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2. 定義
 「裁判外紛争処理」(Alternative Dispute Resolution;ADR)は一般的な用語で、あらゆる種類の法廷外紛争処理(out-of-court dispute resolution)―特に、仲裁、調停、仲介および斡旋―を包含している。「オンライン裁判外紛争処理(Online Dispute Resolution:(ODR)」はすでに一般に使用されている。ODRは、特別な種類のADRで、コンピュータネットワーク上に導入された裁判外紛争処理であると定義することができる。
 
 ODRの手続は、当事者が事前に合意をしたか否か、かかる事前の合意が適切であったか否かという問題によって影響される。ODRは、このような事前の合意が存在することによって非常に実施しやすくなる。
 
 現在、ODRシステムには、一般に次の4つの種類がある。
・オンライン自動処理(online automated settlement systems)
・オンライン仲裁(online arbitration)
・消費者苦情を含む、苦情処理のためのオンライン・オンブズマン・サービス(online ombudsman services)
・オンライン調停(online mediation)
 
 ODRは、主としてインターネット上で行われる事業から生じる紛争(いわゆる、オンライン紛争(online disputes)または電子紛争(e-disputes))に適用される。けれども、一部のODR方式は、伝統的な紛争(オフライン紛争)にも適用されている。70オンライン紛争およびオフライン紛争はそれぞれ、便宜的に、企業対企業(B2B)および企業対消費者(B2C)の分野で発生する紛争に細分される。しかし、“Online dispute resolution”という用語は、紛争の種類(the type)ではなく、むしろ、手続が行われる手段(the means)に言及するので、この用語は潜在的に誤解を与える可能性がある。さらにやっかいなのは、現行の紛争処理方法の全部または個々の紛争処理手続のすべての段階が完全にオンラインで遂行されていないことである。
 
 上記に加えて、インターネットによる紛争処理は、法的に拘束力のあるもの(binding)とそうでないもの(non-binding)の2種類に区別されなければならない。拘束力のないODR(non-binding ODR)とは、当事者がその結果に満足しない場合、いずれの当事者も訴訟に持ち込む権利が認められるという性質のODRを意味する。拘束力のあるODR(binding ODR)とは、その結果が両当事者に対して最終的であり、一般に、当事者がODRの結果について法廷で争うことができないというODRを意味する。
 
 国際的レベルで、多くのイニシアチブがすでに立ち上げられている。大部分は、電子商取引における消費者保護(consumer protection)を扱っている。すでにこれまでに言及したものに加えて、その主なものは、次の通りである。
・経済協力開発機構(the Organisation for Electronic Co-operation and Development:OECE)が採択した「電子商取引における消費者保護に関するガイドライン」(Guidelines for Consumer Protection in the Context of Electronic Commerce)71
・The Global Business Dialogue on Electronic Commerceが採択した「ADRに関する2000年マイアミ勧告」(the 2000 Miami Recommendations for ADR)72および「ADRに関する2001年東京勧告」(the 2001 Tokyo Recommendations for ADR)73
・ADRによる紛争処理を含めて、電子商取引における消費者信頼の構築に関する米国/欧州連合合同声明 (the US-EU Joint Statement on building consumer confidence in electronic commerce)74
・拘束力のないADRに関するEU勧告(the EU Recommendation on Non-Binding ADR)75
・EU域内における電子商取引の信頼を創造するために、2000年3月に開催されたリスボン欧州会議(the Lisbon European Council in March 2000)で要請されたEU域内レベルでのADRメカニズムの創設(the Creation of ADR mechanisms at the Community level)。
・2001年3月に開催されたストックホルム欧州会議(the Stockholm European Council in March 2001)で指摘されたオンライン紛争処理のための特別な技術的要件の必要性。また、本欧州会議は、このイニシアチブを実施するためのコミュニティポリシーフレームワークを設定することを欧州委員会に要請した。76
 
 EU域内におけるもっとも重要なイニシアチブに、次のものがある。
European Extra Judicial Network (EEJ-Net) 77
Financial Services Complaint Network (FIN-NET)
Eurochambers 78
eEurope 79
 
 上記のイニシアチブはすべて欧州連合委員会(the Commission of the European Union)が立ち上げたものである。また、同委員会は、消費者紛争処理に携わる法廷外機関に関する原則について、若干の勧告を採択した。80
・また、ODRを扱った幾つかの自己規律イニシアチブがある。これには、例えば、the Global Trust Allianceの研究成果がある。81
 
3. 適用範囲
 本勧告は、企業対消費者(B2C)および企業対企業(B2B)の紛争に適用されるオンライン紛争処理メカニズムを扱うものである。本勧告の目的は、ODRサービスの発展を促進・奨励するとともに、国内法および国際法とODRメカニズムとの両立性を促進することである。特に、本勧告は、インターネット取引から発生する紛争が増加する傾向にあり、またODRに関する特別規則を欠く現状を考慮して、ODRに関連する現行の法的阻害要因を軽減し、かつ将来このような阻害要因が導入されないようにすることを目的とする。
 
 ODRソリューションの執行性に対する主な障害の一つは、多くの場合に、契約成立前に、オンラインソリューションを含めて、適切な紛争処理機関に取引当事者が付託できるような施設がないことである。けれども、かかる解決方法を促進する法律は、特に消費者保護法および契約当事者の潜在的な不平等契約権に関する現行の国内法の考えと両立するものでなければならない。
 
4. ODRの長所
4.1 利用しやすく好意的な手続(Accessible and User-Friendly Procedure)
 紛争処理メカニズムに容易にアクセスできること、手続が簡便であること、および費用が比較的低廉であるという潜在性が、ODRのもつ長所の中で主要なものである。世界中どこからでも容易にアクセスできる紛争処理メカニズムを提供することにより、「管轄権」(jurisdiction)や「適格性」(competence)という用語を使用する典型的な国内法およびADR関連の法律文書にみられる複雑性を除去することができよう。伝統的な紛争処理メカニズムと対照的に、ODR機関(ODR forum)への申立の手続は、遵守すべき要件の数が少ないので、非常に簡単にすることができる。
 
 ODR手続の全体もしくは、少なくともその主要な部分は、オンラインで行うことができる。さらに、ODR手続への参加は、まったく特別の技術や知識を必要としない。ODR手続に参加するために必要な技術的な通信設備は、当該紛争の発生前に、当事者は使用できる。
 
4.2 迅速かつ低廉な手続 (Prompt and Inexpensive Procedure)
 インターネット上の迅速な通信の利用及び実際の聴取の省略が可能なので、ODR手続は、短期間で終結することができる。その結果、手続の費用を著しく軽減できるし、またこれに付随して効率も増加する。
 
4.3 明瞭性(Intelligibility)
 若干のインターネットODR機関は、オンラインで使用できる独自の詳細な手続規則をすでに採択している。これによって、紛争当事者はODR手続が行われる方法を知ることができる。さらに、紛争に関する判断(award)、裁定(decision)および統計がODRプロバイダーのwebsiteに公表されるので、当該紛争処理機関の活動状況に関する情報に一般の人たちがアクセスすることができる。
 

80 消費者紛争の法廷外処理に責任をもつ期間に適用される原則に関する欧州委員会の勧告(Commission Recommendation 98/257/EC)。次のホームぺージを参照。〈http://europa.eu.int/consumers/policy/developments/acce_just02_en.htm〉および、合意による消費者紛争処理に係わる法廷外機関の原則に関する欧州委員会の勧告(Commission Recommendation 2001/310/EC of April 2001, notified under document number C (2001/1016)。)次のホームページを参照。〈http://europa.eu.int/comm/consumers/policy/developments/acce_just12_en.pdf
81 The Global Trust Allianceの次の資料の説明を参照。〈http://www.bbonline.org/about/press/2002/022702.asp〉および〈http://www.law.washington.edu/ABA-eADR/aboutus/background.html







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