3. EDI促進のための課題と改善方策
3.1 官民情報ネットワークの問題点と対応策
官民それぞれのネットワークの問題点と対応策を簡単にまとめると以下の通りです。
民間ネットワーク
・参加ユーザー数が少ない。 ⇒魅力あるネットワークを提供する。
・ネットワーク同士が連携していない。 ⇒早急にネットワーク間相互連携を実現させる。
・ネットワークのサービス範囲、機能がまちまちである。 ⇒ネットワーク間相互連携の実現と共に、いろいろな業務分野、あるいはメッセージの分野での標準化を推進する必要がある。
・物流業務情報化には、複数ネット接続を要し、コストアップの要因となる。 ⇒ネットワーク間相互連携を実現させる。
・EDI対応、ネットワーク利用コスト負担が重い。 ⇒中小事業者向け業務システムASPサービス提供、あるいはXML/EDI導入普及を図る。
行政ネットワーク
・民間が望む真のシングルウィンドウ化にはほど遠い。 ⇒もう一度見直しをやって、民間要望に沿ったシングルウィンドウ化の早期実現が必要である。
・行政手続に要するネットワーク利用料が高い。 ⇒電子行政手続の無料化を図る。
・民間ネットワークとの相互接続が認められていない。 ⇒官民ネットワーク間相互接続の容認と早期実現を図る。
3.2 EDI促進方策
EDIの阻害要因は、一つではなく複数の要因が互いに関連、影響しあっています。EDI利用の低迷要因として「相手業界の参加者が少ない」ということが常に言われていますが、これを掘り下げてみると、EDIの導入メリットがない、EDIを導入しようにも社内システムという基盤がない、あるいは社内システムを作ろうにも、情報化投資負担が重い、等いろいろなことが関連、影響しています。
参加者を増やすには、中小事業者を支援する方策が必要です。それには簡易EDIであるWeb-EDIの導入があり、また、本格的なEDIを支援するためには、Webを利用した業務システムASPサービス(アウトソーシングサービス)の提供が効果的です。さらには社内業務システムはあるが、標準フォーマット変換システムを含むEDIインターフェイスが困難とする企業向けには、トランスレーションASPサービスの提供が必要です。これらのASPサービスは、ebXMLを導入できる環境が整えられれば、もっとコストパフォーマンスの良いサービスが提供できるようになるものと期待されます。
また、メリットの創出というのは、要するにコストの問題ですから、廉価なEDIネットワークシステムを作り、また関連ソフトを提供する環境を整えたり、さらには対象業務範囲や機能の拡充も必要です。情報化投資負担の軽減についても、良質で廉価な市販ソフト、そしてASPサービスの提供等により解決が可能ですし、ネットワーク利用料もインターネットを導入すれば廉価に提供できるようになります。
3.3 海貨業務システムASPサービス(eForwarder)の導入
港シ協は、中小事業者のEDI促進を支援する目的で、海貨業務システムASPサービス(以下、eForwarder ASPという。)を開発、2002年4月より運用開始しました。
図表−7のイメージ図に示す通り、アウトソーシングセンターのASPサーバに必要な業務機能やユーザーごとの情報が格納されているので、ユーザーはオープン・インターネット経由でその機能を自社システムのごとく利用することができます。また、インターネットEDIのCyber-POLINETと連携が可能ですので、これらのEDIユーザーとのデータ交換もできます。当然、ファイヤウォールを設置してウィルス攻撃も防御しています。
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図表−7 |
海貨業務システムASP(eForwarder)とPOLINETイメージ図 |
eForwarderは、基本業務機能とオプション業務機能で構成されています。基本業務機能にはスケジュール管理があり、メディアの膨大な船舶スケジュール情報をeForwarderに取り込み、毎日更新の上、ユーザーに提供しています。その他、輸出、輸入の海貨基本業務、諸々の雑作業も、処理できます。また、下払や立替、請求、そして経理の伝票作成、実績・統計管理もできます。オプション業務機能には、Airの輸出・輸入、倉庫関係の業務で構成されています。
基本業務には、EDI機能としてCyber-POLINETを介して他社とデータ交換ができます。さらに、Sea-NACCS用EDIデータ生成もできるようになっており、ASPセンターからユーザーのパソコンにNACCS用データをダウンロードして、NACCS端末(NACCSパック搭載パソコン)にアップロードしてNACCSセンターに送信するというものです。また、EDI未対応の船社向けには、個別のワンライティングフォームに印刷して船社に提出する必要があることから、その個別帳票印刷機能をローカルソフトとして有償で提供しています。
eForwarder導入の利点は、すぐ利用できること、初期投資がいらないこと、利用コストが格段に安いこと、システムの保守が要らないこと、自社開発に比べるとおよそ4分の1以下の費用で利用できること、中小海貨事業者がパソコン5台の構成でeForwarderを使う例で試算すると、基本料+クライアント利用料合計で月額2万5千円となります。
3.4 インターネットEDI普及・促進の鍵、XML/EDI導入・活用
平成13年度に国土交通省がまとめた「港湾物流分野におけるインターネットEDIの普及促進に関する調査報告書」(調査委託先:港シ協)によれば、官民EDIネットワークのあるべき姿について“e-Japan重点計画、新総合物流施策大綱等の理念に基づいて、民間事業者間のEDIネットワークおよび行政手続のEDIネットワークがインターネットを介して相互連携された「仮想統合インターネットEDIネットワークを実現すること”と提言しています。
ユーザーニーズをマクロで見てみると、一つのチャンネルから民々間、および官民間のEDIを可能とすることや、社内システムに替わるアウトソーシングサービスの実現、取引先の使用するシンタックスに左右されないEDI、といったことが挙げられます。これらを叶えるためには、ネットワーク間相互接続のための標準インターフェイス仕様が必要ですし、XML/EDIの導入・普及が必要です。また、ASPサービスやポータルサービス経由のG2B、つまり行政手続が容認される必要があります。
こういったものが実現すると、港湾物流関連業界の各事業者がインターネットを経由して民間ネットワークセンターおよび行政の各システムとのやり取りができるようになります。これはいわゆるバーチャルな世界ですが、ユーザーから見ればあたかも一つのネットワーク基盤を利用しているような感じになります。
前述の提言に沿って国土交通省は平成14年度事業としてXML/EDIの導入・活用方策の調査、XML/EDI標準定義書の制定及び実証実験を行っています。(図表−8)
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図表−8 XML/EDI導入・活用に関する調査事業概要
XMLを導入するといっても、全面導入にはなりません。前図に示す通り、EDIセンターにはXMLの利用者とXML以外の利用者が混在しており、両者間でトランスレーションが必要になります。また、XMLを導入するユーザー群には、独自対応型、XML/EDI対応業務パッケージ利用型、Webインターフェイス型、OFFICE製品利用型、CSV変換型といったいろいろな形態が想定されます。
代表的なものとして、業務パッケージを利用しているユーザーの場合、中間にXML/EDIインターフェイスを導入する例が多くなるだろうと思います。もう一つはWebインターフェイス型でのXML対応です。大手の事業者では、個別のXML/EDI対応を行うところも出てくるでしょうが、大部分はパッケージ導入型になるでしょう。
一方、既存のユーザー群については、これらXMLユーザーとのやり取りはEDIセンターのトランスレーションASPを経由して行うことになります。
港湾物流XML/EDI標準定義書(第1版)には、D/R情報、D/R受信確認、CLP情報が収められています。定義書の制定にあたっては、ebXMLの各仕様に準拠し、港シ協が定めた「SHIPNETS業界標準メッセージ」や「UN/EDIFACT準拠サブセット」との互換性を最大限確保することに配慮しつつ、ISO/IEC14662に規定された“Open-edi Reference model”に基づいて記述しているが、未だ完璧な定義書にはなり得ず、実証実験による検証結果の反映や、UN/CEFACTにおけるebXML標準化作業の進展に合わせて改訂を重ねる必要があります。
3.5 港湾物流情報プラットホーム(PF)構想
この構想は国土交通省港湾局が2002年夏より進めているもので、その検討組織として、主要9港湾管理者で構成する「港湾物流IT化推進委員会」と産官学で構成する「港湾物流情報化懇談会」が設置され、検討が進められていますが、まだ具体的なPFイメージ図が提起されていません。
このPF構想の目的として、国際海上コンテナ輸送にかかわるすべての主体が、つまり業界が、業務情報を共有することにより、全体効率化を図り、国際競争力を向上させるとうたっています。そのPF構築のコンセプトとして、全員参加型のオープンシステムで、とにかく安いソフトのシステムを作り、そしてセキュリティ面では信頼性を重要視して構築するという。
このコンセプトを実現するためには、いろいろな課題、技術的な問題、運用ルールの問題や組織体制の問題をクリアーしなければなりません。これらは今後「懇談会」「IT推進委員会」や部会等々で検討される予定ですが、港湾物流事業者の今後に非常に重要な影響を与える問題ですから、検討に参画している関係者は次のような基本姿勢で対応することが望まれます。
第1点は、プラットホーム仕様検討にあたっては、ユーザーニーズを最大限反映させること。第2点は、ユーザーの立場に立ったユーザー本位のシステム機能設計を優先させること。第3点は、利用メリット重点、ユーザー負担軽減を念頭においたシステム構築を行うこと。機能的なシステムができても利用料が高ければ、導入・普及を図る上で非常に大きな重石になります。
4. 今後の展望と期待
おわりに、今後の展望と期待をまとめます。
まず、行政手続EDIのシングルウィンドウの更なる進化を期待するとともに、オープン・インターネットの普及拡大は勿論のこと、各ネットワークや官民のネットワークのインターフェイスについてはできれば共通仕様を開発して統一できればいいと考えています。標準化の推進は、XML/EDI導入にあたっても必要なことですし、今後とも関係業界、団体の積極的な参画を期待しています。
また、官民や民々ネットワークの相互接続、連携の実現というのも非常に重要で、最近の動きでは、港シ協がeForwarder ASPサービスやインターネットEDIを導入したことにより、貿易金融EDIのTEDI、あるいはBolero.netからアプローチがあり、連携の可能性について事務レベルの情報交換を行っており、早期実現を目指して検討を重ねています。
また、XML/EDI普及によるEDIコスト低減の実現化や、中小事業者向けには各種業務システムのASPサービスの提供によって、非常にコストパフォーマンスの高い業務効率化が実現するでしょう。これらの実現により民々業務のEDI化率がクリティカルマスを超えたとき全体の効率化、コスト競争力が一段と向上することでしょう。
以上
(山内 靖雄)
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