4. 課題解決への道
では、上記3.章で提起した課題について、その解決の道を説明しましょう、ということで容易に解決策を提示できるのであれば、標準の普及はすでに到達し得ていたかも知れません。逆を言えば、課題に対する根本的な解決策が現時点では明確に見つかっていないのかも知れません。しかし、課題に関しての考え方、そして、なんらかの解決の糸口のようなものを、こんな小生でも、あらためて見つめなおすのもなんらかの意味があるか、とも思い直して、多分に独りよがりではありますが、書き留めてみることとします。
4.1 BPRあっての標準化
まず、前述の「3.1 文書の標準化の困難さ」「3.2 項目の共通化の困難さ」に関しては、BPRが重要であることを留意して頂きたいと思います。これらの困難さを克服する手段は、決してシステム化ではないはずです。この困難さは貿易業務の持つ潜在的な問題が、システム化しようとしたとたんに顕在化したに過ぎない面があります。紙の時代から存在する問題であり、これは結局BPRにより、システム化に効果的な業務フロー及び必要な情報項目の再検討・整理を進めていく、着実な標準化以外に安易な解決法はないのではないか、と思います。
しかし、このBPRは、最近に至り、ようやく具体的な全体の進展・動向が見えつつある、と言えないでしょうか。まだまだ完全な形が必ずしも明確になっていない部分もありますが、以下、その動向をいくつか見てみましょう。
4.1.1 業務標準化、簡素化の国際的な動向
(1)G7通関申告データ簡素化
これは1996年リオンサミットにて合意を受けたものに従い、実務レベルで進めているもので、現状約800ある項目を120項目程度まで削減、簡素化をめざしています。また、フォーマットも、UN/EDIFACT準拠という方針が出されています。これを、まずG7間で実用化を進め、世界に拡大させようという方向性をもって合意されています。
しかし、やはり簡素化の具体的作業は必ずしも順調ではないようで、各国とも当初の予定よりも遅延しているのが実情のようです。早急なる作業の進展を望んでやまないものです。
(2)FAL条約
FALとは、「Facilitation of International Maritime Traffic」の略で、IMO(国際海事機構)傘下にて、港湾関係の手続きの標準化を進めています。これに関する国際条約があり、現在、世界の92ケ国が批准しているものです。一方で、わが国が未批准の状況にあり、これは早急に批准して頂き、港湾関係、ひいては、貿易関係の標準化促進のステップとして頂きたいものと考えます。
4.1.2 業界での標準化の動き
企業を越えて、業界での標準化の動きが確実にあらわれています。例としては、ROSETTA NET、鉄鋼EDI、JNX等が進展しています。システム標準化の過程として、企業から業界へという、現実的な対応として発展が見られるところです。
一方で、業界毎に異なる標準を確立した後の、業界を越えての更なる一段上の標準化への達成を考えた場合には、現状の業界標準を策定する段階から国際標準を念頭において検討することが、後々の過程をより容易にするために必要なものと思われます。そのためには、業界を越えたより大きな枠組みでの討議の場が必要になってくるのではないか、と考えられます。
4.1.3 自社でのシステム更新時期での見直し
一方、企業単位でみた場合に、標準化への移行のチャンスは、既存システムの減価償却が済み、システム更新の時期でしょう。既存システムが償却前で、標準化に意義を見出してシステム更新を行うという企業は現実的にはそうあるケースではないと思われます。つまるところ、既存の固有システムを標準化対応するのには、それ相応のコストがかかるものです。ここでいう標準化対応というのは、前述したとおり、社内システムの中身を標準フォーマット化するということに限らず、EDIのインターフェイスにおいて標準フォーマットへの変換する仕組みとすることも含まれます。
また、システム更新時期に、ハードの最新技術への対応、及び、既存アプリケーションでの不具合に対する部分的改善を実施するにとどまることが往々にしてあり得えます。これでは、確かに処理速度の向上及び多少の業務改善が果たせるでしょうが、BPRを実施しての標準化対応による、本来のEDI業務効率化を十分に享受することにはならないでしょう。業務改善以上の改革をめざすためには、社内での抜本的導入計画を立案・実施し、既存システムにとらわれないBPRをしっかりと実施できる、強力な推進体制が必要となります。そのためには、社内における既成の機構、戦術がある種のハードルになるかも知れません。それを乗り越える、トップダウンの強い指揮命令も必要となるのではないでしょうか。
4.2 マッピング作業の重要性
前述「3.3 マッピングの困難さ」に対しては、これはひたすら連携すべき相手企業、ネットワークとの、地道で綿密な作業をしっかりと実施する以外の便法はないでしょう。そもそも、EDIにおいて、マッピングは基本的には導入の最初に1回行うことの苦労をすれば、実運用開始後はまさに人手を介さず、データが変換されて社内・外がズムーズにデータ授受されるようになわけで、その業務効率化は多大なものがあるはずです。このマッピング作業を拙速に走ると、その後の実運用において、メンテナンスが困難になることが懸念されます。
もちろん、実運用後も、業務フローや、必要項目の変化というものは、時代とともにあり得るわけで、その都度にデータ変換の仕組みもすぐに対応できるだけの柔軟性、即応性が必要になることは間違いありません。そのような、能力の高いマッピングツール及びデータ変換システムが容易に入手できる環境を、ユーザーとしては期待したいところです。
4.3 差別化分野と標準化分野の経営戦略の問題
前述「3.4 差別化戦略と標準化」「3.5 標準化のコスト/効果」の課題解決については、まさに経営戦略の分野に関する判断問題といえるでしょう。ある企業にとり、標準フォーマットを採らず、独自フォーマットを進めるのだ、というのも、標準と独自との利害得失を比較検討しての会社判断であれば、結果は将来の得べかりし利潤で正誤を判定するしかないと思います。
しかし、一般的に言えば、システム、EDIという、実務業務の事務処理分野においては、標準化によるコスト低減、及び、業務効率化を追及するのが筋道です。さらに、そこでのコスト低減、業務効率化により生じた余剰資源を、その企業の本業部門或いは今後の成長が見込める部門業務に投入し、よって他社との差別化を図るというのが、差別化経営の本質ではないか、と考えます。
いずれにせよ、システム化、ネットワーク化、そして、標準フォーマット対応という舵取りには、単に技術的判断ではなく、企業の経営戦略に関わる経営者トップの判断が今後ますます重要になる時代となりそうです。
4.4 商権の確保、新規開拓のTOOL
標準フォーマット対応が、コスト低減及び業務効率化という効果とともに、さらに企業の営業展開にも影響を及ぼすという側面を考えてみます。
例えば、重要取引先から、標準化導入を迫られたら、断れるか?
また、逆の立場で、標準化対応により新規取引先の発掘、取引の開拓が容易になるのではないか?
そして、標準化推進が、企業ステータスの向上に寄与する可能性もあるのではないか?
これらは、標準化のメリットの別の一面を示しているといえるのではないでしょうか。
世の中で標準が普及しつくした後に、標準対応の行動に出るということは、それなりにコスト低減及び業務効率化においては効果がありうる、或いは他社に遅れをとるデメリットは回避できそうだが、それ以上のメリットは期待できないようです。一方、他社に標準対応を先駆けることによる、上記メリットはいわゆる先行者メリットとしてあり得えそうに思われます。その結果として、競争相手に対する優位性を獲得、確保することが狙えます。そして、この先行者メリットを取ろう、ということも標準化を積極的に行うことの動機となり得ると考えられます。
4.5 自発的普及促進の限界
前述、「3.6 手続き申請制度の規制」については、民間でない諸官庁が、法令により規定しているわけで、ユーザーとしては直接的に手を下せないところであり、そういう意味で、関係省庁における標準化の促進をして頂くことにより、自発的普及がさらに促進されるという関係をもつものです。ユーザーとして、世論の形で盛り上げるということはあり得ようが、そこには民間レベルの限界もあり、政府、諸官庁の対応を期待するところが大きいでしょう。
さらに、標準化の全般的普及については、1民間企業や1業界にとどまらない社会的な意味で全体最適を追求するものであり、その意義においては、標準化自体がすでに公的な性格を有していると言えます。従い、前述したように、標準化普及の課題は未だ存在し、なおかつ、本来自由競争の経済原則に立つ民間企業のみでは解決の困難な課題、調整事項がある状況においては、民間企業における自発的努力とともに、政府、諸官庁等の公的機関のバックアップが強く望まれるところです。形としては、立法や標準化奨励策等、工夫を要するものであるでしょう。しかしながら、国際的な貿易立国たるわが国の方針が将来的に不変な限り、独自仕様でない国際標準(Global Standard)準拠の標準化は避け通れない、或いは、より積極的に踏み込んでいく道ではないか、と考えます。
以上
(参考ホームページ)
(四方田 章光)
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