日本財団 図書館


5. ODRに関する主要問題点
5.1 信頼性(Trustworthiness)
 伝統的な取引およびインターネット取引のいずれから生じる紛争にも適用されるADRの最も重要な側面は、紛争処理手続自体の信頼性と公平性である。紛争処理機関の信用は、紛争を成功裏に処理するために重要である。対面的な法廷外紛争処理手続では、信用は実際に聴取(in-person hearings)する間に築くことができる。
 
 企業間(B2B)の取引環境では、ADRは多くの場合に継続中の取引関係をもつ当事者間に行われる。紛争が生じた場合、これらの紛争当事者に共通する目標は、取引関係を損なわないようにするため、両当事者にとって受け入れられるような解決に到達することである。けれども、企業対消費者(B2C)の取引環境では、当事者は互いに相手を知らず、継続中の仮想的(virtual)または即時的(real-time)な取引関係をもたないことが多い。おそらく、このような当事者は一回限りの電子商取引に関わるのである。典型的に、これらの当事者は、紛争発生以前に互いに取引をした記録をもっていない。その結果、対面的接触がない場合、ODRの解決に際して、信用を築き維持することは非常に難しい。
 
5.2 データ・セキュリティー、秘密保持及びプライバシー
(Data Security, Confidentiality and Privacy)
 データ交換のセキュリティー、秘密保持(confidentiality)ならびにプライバシー保護を準備することが、ODRの合法性(legitimacy)と法的な有効性(legal effectiveness)のために重要である。
 
 当事者は、ODRプロバイダーが使用するプライバシー保護メカニズムならびデータの使用と記録の方法を知らなければならない。同時に、企業と消費者のプライバシーに対する権利が尊重されなければならない。
 
5.3 認可(Accreditation)
 ODRの機能について、業界、国家または汎国家レベルでの正式な認可(accreditation)および承認(approval)を必要とするか否かに関する考え方に2派がある。認可の賛成派は、ODR提供者が認定基準を確保するように規制すべきであると主張している。反対派は、正式な認可手続がこのような紛争処理手続の自由かつ急速な発展を妨げるであろうという意見である。結局のところ、特に容認できるようなサービスを得られなかった、または誤審を受けたと考える当事者は、自然的正義の原理(the principles of natural justice)の違反があった旨を立証できる場合、自国の法律制度による法的救済手段に訴えることができるので、発展のために必要なのは、正式な規則をもつ方が有力であると思われる。
 
5.4 手続規則および適正手続の原理
(Procedure rules and principles of due process)
 裁判外紛争処理手続に参加する当事者は、その手続に適用される規則を自由に選択することができるので、異なる段階の手続を計画することができる。これには、当事者に対する回答期限(response times)、証拠収集に関する規定、対面的な聴取の権利に関する規定などが含まれるであろう。当事者に「適法手続」(due process)を保証する基本原理を規定する法は、この自由に一定の制限を設けている。これらの原理の多くは、すでに国内法規に組み込まれている。
 
 少額の紛争に対して、多くの法域においてできるだけ簡単な手続規則が望ましいとする点は議論の余地がある。とりわけ、強行的な紛争処理手続では、純粋に任意的な手続に比べて、詳細な開示条項(disclosure provisions)が要求されている。同様に、ODRとオフラインADRとでは、異なる問題点に関わることがあり、それぞれが異なる規則を必要とする。例えば、オンラインADRはしばしば、口頭に対する、書面による通信に関係するので、異なる問題点や利害関係を引き起こす。また、ODRは遠隔通信の費用負担の問題を引き起こす。このような相違点は、ODRとオフラインADRに対して、それぞれ異なる「適法手続」という考え方があり得ることを示唆している。
 
5.5 適用法(Applicable law)
 ADR手続に適用される法を選択する規則は、契約自由の原則(the principle of freedom of contract)に基づいている。この原則は、ほとんど企業対企業の紛争に一般に適用されている。この点を考慮して、過度に詳細に規定されている正規の強行的な国内法規は排除されるべきである。82けれども、消費者紛争では、消費者保護に関する特別規則が尊重され、かつ適用されるべきである。
 
 個々のODR規則の中にすでに紛争処理に関する実体的なルールが設けられている場合、適用法の選択は重要でない。このような規則の良い例は、ICANNのUDRPに見ることができる。これは、不正なドメイン名の登録を規制するもので(”cybersquatting”)、ドメイン名の紛争処理に関する予め準備された規則を含んでいる。83紛争を解決するために、紛争処理機関は、UDRPの実体的なルールに従って、問題となっている「使用」が不正なドメイン名の登録を構成することを証明しなければならない。
 
5.6 執行可能性(Enforceability)
 現在、執行可能性が、ODR手続の一番の弱点である。この問題に関する国際協定および条約によって、ODR手続はしばしば最終的に拘束力をもつことができない。ODR方式の中で、ICANNのUDRPだけが最終パネルの決定の執行に関する独自のメカニズムを規定している。84ドメイン名を使用したい当事者は、ICANNの紛争処理の判断を受諾せずにこれを使用することができないので、これは非常に高い確率で執行されている。ドメイン名紛争の性質と実体からして、この紛争の可能な処理は、それぞれのドメイン名の告訴または譲渡の拒絶であろう。この2つの判断はともにきわめて容易に強制執行ができる。けれども、ICANNの手続および最終的判断が当事者の法廷への訴権を排除している点を考慮すると、この執行手続の効力についてはまだ検討すべき点が残されている。
 
 企業間電子商取引の環境では、ODR手続の結果は、おそらく業界の確立した慣行に従って執行されることになろう。幾つかの国の政府は、ODRの拘束力のある判断の執行手続の簡素化を目的とする法律の制定、または現行の法律または規則の改正を検討している。
 
 業界ではODRへの関心が高まっている。インターネット上で展開されている高度の事業活動および電子商取引におけるクロスボーダー紛争の増加を考慮して、裁判外紛争処理の一つの形態としてODRの実務的な重要性が高まるものと期待されている。このような理由で、その将来の発展にとって技術的および法的な障害がないことを確実にすることが重要である。
 
勧告
 貿易簡易化と電子ビジネスのための国連センター(UN/CEFACT)は、以下の勧告に合意する。
 
1. 各国政府は、企業対企業(B2B)および企業対消費者(B2C)の両分野におけるオンライン裁判外紛争処理(ODR)の開発を奨励かつ促進すべきである。特に、各国政府は、将来の立法手続において、紛争処理プロバイダーの認可要件のような、ODRを妨げるような規則の採択を控えるべきである。ODRの奨励および導入は、特に行動規範やトラストマーク計画といった電子ビジネスのための自己規制文書と一緒に行うことができる。
 
2. 各国政府は、情報社会におけるサービスプロバイダーとそのサービスの受取人との間に紛争が生じた場合、紛争解決のために、貿易の発展に資するような適切な電子的手段を含めて、国内法に基づく裁判外紛争処理制度の使用を自国の法律が奨励し、促進することを保証すべきである。政府は、民間の当事者が任意にオンライン紛争処理機関に付託することを制限する規則を設けるべきではない。何故なら、ODRの利益の多くが、当事者が取引関係を結んだとき、予備的な合意によって最もよく実現されるからである。
 
3. 各国政府、ODRを開発する国内機関、国際機関及び非政府機関は、裁判外紛争処理(特に、消費者紛争の法廷外処理)に責任を負う団体が関係当事者のために適切な手続き上の保証手段を用意して運営することを奨励すべきである。
 
4. 各国政府は、参加者の個人情報に関する原則に従うことを条件として、裁判外紛争処理に責任を負う団体が情報社会サービスに関連する重要な判断をすべての関係機関に報告することを奨励すべきである。
 
5. 各国政府は、自国の法の原則に従うことを条件として、ODRプロバイダーが、ODRの判断に従わない者、詐欺を働いた者、または権限を濫用した者に関する情報を司法当局に提供することを奨励すべきである。
 
(朝岡 良平)
 

82 A Global Action Prepared by Business with Recommendations to Governments, p.32.〈http://www.giic.org/focus/ecommerce/agbecplan.pdf〉および、ICC Policy Statement "Jurisdiction and Applicable Law in Electronic Commerce", p.1.
83 UDRP Art.4 b) and c)を参照。〈http://www.icann.org/dndr/udrp/policy.htm
84 UDRP Art. 4 K)を参照。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION