子どもと養親は他人
(2)子どもと養親は親族(親戚など)
 
 Aに属する養子縁組は最近減少しているが、B、Cに属する養子縁組は増加の傾向にあり、日本はすでに子どもを国際養子縁組で送り出す国ではなく、受け入れる国に変わったということができる。
 今年度、ISSJへの養子縁組の問い合わせ件数は594ケースであった。その中で73ケースを継続して援助することになった。昨年度より引き続き扱っているケースを合わせると、今年度国際養子縁組のケースとして援助活動を行ったのは316件で、その内訳は次の表のとおりである。
 
 
フィリピン
タイ
その他
合計
連れ子養子縁組(Step)
124
32
2
158
血縁関係のある養子縁組(Relative)
51
13
10
74
血縁関係のない養子縁組(Non-Relative)
7
15
62
84
合計
182
60
74
316
 
 国際養子縁組で関係した養子の国籍は、フィリピン、タイが約80%と圧倒的に多く、その他には日本、中国、韓国、カザフスタン、ナイジェリアの子どももいた。養親に関しては日本人とフィリピン人のカップル、日本人とタイ人のカップルが圧倒的多かったが、その他にもアメリカ、イギリス、インドネシア、イラン、オーストラリア、カザフスタン、カナダ、韓国、中国、バングラデシュ、ブラジル、フランス、ベトナムと様々な国籍の養親のケースを扱った。これはISSJがフィリピン政府の国際養子縁組委員会(Intercountry Adoption Board:以下ICAB)から認可された日本で唯一の養子縁組機関であること、またタイ政府の公共福祉局(The Department of Social Development and Welfare:以下DSDW)とも年に3・4回話し合いの時を持ち、密接な関係を築いていることから、その結果として、フィリピン国籍児とタイ国籍児の養子縁組が増加してきたと思われる。
兄弟ができて楽しそう
 
 今年度は、日本人−フィリピン人夫婦のための養子縁組オリエンテーションは5回で19組の夫婦が参加、日本人−タイ人夫婦のための養子縁組オリエンテーションは6回で22組の夫婦が参加している。昨年度より特に日本人―タイ人夫婦に増加の傾向が見られる。この他、日本・フィリピン、日本・タイ以外の国籍の人々へのオリエンテーションを個別に行っている。
 今年度、養子縁組手続きが完了(裁判所で養子縁組の審判が出された後、本国における子どもの出生証明書の父母の欄に新しい養父母の名前が記載されて実子となる)したのは13件であるが手続きの開始は1994年から1998年の間であり、養子縁組の準備から手続きが完了するまでにはかなりの期間が必要である。この間、ISSJのワーカーは忍耐と熱意を持って養親希望者をサポートし続けている。ISSJでは養子縁組成立後、しかし親子関係に対するサポートはそれ以後も必要な場合もあり、長期間にわたる支援も行っている。
 アフターケアのひとつとして、何か困難な事態が生じた場合にISSJの支援を思い起こしてもらうように、過去10年間にISSJが養子縁組を援助した158家族にクリスマスカードを昨年度に引き続き送った。
定期的に行っている養子縁組オリエンテーション







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