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2. フォーマット標準化動向の現状(事例:TEDIの文書データの標準化)
 では、現実実務の状況下で、フォーマット標準化の実態、実情はどうなっているのか、という説明を、TEDIを事例として概観してみます。なお、この報告ではTEDIを事例として取り上げていますが、特にTEDIのフォーマット標準化が進歩的に普及している、或いは、他に比較して非常に優れている等の喧伝することを目的としたものではないことを明言しておきます。世に多くある標準フォーマットのどれが真に良いものであるかは、正にそれを使用するユーザーが最終的に判断すべきものと考えます。しかし、BOLERO他のEDIの仕組みにおいても、フォーマット制定において、類似する部分は多いと思われるし、国際的標準化に関しての根幹コンセプト及び方向性は、ほぼ共通するものがあると考えていいと思われます。
 
2.1 TEDI Club標準化部会
 TEDIにおける文書フォーマットの標準化は、TEDIの運営母体である、任意団体のTEDI Clubにて管理されています。そのTEDI Clubには、いくつかの専門部会があり、その中の標準化部会にて、標準フォーマットの追加、改訂、管理が行われています。
 同部会の基本方針は、
 
「基本方針:TEDIシステムの標準文書及び共通項目について、追加、改訂を検討/実施し、その使用を管理する。また、標準文書、共通項目に関わる、標準化推進の諸事項につき、調査、検討を行う。」
 
と標榜されています。
 ここでの標準化の範囲は、システム、ネットワークの技術標準ではなく、業務処理のための標準文書及び共通項目に集約してます。
 
2.2 制定標準文書フォーマット
 2002年11月現在のTEDI Club標準化部会で制定されている標準文書フォーマットは、以下のリストにあるとおり、計42種類の文書となっています。
 
(拡大画面:136KB)
 
 リスト参照のとおり、荷主、通関業者、船社、銀行、保険業者等、貿易取引に関わる広範囲な業者の扱う文書データを広く含有しています。但し、40種類以上に及ぶ制定済み文書にも関わらず、さらに多くの貿易関係書類が存在するのが、この貿易という範囲の広さを物語るものです。今後とも、標準化対象文書を拡大していく方向性ですが、一方で、現状の貿易関係手続きに関する書面の多さは、まことに膨大なものであり、標準化が追いつかない側面もあります。従い、標準化推進の方向性は着実にこなすべきですが、一方で、貿易手続き業務自体の簡素化、つまり、BPR(Business Process Re-engineering)も併せて推進させることが重要でしょう。標準化とBPRの両輪がバランスを取り、促進させることが、EDI化の普及をより確実にさせる道と考えます。
 
2.3 GLOBAL STANDARD準拠
 TEDI Club標準化部会においては、さらに以下のような基本姿勢を掲げています。
<標準化部会の基本姿勢>
・国際標準に準拠
・今後の国際標準の動向に注目
・ユーザー主題での標準化作業推進
 
 「標準化」というものが、それを掲げる当事者の自らが、その独自解釈に基づいた「標準」ということでは、真に世に広く受け入れられるものではなくなってしまう懸念があります。それを回避するためには、TEDI自体も、さらに広範囲に普及或いは受容されるべき標準に準拠している必要を強く感じています。特に、国境を容易に越える貿易業務においては、国際標準というものを強く意識し、それに準拠することが重要である、ということが、TEDIプロジェクトの当初より保持されている基本コンセプトです。
 また、国際標準というもの自体が、実は永遠不変のものではなく、貿易業務が実務の中で生き物のように変幻変化していくものであり、それに対応して標準も変化することが必然と理解すべきです。また、技術革新、業務変化の激しい昨今においては、提起された標準が普及される前に、次の別の標準へ方向性を変える、ということはありうるものとして、認識しておくべきでしょう。従い、前述の基本姿勢の2番目にある、「今後の国際標準の動向」には常に注目しておくことが重要と、TEDIでは考えている次第です。
 なお、基本姿勢の3番目について、簡単に補足すると、かように国際標準自体が移り変わるものであるが、その普及を確定させるのは、標準を標榜する機関でもなく、技術者でもなく、主役はあくまで業務遂行するユーザーであるべき、という、いわゆるユーザーオリエンテッドの考え方を示したものです。
 それでは、以下にて、TEDI標準文書が準拠しているという、国際標準の具体的内容について説明します。
 
2.3.1 UN/EDIFACT
 まず、TEDI標準文書中多くの文書タイプで準拠のもととなっているのが、UN/EDIFACTです。UN/EDIFACTの正式名称は、「United Nation Rules for Electronic Data Interchange for Administration, Commerce and Transport」ということで、日本語訳をすると、「行政、商業、及び、運輸のための電子データ交換国連規則集」ということになります。
 管理母体は、UN/ECE(欧州経済委員会)の元での、UN/CEFACT(United Nation Center for Trade Facilitation and Electronic Business)です。
 1980年代に制定され、以後、バージョンアップを繰り返しており、現在、貿易関係文書に関する標準フォーマットとして、最も名を広めているものです。その適用範囲、対象業務文書において、圧倒的な汎用性と普遍性をもっています。それゆえに、項目、構造において、工夫がなされており、膨大な項目数とともに、全体を理解するのが容易というわけではない側面もあるのも事実です。
 日本では、貿易関係業者の任意団体である、SC/SFネットセンターがいち早く、各種貿易文書のサブセット化を制定し、実用に供せられる形を提示しました。TEDIも、このSC/SFネットセンター版のサブセットを基本的には踏襲しています。
 
2.3.2 SWIFT
 TEDIでは、さらに銀行関係の標準文書について、SWIFT制定のフォーマットを参考としています。SWIFTとは、「Society for Worldwide Inter-bank Financial Telecommunication」の略称ですが、銀行出資者とする共同組合組織で、世界の数千の銀行が参加しています。従い、銀行間取引の関係文書においては、そのフォーマットが事実上の標準フォーマットになっており、銀行間EDIの、 いわゆるDe Facto Standardの地位を占めています。
 
2.3.3 IATA
 IATAは、「International Air Transport Association」(国際航空運送協会)の略称で、1945年に航空企業の代表者が集まって開いた「世界航空企業会議」で設立が合意された、民間の国際機関です。航空輸送は、当初よりコンピュータ化が導入されており、Air Waybillのフォーマットも比較的早期に標準化制定された経緯があり、現在では航空会社発行のAir Waybill、いわゆるMaster Air WaybillはDe Facto Standardとなっています。
 TEDIでは、Master Air Waybillが、このIATAフォーマットに基づく標準化となっています。
 
2.4 データフォーマットと、入力画面及び出力帳票との関係
 ここで、システム内に格納、或いは、対外的に連携されるデータフォーマットと、ユーザーインターフェイスの具体的な形となる、入力画面及び出力帳票との関係を述べてみます。TEDIについては、TEDI Clubにて制定、管理している標準とは、このデータフォーマットに関するものであり、入力画面や出力帳票については、Clubとしての標準を設けていません。これは、入力画面や出力帳票については、そもそも各社各様のレイアウトや必要項目に相違があることに基づいています。入力画面については、システム操作方法としての入力や確認の容易さをそれぞれに追求していってよいものと考え、それはひとつの標準に決める必要のないものと言えます。また、出力帳票についても、例えば、INVOICEのように各社各様の形があるはずです。さらに言えば、本来レスペーパー化をめざすEDIシステムのプリント帳票のレイアウトを自ら標準として規定する矛盾もあります。(そうは言いながら、現状では各種の機関等により規定された書面、帳票形式が存在するため、それらを意識し、システムとしてのプリント帳票出力機能を保持しなければならないのは、現行業務をこなすことをも対象としているシステムの宿命と言えます。)
 
2.5 XML〜EbXML
 貿易関係文書データの標準化の、現在から今後の方向性については、この過去1〜2年の間にだいぶ見えてきつつある、という感じを持っています。
 ひとつは、世界的なインターネットの広がりの中で、WEB-EDIにおいてXMLが進展し、技術的には本命視されるようになったこと。
 さらに、もうひとつは、そのXML技術の上に立ち、いわゆる電子商取引に関するビジネススキームを含めた標準化を国際的に取り決めようという動向が明確になってきている、という状況です。
 TEDIにおいては、これらの方向性に沿った進展を実現、或いは、今後の検討をしています。
 これらの点については、実務業務を担当するユーザーの視点からすると、多分に技術的、専門的な分野であり、詳細の内容を説明するには、小生も役不足であることもあり、容易にわかる範囲での簡単な説明にとどめます。詳細については、この報告書の中の名だたる専門家諸氏による報告内容を参照して頂きたいと思います。
 
2.5.1 XML
 XMLは、「Extensible Markup Language」の略ですが、文書の一部を「タグ」と呼ばれる特別な文字列で囲うことにより、文章の構造(見出しやハイパーリンクなど)や、修飾情報(文字の大きさや組版の状態など)を、文章中に記述していく記述言語のことです。
 まさにインターネットに対応した言語であり、いわゆるWEB-EDIに適したものである、と同時に、この「タグ」により、データの意味づけが明確となり、業務での実用に耐えうる、そして、それによりシステム間の連携が容易である、という実務的な利点を有しています。
 
2.5.2 ebXMLイニシアチブ
 先に述べたように、XMLをもとに、ビジネス仕様の標準化をめざしているのが、ebXMLですが、この仕様確定を国際的に進めた最初のプロジェクトが、ebXMLイニシアチブです。これは、UN/CEFACT、OASIS(Organization for the Advancement of Structured Information Standards=各IT関連ベンダーの集合した国際的非営利団体。)、及び各EDI団体により、討議されたもので、2001年5月にともかくもフレームワークを提示し、終了しました。
 
2.5.3 CEFATCTとOASISによる継続作業
 上記ebXMLイニシアチブは、一定の成果をもって解散しましたが、当然ながら、現実の電子商取引実務に対応すべき具体的仕様にまで、一挙に確定させるまでには至っていないのが実態です。従い、これからの更なる詳細的、具体的実務仕様を種々確定させるプロセスが必要となります。そのための継続的作業を、CEFATCTとOASISが役割分担して担当することとなったものです。その役割分担は、大雑把に言えば、ビジネス業務に関する事項をCEFACTが、そして、技術的仕様に関する事項をOASISが担当するということです。
 
2.6 PAA標準フォーマット
 PAAとは、「Pan Asian E-Commerce Alliance」の略称で、アジア各国のネットワーク企業が、国を越えて共同して貿易に関する国際ネットワーク化を図ろうという意図で結成されたコンソーシアムです。現在においては、韓国、台湾、シンガポール、香港、中国、マレーシア、マカオ、そして、日本のネットワーク企業が会員として参加しています。その日本での参加ネットワーク組織がTEDIです。
 そのPAAにおいて、貿易関係文書フォーマットの標準化を制定し、今後、実験及び実用を踏まえて普及を促進することになっています。
 以下、PAA標準フォーマットについて、特徴を概観します。
 
2.6.1 ebXMLの採用
 特徴のひとつ目は、先に述べたebXMLをいち早く採用決定したことです。その中でも、まずはレイヤーの中の通信層の部分について、準拠し、作業を進めています。
 
2.6.2 Super SetとSub Set
 ebXMLの採用といっても、文書フォーマットや項目等のビジネス業務としてユーザーに直接関わる部分については、未だ標準化が確定されたわけではないのが実情です。一方では、PAAとして、現実的に実験及びその後の実用化を企図する段階にあり、前述したCEFACTでの標準フォーマットの完成をただ待っているわけにもいかず、PAAとしてフォーマットの標準化を進めることとしています。
 その標準化制定の方法として、まず、PAA参加の各ネットワーク企業において、採用しているフォーマットを収集し、それらを比較検討し、全体をほぼ満足する標準フォーマットを練り上げました。これをSuper Setと称しており、つまり、PAA全体をほぼ満足させるため、かなり膨大なデータ項目のフォーマットとなっているものです。
 これをそのまま実用に対応させるとなると、実用導入段階で、膨大なデータ項目を参照し、各個別のシステムとのマッピング作業に相当の手間が生じてしまうことになります。従い、PAA内にて、実験を重ねていく中で、このSuper Setをもとに、具体的・個別的に業種毎のSub Setを作成して行こう、という方針を採ることとしています。つまり、このSub Set化された標準フォーマットを、実用時の導入段階では当事者企業が参照し、各社内システムとのマッピング作業を行っていくわけで、そのために実運用に耐えうるだけのデータ項目を有した現実的な範囲に項目を絞った内容となっています。今後PAAでの実験及び実用が進むほどに、Sub Setの標準フォーマット化作業が同時に進み、現実の業務への対応が促進される、というスキームを採っています。







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