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VI. 貿易金融EDI(ボレロ)の現状と導入・活用事例
1. 沿革と現状
・設立
1998年6月
・資本金
US$70million
・従業員
約60名
・本社
英国ロンドン
・拠点
フランクフルト、パリ、ニューヨーク、東京、香港、韓国
・代理店
中近東、南アフリカ、南米
・沿革
1994年
EUのスポンサーシップにより、欧米で実施されたクロスボーダーの貿易手続の電子化プログラムを起源 〜Boleroパイロット
 
 
1995年
Bolero Association設立
 
 
1996年
SwiftがBoleroパイロットの成果を引継ぎ事業化検討
 
 
1997〜98年
Swift、TT clubの折半出資にてBolero International Ltd設立 〜実証実験本邦企業丸紅、三井物産がドライバー企業として参画
 
 
1999年
商用サービス提携開始。商標をBolero. netとする
 
 
2000年
ベンチャーキャピタルの出資50百万ドル受入
 
2002年
自働決済サービス“Surf”の商用バージョンリリース 〜JPモルガンチェースがサービス開始
・プロダクトとサービス
CMP、ルールブック、Bolero XML、Title Registry、Surf、2/C Bolero、Advice
・主要対象業種
小売業、衣料、エレクトロニクス、車、日用品、タバコ、アルコール業界
・取扱いデータ量
50〜100,000 per month
・ユーザー数と内訳
約100社、荷主企業40名、金融機関25%、物流船社35%の構成
・サービスのポイント
SCに介在する金融、物流、行政当局も含めた取引の最適化のソリューション提供
 
 以上が沿革と現状であるが、設立後、実際に使っている荷主企業、トラフィック数を見てもまだまだクリティカルマスに到達していない。
 もともとのビジネスプランでは、Boleroによる貿易業務の電子化(ペーパーレス化)自体で、貿易業務コストの30%は削減できる(UNのレポート)ことから荷主企業の中でもスーパークロスボーダー企業が先進的に導入、短期間のうちに一挙にBolero化が進むものと楽観的見通しを持っていた。具体的には設定後3〜4年で全世界のコンテナ貨物の内7〜8%Bolero化され、クリティカルマスに到達すると見ていたが、実際は荷主企業にとって商流、金流、物流の統合化システムにより、発地から着地迄一気通貫にペーパーレス処理されなければメリットを極大化、ベネフィット享受できないことから遅々として進んでいないのが現状と思われる。その他、B/Lの権限移転管理システムも実際取引では、WAY B/Lの使用度合が高い、信用状ベース取引が漸減一途等で、Boleroの仕組みそのものが重いことに加え、導入コスト(参画費用)が高いことも一因で、当初予定した普及シナリオを狙わせている原因となった。
 以上の事から、Boleroの展開をより荷主企業の立場に立ったサービスの展開に、最近では注力する様になり、具体的には低コスト化、業務のスピード化の実現、SCMの強化に資するBolero導入の動きが出てきたので次に紹介する。
 
2. Boleroの新しい動き、グローバルSCM実現の為に
・企業の整理の為にグローバル企業のBoleroをベースにしたクロスボーダー取引の現状と今後のモデル、韓国のサムソン電子の事例であるが示して見よう。
 
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 現状とBoleroをベースにしたこれからのモデルを対比して明らかな様に、Boleroがクロスボーダー企業の受発注サイクルLogisticsプロセス、在庫管理、買掛金/売掛金管理と決済に影響を与えることにより、ベネフィットを極大化できる様に変わってきた。当初のペーパーレス化による業務処理の効率化だけに特化したサービスから、昨今の経営上のニーズ、即ちグローバルSCM実現の為にBoleroを導入、成果を実現する企業が多く出てくる事が普及を加速するものと思われる。
 
・Boleroの新しいサービスについて
 Boleroの普及が一部限定的でなかなか多くの企業に利用されていない反省から、2つの新しいサービスをリリースされたので次に紹介する。
 
(1)Bolero Advise
 Bolero Adviseは、これまでは銀行からFAXや紙で送られてきた信用状を電子的に受取るための新しいサービス。輸出者はブラウザを利用してデータを受信。
〔特徴〕
1)共通フォーマットでの受信
2)簡便な登録作業で利用可能
3)セキュリティの確保
 輸出者は、到着の通知を電子メールで受領後、ブラウザを使ってサーバーにアクセスすることで、信用状内容を閲覧、ダウンロードすることが可能。仏では大手5行がサービスを開始。今後輸出者にとって決済情報と物流情報の齟齬をなくす手段として有効なツールになると思われる。
 
(2)SURF(Settlement Utility for managing Risk and Finance)
 契約から決済までの貿易業務処理のSTP(Straight Through Processing)を実現するサービスで、サービス自体は銀行より提供される。
 機能としては、貿易書類の自働チェック機能と現状の決済方式条件(信用状ベース、D/P、D/Aベース等)にかかわる書類のやりとりとワークフローの提供の二つがあげられる。
〔特徴〕
1)タイトルレジストリー機能の利用
2)ルールブックによる法的枠組み
3)セキュリティ確保
4)Bolero XMLを利用
5)e-ucp500に準拠
 SURFには、単に現行の輸出者、輸入者間の貿易決済を効率化、合理化するにとどまらず、受発注、決済データ等利用することでリスク管理、財務管理に応用拡張できる要素を含んでおり、Boleroのコアを形成するサービスに発展する可能性を持っていると思われる。
 
(3)その他 〜地域戦略
 Boleroは、当初よりビジネスプランの中核としてコンテナ貨物をBolero化することに狙いを置いていたが、コンテナ貨物輸送の大宗は日本を含むアジア発のものであることから、地域戦略上、アジアに注力しているのが最近の特徴。
 特に中国(含む香港)、台湾での展開に重点。最近の動向は次の通り。
 
中国−
上海〜
上海市政府系で通関や港湾システムを提供するIT企業と提携
 
広州〜
民間IT企業で、中国全土で通関や港湾システム提供している企業と全面提携
香港−
政府系及びジョイントベンチャーで電子通関サービスを提供するTrade-Linkと業務提携。
台湾−
政府系企業で電子通関サービスを提供するTrade-Vanと業務提携前提に協議中。
 
 日本企業にとっても近隣諸国との取引は頻度も高く、又船足が速いこともあって、電子化のメリットは大きく、アジアでのBolero化が進めば、一挙にクリティカルマスに到達する可能性があると思われる。
 
3. 結び
 国際貿易取引の環境を変える新しい動きを紹介して結びとしたい。
 一つは米国税関テロ対策としての新ACEの導入である(2006年春完成予定)貿易取引の電子化のみならず、グローバルなIT化が困難であった物流業、製造業の国際インフラを劇的に変化させる要素を含んでいる。
 もう一つは、遅まきながら日本政府の電子化の動きもシングルウィンドウ化を流れが出来、Invoice等NACCS業務以外の各省庁の申請、届出を電子化する環境が出来た。これらを追い風にBoleroが設立されてまもなく5年になるが、普及する素地が新しいユーザーオリエントなサービス開発と共に出てきたといえよう。2003年から2004年にかけて18世紀以来英国で確立された信用状をベースとした多国間通貨決済システムは終わりを告げ、新しい電子貿易決済システム〜物流、金流、商流を流合化したシステム〜にテイクオフするものと思われ、Boleroがグローバルスタンダードになり得る最も有力なポジションを占めていると考えられる。
 
以上
 
(服部 平典)







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