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4.4 仲裁人の賠償責任ついて:
 
 法律の一般原則によれば、仲裁人の職務の遂行に関連して、仲裁人の責に帰すべき事由により、当事者に損害が生じた場合、仲裁人は、民事上の損害賠償責任を負うことになります。
 この点に就いては、例えば英国仲裁法では、次の様な規定を置いて、仲裁人の責任を軽減しています。
 
英国仲裁法29条(仲裁人の免責)
 
(1)仲裁人は、その職務行為または不作為が不誠実なものであったといことが疎明されない限り、仲裁人としての職務の遂行の際にその行為または不作為について責任を負うものではない。
(2)前項は仲裁人の雇用者あるいは代理人に対しても、仲裁人自身と同様に適用される。
(3)本条の定めは仲裁人の辞任により仲裁人によって生じた一切の責任については影響を及ぼすものではない。
 
4.5 仲裁判断の取消の裁判について:
 
 仲裁判断やその手続に問題が有った場合、その仲裁判断の取消を求めることが出来る様な救済措置が必要です。如何なる場合に、如何なる方法で、その様な訴えを認めるべきか等に就いては議論の有るところです。
 
(参考)モデル法34条 (仲裁判断に対する排他的不服申立(手段)としての取消申立)
 
(2)仲裁判断は、次の各号に掲げる場合にのみ、第6条に定める裁判所が取り消すことができる。
 
(a)(取消の)申立をした当事者が次の証明をした場合
 
(i)第7条に定める仲裁合意の当事者が、無能力であったこと、又はその仲裁合意が、当事者がそれに準拠することとした法律もしくは、その指定がなかったときは、この国の法律のもとで有効でないこと。
 
(ii)(取消の)申立をした当事者が、仲裁人の選定もしくは仲裁手続について適当な通知を受けなかったこと、又はその他の理由により主張、立証が不可能であったこと。
 
(iii)判断が、仲裁付託の条項で予見されていないか、その範囲内にない紛争に関するものであるか、仲裁付託の範囲をこえる事項に関する判定を含むこと。但し、仲裁に付託された事項に関する判定が、付託されなかった事項に関する判定から分離されうる場合には、仲裁に付託されなかった事項に関する判定を含む判断の部分のみを取り消すことができる。
 
(iv)仲裁廷の構成又は仲裁の手続が、当事者の合意に従っていなかったこと。又は、かかる合意がないときは、この法律に従っていなかったこと。
 但し、当事者の合意がこの法律の規定のうち、当事者が排除することのできない規定に反している場合はこの限りではない。
 
(b)裁判所が次のことを認めた場合
 
(i)紛争の対象事項がこの国の法のもとでは、仲裁による解決が不可能であること。
(ii)判断がこの国の公序に反すること。
 
4.6 仲裁判断の承認及び執行について:
 
 仲裁判断は、原則として当事者間では確定判決と同じ効果を持ちますので、それに基いて強制執行することが出来ます。その局面で特に問題となるのは外国でなされた仲裁判断の承認・執行を求められた裁判所は如何に対応すべきか、如何なる場合に承認・執行を拒否出来るかの問題です。
 この問題に就いては、「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(通称、ニューヨーク条約)が有り、我国も批准し、昭和36年9月18日に発効しています。
 
 この問題について、モデル法は、次の様な規定を置いています。
 
(参考)モデル法35条(承認および執行)
 
(1)仲裁判断は、それがなされた国のいかんにかかわらず、拘束力あるものとして承認され、管轄を有する裁判所に対する書面による申立があれば、本条及び第36条の規定に従い、執行されなければならない。
 
(2)判断に依拠し又はその執行を申し立てる当事者は、妥当に認証された判断の原本又は妥当に証明されたその謄本及び第7条に定める仲裁合意の原本又は妥当に証明されたその謄本を提出しなければならない。
 判断又は仲裁合意がこの国の公用語で作成されていないときは、当事者は、これらの文書の、公用語への妥当に証明された翻訳を提出しなければならない。
 
同 36条(承認又は執行の拒否事由)
 
(1)仲裁判断の承認又は執行は、それがなされた国のいかんにかかわらず、次の各号に掲げる場合にのみ、拒否することができる。
 
(a)判断が不利益に援用される当事者の申立により、その当事者が承認又は執行の申立を受けた管轄裁判所に次の証明を提出した場合
 
(i)第7条に定める仲裁合意の当事者が、無能力であったこと、又はその仲裁合意が、両当事者がそれに準拠することとした法律により、もしくはその指定がなかったときは、判断がなされた国の法律により、有効でないこと。
 
(ii)判断が不利益に援用される当事者が、仲裁人の選定もしくは仲裁手続について適当な通告を受けなかったこと、又はその他の理由により主張、立証が不可能であったこと。
 
(iii)判断が、仲裁付託の条項で予見されていないか、その範囲内にない紛争に関するものであるか、仲裁付託の範囲をこえる事項に関する判定を含むこと。
 但し、仲裁に付託された事項に関する判定が付託されなかった事項に関する判定から分離され得るときは、仲裁に付託された事項に関する判定を含む判断の部分は、承認し、かつ、執行することができる。
 
(iv)仲裁廷の構成又は仲裁手続が、当事者の合意に従っていなかったこと、又はかかる合意がないときは、仲裁が行われた国の法律に従っていなかったこと。
 
(iv)判断が、未だ当事者を拘束するにいたっていないか、その判断がされた国、もしくはその法律のもとで判断がなされたところの国の裁判所により、取り消されもしくは停止されたこと。
 
(b)裁判所が次のことを認めた場合
(i)紛争の対象事項が、この国の法のもとでは、仲裁による解決の不可能であること。
 
(ii)判断の承認又は執行が、この国の公序に反するであろうこと。
 
(2)判断の取消又は停止の申立が、本条1項(a)(v)に定める裁判所に対してなされたときは、承認又は執行の申立を受けた裁判所が適当と認めるときは、その決定を延期することができ、かつ判断の承認又は執行を求めている当事者の申立により、他方の当事者に対して相当な保証を提供するよう命じることができる。
 
4.7 仲裁手続中に成立した和解の取り扱いについて:
 
 仲裁手続の途中で、当事者が仲裁手続外で自主的な交渉により和解に達する場合も有ります。その様な場合の和解の扱い方についても議論の対象になります。
 例えば、モデル法では、次の様に定めています。
 
(参考)モデル法30条
 
(1)仲裁手続中、当事者が紛争について和解したときは、仲裁廷は手続を終結し、かつ両当事者の申立があって、仲裁廷に異議がなければ、その和解を合意に基づく仲裁判断の形式で記録しなければならない。
 
(2)合意に基づく判断は、第31条の規定に従って作成し、それが判断である旨を記述しなけえらばならない。かかる判断は、本案に関する他のいかなる判断とも同じ地位及び効力を有する。
 
 ところで、法律に従い公平な立場で仲裁手続を主宰すべき仲裁人が、調停人として活動し、調停案や和解案の提示を行う形態のものについては、仲裁人と調停人を兼ねることの可否、許容される為の要件などに就いて議論があります。
 仲裁人が和解を試み、和解案を提示することは、当事者への圧力となる、あるいは、仲裁人が事案についての見解を示すことは仲裁人の不偏独立性と相容れないなどの考え方があり、特に英米法の国では、この点が厳格に解されているとされています。
 
 その様な考え方を示すものとしては、次の様な例が有ります。
 
(参考)UNCITRAL国際商事調停モデル法
 
12条(仲裁人として活動する調停人)
 
 「当事者に別段の合意のある場合を除き、調停人は、かつて調停手続の対象となり、若しくは現在対象となっている紛争又は当該紛争に係る契約若しくは法的関係若しくは関連する契約若しくは法的関係から生じた別の紛争に関し、仲裁人として活動してはならない。」
 
以上
 
(早坂 剛)







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