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3. 普及に向けての標準化の課題
 以上、事例としてTEDIを挙げての、標準フォーマットについて具体的な動向を見てきましたが、TEDIに限らず、様々なシステム、機関での標準化が現在動いています。そのような標準が平行列挙する中で、業務遂行するユーザーにとって、重要なことは、それが実用に耐えうるもので、かつ、普及するものでなければならないということでしょう。普及しない標準は、絵に描いた餅に等しい、ということです。
 貿易取引関係文書全体を網羅したDe Factto Standardはまだ確立されていない現状、標準を提起している主体がなんとか普及をめざして努力しなければならない状況にあるようです。
 その普及に向けての課題を、以下、小生なりに考えてみます。
 
3.1 文書の標準化の困難さ
 まず、貿易取引関係文書の標準化自体が非常にむずかしいことが課題として挙げられます。それは、まず既存関係書類の種類が膨大に多く、それぞれの標準化制定に多大な時間と労力がかかってしまう、ということです。また、その各文書において、企業、業種、業界、国により、既存バリエーションが余りに多く存在してしまっているので、その中での関係当事者が納得するような標準の制定が容易でないことが最大のネックとなっている、と考えられます。その結果、十分な関係当事者の要件の集約が得られず、標準化作業を進めていくと、結局、部分的にしか現実対応できない標準ができてしまうことになり、そのような標準は、結果として普及しなくなってしまう、ということが往々にしてあります。
 
3.2 項目の共通化の困難さ
 標準化の作業では、対象文書において具体的に共通項目を設定しますが、この項目要件が、各関係当事者においてバラエティに富んでおり、より汎用的に標準化を進めようとすると、各関係当事者要件を極力網羅しようとする結果、データ項目の肥大化が進んでしまう傾向にあります。これも、企業、業種、業界、国レベルで、相当なバリエーションが現実的に存在することに寄ります。
 また、この共通項目と言った場合に、実は、企業や業種や国といったレベルで、項目名称や項目の定義解釈が問題となることがあります。同じ目的の項目にもかかわらず、別名称の項目名であったり、同一名称の項目でも、意味付けが相違していたり、と言うことがあり得ます。従い、標準化作業の中では、これらの意識合わせが意外と手間取り、或いは、標準制定後にそれらの相違があることが判明したり、という事態があり、よく注意せねばならないところです。これらの支障がある標準では、やはり普及はおぼつかないことが懸念されるでしょう。
 
3.3 マッピングの困難さ
 EDIの形態として、前述の1.3.3にて、標準フォーマットを中心として、各ユーザーがその標準フォーマットに変換することにより、各ユーザー間のEDIが容易に実現することを説明しました。つまり、各ユーザーは自身の社内システムでのフォーマットと、標準フォーマットとを、導入時に一度だけ各項目の紐付け作業(マッピング)することにより、後は実運用上においては、人手のかからないシステム稼動により業務効率化が果たせる、ということです。
 しかし、このマッピング作業というのが、現実の作業としては非常にむずかしさがつきまとうものです。
 次の図を参照して下さい。
 
図:マッピングの困難さ(既存システムとの連携)
(拡大画面:32KB)
 
 現実的にありうるケースとして、標準フォーマットを使って、ネットワーク間接続を通じて、末端のエンドユーザー同士がEDIを行うことを想定します。相手のネットワークから送信されてきたデータは、あるアプリケーションを介して、具体的にエンドユーザーの端末にて実際のデータを参照することになります。これにより、エンドユーザー同士は間違いなくEDIを容易に遂行し、それぞれの業務効率化が果たせるというのが筋書きですが、実際にこのようなEDIを実装し、稼動させると、そう簡単にはいかない課題が存在します。以下にそれを説明します。
 
3.3.1 標準フォーマットの課題
 まず、図にあるネットワーク間接続での、それぞれAネットワークとBネットワークが、同一の標準フォーマット準拠を提唱していることを前提にしています。これは、接続をより容易にする重要なところです。例えば、その標準フォーマットがUN/EDIFACTであれば、その汎用性は問題のないと考えられます。しかし、同じ標準準拠を標榜していても、現実的には、汎用的な標準をコンパクトにサブセット化したものを採用しているのが通常です。それぞれのネットワークで国が違っていれば、なおさらであり、各国のサブセットが共存する形になっています。このサブセットとは、膨大な項目を有するUN/EDIFACTのフォーマットにおいて、国或いは業界において、その使用する範囲に現実的に対応するため、明らかに使用しないと考えられる項目を捨て去り、使用範囲を限定して、より明確に導入しやすくするための、言わば「現実対応版」です。従い、同じ標準フォーマットであるUN/EDIFACT準拠といっても、このサブセットが異なると、一方にある項目が、他方にない、という事態が生じます。また、ある特定の意味づけの項目が、一方ではある項目を採っているが、他方では別の項目を採っていることもあり得ます。つまり、同一の標準フォーマットということで、安易にマッピングを行い、いざEDI実施してみると、意と違ったものがそれぞれの画面項目に現れ、現実的に使用するには支障があるシステム連携となってしまう結果になります。
 従い、標準フォーマット準拠同士のシステム連携においても、結局はマッピング作業の重要性は不変であり、両者のデータ項目の付け合せに手を抜くと後でひどいしっぺ返しを食らうことになります。もちろん、両者がそれぞれ違うフォーマット同士をマッピングするよりは、準拠が同一の標準を用いていることの方がはるかにマッピングは容易で、間違いも少ないのは事実であり、それゆえにこそ、標準利用のメリットは間違いなく享受できます。
 
3.3.2 アプリケーションの課題
 さらに、各ネットワークはなんらかのアプリケーションシステムやソフトにより、エンドユーザーがそのデータを入力、参照できる仕組みとなっているのが、一般的です。このアプリケーションが標準フォーマットに準拠すべきことは必須のことですが、では標準フォーマットにあるデータ項目がすべて、ユザーインターフェイスとして画面上等にエンドユーザーに見える形になっているか、というのはシステム実装上の問題です。膨大な項目の標準フォーマットのすべてを画面上に表示するのは、画面が相当数の設定になり、現実的にユーザーが業務を行う上では決して効率的にはならないし、そのユーザー当事者にて全く使用しない項目まで画面上に網羅している必要はありません。従い、アプリケーションでは、標準フォーマットの項目になんらかの制限をかけていることが大いにあり得ます。そのような制限が、一方のAネットワークのアプリケーションにあるとなると、もう一方のBネットワークのアプリケーションではまた別の項目制限が設定されていることもあり得ます。そうなると、それぞれのアプリケーションにつながるエンドユーザー同士にて、参照される画面上の項目が必ずしも同一に見えるとは限らず、実際EDI実施してみると、項目上の不具合が現れる結果となります。ここにおいても、実際に使用するアプリケーションの内容を吟味し、ネットワーク間の接続でのマッピング作業の一環として、よく確認することが導入前に必要となります。
 前章(3.3.1)も併せて言えることは、標準フォーマットの普及のためには、マッピング作業の手間の問題がついてまわる、ということです。かといって、この作業の手を抜くことは、後の実運用で非効率性をうむことになるので、このマッピング作業をいかに効率的に行えるか、が普及のひとつのステップになるように思われます。そのためには、システムにおいて、より安全確実に、効率的に行えるマッピングツールを揃える等のサービス提供する側の、一層の努力も必要ではないか、と考えます。
 
3.4 差別化戦略と標準化
 標準化の普及を妨げる要因のひとつとして、ユーザーが敢えて標準化を望まない場合ということが考えられます。書面上の表記・レイアウトや、フォーマットの違いを差別化として意識する風潮があり、標準化はその差別化を阻害するものである、という考えが、ビジネス実務の世界に存在するのは確かと思われます。
 一方、自社のフォーマットが、自身にとって一番最適化されており、それを変更することは、逆に社内の業務効率化に反する、と論理もあるようです。さらに、自社において、既に個別最適なシステムを導入しており、これから多大なコストをかけて標準化システムに乗り換えることが困難であり、また、必要性を感じない、という考え方もよく聞く話です。
 以上の点は、確かに現実実務の中で、直面する具体的な課題としてクローズアップされる問題です。これに対する考え方としては、もう少し後述しますが、いずれにせよ、近視眼的な立場の対応策では、解決の困難な課題といえるでしょう。
 
3.5 標準化のコスト/効果
 また、ユーザーとして標準化に乗り出しにくい、という理由として、標準化によるコストと効果が測りにくい、ということがあるのではないか、と思います。実務業務の中で、システム導入或いは更新において、その立案及び稟議を挙げるのに必要な情報は、導入コスト及びそれによる期待効果の見合いを客観的に示すことにある。つまり、いわゆる「費用対効果」の明確化です。導入コストの点に関しては、多分、自社の従来どおりの、個別システム、フォーマットを使用するのが、経験ノウハウ活用からしても、有利でコスト抑制となり易いことになります。
 そして、標準化することの効果を考えると、必ずしも明確にならない場合があります。つまり、標準化であろうとなかろうと対外的にEDIを行おうとすると、所詮は当事者にて費用がかかるもので、その導入当初では、相手も1社ないしはごく少数社となるわけで、最初から標準化のメリットが得られるわけではないことが往々にしてあります。多分、相手が多数になればなるほど、メリットが効くのが、まさに標準化のメリットのゆえんと言えます。
 従い、費用対効果の論点から言えることは、ユーザーがまさに標準化に何を求めているのか、どのタイミングを考えるか、という、しっかりした戦略に立脚した考えをもっていることが大事ということでしょう。同業他社がやりはじめたから、とか、そういう風潮にあるから、という理由だけでは、当事者にとっての標準化メリットは見出せないかも知れません。
 
3.6 手続き申請制度の規制
 また、ユーザーにとり、標準化促進に足踏みをかけるものとして、諸官庁への手続き申請制度が、書面提出を必須としており、EDI化自体が進まなかったという経緯も確かにあったように思われます。手続き申請が最終段階で書面を必要としていたため、その他のBtoB部分のEDI化促進も必ずしも順調に行かなかった面がある、という点です。
 但し、これは昨今のe-Japan構想、電子政府化の確実な動向の中で、レスペーパー化が間違いなく果たされる中で、解消されるものと期待しています。
 一方で、諸手続きがレスペーパー化めざし、システム・ネットワーク化が進む中で、それらの諸手続きのフォーマットが、非標準の形式のものでは、結局全体の標準化の促進を阻害するものとなってしまうのも事実です。標準化は、一環してこそ標準のメリットが最大化されるものであり、それゆえ、諸官庁の諸手続きのフォーマット形式は標準化が切に望まれます。特に貿易取引という国際的な連携が必須のEDI化においては、フォーマット形式において独自仕様などを誇示する必要はなく、素直に国際標準に準拠すべき、と言えるのではないでしょうか。







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