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V. 貿易取引電子化における文書標準化について
1. 標準化の概説
 貿易取引における文書電子化において、文書標準化の役割は非常に重要なものであることは、異論のないところでしょう。従来より、EDI及び業務の専門家が種々述べられているとおりです。しかし、実際の業務の世界をながめると、EDI化の推移と文書標準化の普及とは必ずしも、歩調を同一にしていないことは、明らかです。本報告においては、その文書標準化を概説した上で、事例として、TEDIにおける文書標準化の内容を明らかにして、さらに、標準化の目的、本質にあらためて触れ、前述したような標準化普及の困難さ、課題についても、一考察してみることとします。
 
(本報告における標準化対象の範囲)
 なお、冒頭に本報告での「標準化」の対象・範囲について述べておきます。本報告の立場として、実務業務処理を行うユーザーの視点に基づくものとしたいという意図を持っています。従い、EDIという極めて、技術的ベースにたっての論題ではありますが、通信、ネットワーク、プロトコル、或いは、開発言語といった技術の標準化をとりあげるものではないことを明記しておきます。あくまで、貿易手続きという実務業務の中で、業務効率化の手段としてのEDI(広義の電子データ交換。)を利用しての、その業務に関するビジネス文書・項目の標準化について、技術専門家でない、実務ユーザーの立場で、極力平易に説明を進めることとします。
 
1.1 貿易文書の標準化の経緯
 それでは、いわゆる貿易文書フォーマットの標準化の経緯から始めるのが、当然のことですが、昨今のEDIによる文書フォーマット化の以前には、書面による貿易取引・手続きの長い歴史の中での、帳票レイアウトの標準化の経緯があります。その流れの延長線上として、EDIフォーマットの標準化が進展してきたと言えるでしょう。
 
1.1.1 帳票の標準化
 まず、用紙サイズの統一があげられます。いわゆる。国際的なA系列のサイズ化の中で、日本もA4版用紙が一般的に普及した経緯があります。
 そして、項目レイアウト標準化については、業界別に標準化が推移しました。例えば、B/Lについては、船社を超えて業界共通化フォーマットが進み、また、AIR WAYBILLについては、IATA(後述2.3.3参照)が標準フォーマットを制定し、普及を促進しました。
 さらに、種々貿易文書の、国を超えての国際標準フォーマット制定もなされてきました。INVOICE、PACKING LIST、SHIPPING INSTRUCTION等、貿易取引実務務ユーザーが作成する文書の帳票フォーマットが、CEFACT(後述2.3.1.参照)にて制定され、それをJASTPROは、日本向けに公表、管理しています。
 この帳票(書面)フォーマット(レイアウト)の標準化の目的・効用というのは、もとより書面表示での見易さが主眼であり、人的作業の観点での効率化をねらったものです。そこには、データ項目中心というよりは、余白を利用した特記欄を設け、自由表記(TEXT情報)でユーザーが柔軟に対処できる便法を用い、これが後々EDIフォーマット標準化の際にどう対応すべきか、の課題を残すこともなります。
 
1.1.2 EDIフォーマットの標準化
 貿易取引におけるEDI化は、相当に早くに着手され、1970年代には開始されていました。しかし、そのスタートは部分的、個別的利用の域のものに限定されていました。そのEDI化の推移を簡単に示せば、
(1)EDIの個別展開(1:1)
(2)EDIのグループ化(1:N)
(3)業界→国内標準(N:N)
(4)国際標準化(N:N:・・・:N)
 EDI黎明期には、コンピュータ自体が高価であり、そのコスト負担に耐えうるごく少数の超大手企業が特定の同じく超大手企業とのみ個別仕様のEDI化を実現させたわけですが、それが、ひとつの超大企業を中心として、そのグループ内複数企業に対して、自社仕様のEDIに参加させる、という形のグループ化に進み、さらにそこから、業界標準及び国内標準へと進展します。その上で、貿易という国内の枠を越える業務の必然により、国際標準化へと進むことになります。なお、この進展の流れは、あくまで理論的な発展の経路であり、実際業務においては、その枝葉末節において種々の波乱はあり、必ずしも、順調に進化すべきものと言えないのは、各位の経験からも納得いただけるでしょう。
 但し、EDIでのフォーマット標準化の目的として、データ処理(コンピュータ化)をより容易にすることをめざして進化していくことは、十分に意識しておく必要があります。
 
1.2 EDIにおける文書フォーマットの標準化の意義
 EDI自体が、コンピュータ利用による処理の高速化を果たし、実務業務の効率化を実現することに大いに意義があることは、言うまでもありません。しかし、これだけではEDI化の効果を最大限に得たことにはならないのです。
 
1.2.1 EDI業務効率化の要
 EDI化のもうひとつの意義は、一言でいえば、データの有効利用です。一度入力したデータを再利用し、業務の相手先にデータ授受を果たし、そこでまた再利用する、というデータ利用の循環が、EDI化の全体効果として重要な意義を果たすということです。そのためには、参画する当事者毎の個別のデータフォーマットではうまく行かず、フォーマット標準化の動きが必然となるはずのものです。
 具体的なデータ再利用の機能としては、データコピー機能、自動チェック機能、そして、システム連携機能ということができるでしょう。データコピー機能とは、ある文書のデータ項目から、別文書の同一意味付けのデータ項目にコピーするものです。これにより二重入力の労力軽減が果たせます。また、自動チェック機能として、別文書の同一意味付けデータ同士をシステム的に比較チェックさせることができます。これにより、人手による目視チェックの労力が軽減できます。さらに、システム連携機能として、あるシステムでの文書の同一意味付けデータを、相手先システムに送信・連携させることによって、相手先に確実にデータ連携ができ、やはり相手先での二重入力の労力軽減、及び、誤入力回避ができます。
 
1.2.2 データ項目重視
 EDIでの標準フォーマット化においては、データ項目が主体であること、つまりデータオリエンテッドを認識すべきです。つまり、出力帳票(書面)での表記レイアウトや、入力画面の形式に固執するのではなく、そのデータの意味付けが重要ということです。
 従い、従来の書面処理の延長線上で、処理データ化をしても、その出力帳票上に長いREMARK欄(TEXT文字情報)を設定するとなると、とたんにそのREMARK欄は、再利用が困難になり、使い勝手の悪いEDIとなってしまうことを注意すべきでです。この場合には、REMARK欄の使い方を分析し、種々のデータ項目として、しっかり意味付けをした上で、項目設定をする必要があります。
 一方で、人手による入力や確認作業の容易さの追求も、業務処理の効率化には欠かせない要素となる面もあります。そのためには、従来の書面に近いイメージの入力画面を設定するのも、効果的でしょう。しかし、この書面型入力画面を追求しすぎると、結局は書面形式に固執することになり、いわゆるレスペーパーをめざすEDIの目標と相反する結果となってしまう弊害もあることをよく認識すべきです。
 
1.3 文書標準化から見たEDIの種類
 EDIの形態の分類は、従来より種々提起されていますが、ここでは、文書フォーマットの標準化の観点から、以下の分類化を行い、それぞれの説明をします。
 
1.3.1 個別EDI
 
(1)個別EDI
 
 上図のとおり、各当事者ユーザー間において、それぞれ個別の相手に対して、個別固有の文書、項目でEDIフォーマットを設定し、EDI実施するものです。これは、EDI発展の自然な経緯からすると、必然の結果であり、つまり、相手先毎に異なる個別フォーマットの錯綜で、非常に複雑なシステム連結となるものです。要は全体的効果の観点からすると、多大な無駄とコスト増が生じてしまいます。現実的には、このような高コストで手間のかかるEDI化を断念するユーザーが増えることが考えられ、個別EDIが複雑化する前に、EDI化の普及が阻害されてしまうという事態に陥ります。
 
1.3.2 完全統一EDI(同一フォーマット)
 
(2)完全統一化EDI
 
 前述の個別EDIを一掃し、データ再利用の最も効果のある、究極的な完全統一化EDIというものが考えられます。要は、EDIに参加する全ユーザーが社内システムのフォーマットを含め、同一フォーマットを使用するものです。この形では、データ処理の効率化が非常に高度に達し、社会全体での効率化効果は絶大なものとなるのは容易に推測されます。
 しかし、このEDIを達成するためには、全ユーザーが既存の個別社内システムをすべて同一標準フォーマットの形で再構築をしなければなりません。
 この形は、考えられる限りの理想形とも言えるもので、同一フォーマットのみで社会全体が動く、ということはおよそ現実的にはあり得ないものと言えるでしょう。
 
1.3.3 標準フォーマット中心EDI
 
(3)標準フォーマット中心
 
 そこで、より現実的なEDIでの、効率的なデータ授受を可能なものとするためには、標準フォーマットを中心として、各ユーザーが連携しあう形が考えられます。この場合、各ユーザーは自身の社内システムの個別フォーマットを維持したままで、EDI対応を実現するものです。つまり、各ユーザーは自社個別フォーマットを標準フォーマットに変換して連携するのです。これを各ユーザーが励行すれば、結果として各ユーザーは標準フォーマットを介して他ユーザーと連携することが可能となります。
 このため、ユーザーはEDIに参加する最初に、自社個別フォーマットと標準フォーマットとを、同じ意味付けのデータ項目同士を紐付ける作業、つまり、マッピングを行う必要がある。これは、現実的には非常に骨の折れる作業ですが、EDI導入時に一度行えば、その後のEDI実施により、得られる業務効率化は非常に多大なものになります。
 また、この標準フォーマットが、他の外部のネットワークで同じものが採用されているとすると、その外部ネットワークとも容易に連携が可能となり、その結果、各ネットワーク傘下にある多数のユーザー同士がデータ連携され、その全体効果は相当なものとなることが期待できます。
 よく標準フォーマットの話を出した場合、ともすれば誤解を生じやすいのが、標準フォーマットでのEDIを行う時に、自社の既存の固有フォーマットを捨て去り、標準フォーマットでの自社システム再構築が必要であるかのように考えてしまうことです。こう考えると、システム再構築に要するコストの費用対効果を検討し、結局、標準化を断念する、という結論となってしまいます。標準フォーマット中心のEDIの考え方では、そのようなユーザー企業の個別自社システムを根本的には維持しても構わず、変換機能を利用して標準フォーマットに連携するという比較的コストのかからない方法で、広くユーザー同士のEDIが可能になるものです。標準フォーマットの意義は、まさにこの方法によるEDIの輪を広げることにあると言えるでしょう。







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