[資料III−2] 国連CEFACT勧告案に対するICCのコメント60
ここに述べるICCのコメントは、UN/CEFACTの「オンライン裁判外紛争処理(ODR)に関する勧告案(Rev.12)」に対して、国際商業会議所(ICC)の「E-Business、IT and Telecoms委員会」および「ICC国際仲裁裁判所」が作成したものです。
1. 序論:企業対消費者間(B2C)取引
2002年8月、ICCは、企業対消費者間(B2C)のオンライン取引から生じる紛争処理のサービスを提供している16カ国に存在するODRプロバイダーに関する報告書を刊行しました。これについては、次のホームページを参照されたい。
ICCの報告書は、サービスプロバイダーの数が増えていること、クロスボーダー紛争に対するサービスがこれまで以上に自由に利用できるようになりつつあることを示しています。オンラインサービスプロバイダーは、紛争処理を迅速化するために簡単にEメールを使用して、自動決済システム(automated settlement system)からオンライン仲裁や調停まで様々なサービスを提供しています。これは明らかに成長する市場であります。ICCは、ODRプロバイダーが自由に新しいものを取り入れ、市場のニーズに適応すべきであると考えるので、関連法の制定または強行的認可制の導入の方向に動くのは時期尚早であると考えます。
UN/CEFACTが気付いているように、ICCは、他の業界団体と協力して、各国政府がB2C ODRの開発を支援する最善の方策について、基本的な立場を展開してきました。これは次のように要約できます。61
(1)各国政府は、強行的認可制を設けるべきでなく、むしろ自己規律的な原則、ガイドラインおよび規則の開発を奨励すべきです。
(2)各国政府は、グローバルな規模で適用されるB2C ODRシステムの開発を奨励すべきです。
(3)各国政府は、法廷における訴訟と同じ手続要件をB2C ODRに求めるといった、不要な法的形式要件のようなB2C ODRにとって障害となるものを創るべきではない。
(4)各国政府は、B2C ODRの重要性を認める管轄地域と適用法に関する法的枠組みを提供すべきです。
“The Global Action Plan for Electronic Business”に述べられている、グローバル企業によって支持された自己規律的アプローチに関連して、ICCは一組の“Best Practices for B2C and C2C ODR”を刊行した。これを今回の提出に含めた。ICCは、一組のBest PracticesがODRの討論に役立つものであり、また企業が、政府の支援と自己規律によってB2C ODRを成功させるために必要な“the best practices and guidelines”を前向きに作成して、普及しているということを理解していただけることを願っています。
2. UN/CEFACTの勧告案に関する全般的コメント
勧告案の説明理由と適用範囲をもう少し明確に記述した方がよいと考えます。理由として述べられている説明の大半は、本勧告がオンラインで締結された取引と消費者紛争に関するものであることを正当化するためのものです。勧告案に述べられている幾つかの意見や説明はODR以外の裁判外紛争処理(ADR)にも有効であり、本文(text)は、これがもっぱらODRだけに適用されるものであるという印象を与えるものでありません。オフラインADRに比べてODRが優れているという点を強調した説明は若干不正確であります。
3. UN/CEFACTの勧告案に関する個別的コメント
(1)ICCは、「各国政府は、ODRの開発を奨励かつ促進し、またODRの促進や導入を妨げるような認可要件の如き規則の採択を控えるべきである」という第1および第2の勧告を歓迎します。ICCは、特にこの勧告に述べられている自己規律的アプローチを支持します。
(2)ICCは、「各国政府は、参加者の個人情報に関する原則に従うことを条件として、裁判外紛争処理に責任を負う団体が情報社会サービスに関連する重要な判断をすべての関係機関に報告することを奨励すべきである」という第4の勧告に注意します。ICCは、ODRの結果を公表するという一般的義務に強く反対します。個々の判断の公表を要求することは、一般にODRに認められる順応性および費用効果のある解決方法を当事者が採択することを妨げ、ADR手続の結果を秘密にするという一般に容認された原則に逆らうものであります。そこで、ICCは次のように提案します。「関係当事者が公表に反対しないことを条件として、ODRプロバイダーが公表する旨を判断した場合にのみ、判断の公表ができる。」当事者が別段の合意をした場合を除いて、公表の形式および範囲はODRプロバイダーが決定すべきです。
(3)「各国政府は、自国の法の原則に従うことを条件として、ODRプロバイダーが、ODRの判断に従わない者、詐欺を働いた者、または権限を濫用した者に関する情報を司法当局に提供することを奨励すべきである」という第5の勧告について、ICCは憂慮しています。
この勧告は、企業にとって重大な関心事です。
・「提供する」(make available)という文言は、ODRプロバイダーと司法当局のそれぞれの役割からして、曖昧です。もちろん、ODRプロバイダーは、例えば、詐欺、その他の犯罪の調査といった特定の調査に関する情報について、司法当局による法律に基く要請に従わなければなりません。けれども、少なくとも、ODRプロバイダーにとって、データ保護規則や名誉毀損(slander or defamation)に関する潜在的責任が生ずることになるので、法的な保証に基づく特別要請がない限り、このような情報を進んで提供するのは、一般に企業の使命ではありません。
・ODRプロバイダーが「ODRの判断に従わない者」または「権限を濫用した者」に関する情報を司法当局に提供することを奨励するという勧告を、ICCは非常に心配します。プロバイダーが「判断に従わない者」を司法当局に報告する理由はどこにもありません。例えば、自動オンライン決済システムは拘束力のない結果を出すのであり、これらのビジネスモデルやその他のODRは手続の任意性に基づいています。また、ICCは、「権限の濫用」(patterns of abuse)という漠然とした文言が気になりました。企業は、詐欺のような犯罪の調査や告発について司法当局に協力する責任を十分に認識していますが、「権限の濫用」という用語は法律用語として全く無意味です。ICCは、勧告の最終案から「ODRの判断に従わない者」と「権限を濫用した者」という2つの文言を削除することを提案します。
[資料III−3]
オンライン裁判外紛争処理(ODR)に関する勧告案(Rev.12)
Draft Recommendation on Online Alternative Dispute Resolution (ODR)
CEFACT/2001/LG14/Rev.12 (3 January 2003)
趣意(Executive Summary)
貿易簡易化と電子ビジネスのための国連センター(the United Nations Centre for Trade Facilitation and Electronic Business:UN/CEFACT)は、オンライン裁判外紛争処理(ODR)の開発に関する指針が必要であると考えて、本勧告を提案する。本勧告は、UN/CEFACTのすべての加盟国、特に各国政府がODRの開発促進を奨励することを意図する。この意味で、各国政府は将来、法案の策定に際して、ODRを阻害するような規則の採択を控えるべきである。本勧告は、趣意、UN/CEFACT加盟国が検討する問題点の分析、および詳細な特定の勧告事項から構成されている。
1. 序論
本勧告は、取引当事者を巻き込んだ紛争をどうしたらもっと容易に解決できるかという問題に取組んでいる。Eコマースはクロスボーダー取引の頻度を増加させる可能性がある。したがって、それはまた、商取引に関わるクロスボーダー紛争の頻度をも増加させる可能性がある。オンライン裁判外紛争処理(Online Alternative Dispute Resolution:ODR)の手続は、電子商取引または伝送的な取引形態を問わず、貿易取引に携わる企業または消費者(個人)が容易に利用できる。UN/CEFACTの任務は、電子的環境における国際貿易の簡易化に貢献することである。本勧告は、UN/CEFACT加盟国が自国の法制度の中でODRの促進方法を検討することを提言するものである。
企業間(B2B)および企業対消費者(B2C)の両分野におけるインターネット上の取引件数の増加は、必然的に電子ビジネス環境における紛争増加をもたらしている。
インターネット上の取引の性格から、有形の障壁がないので、当事者(parties)は、異なる管轄地域にいる参加者を巻き込む法的拘束力のある各種の取引を容易に企画することができる。このことは、交換されるメッセージの媒体が不可視であることとあいまって、契約の締結をも容易にしている。インターネットで交渉する当事者は、マウスクリックにより合意を行うことができる。「click-wrap契約」や「click-through契約」はすでに広く行われている。この新しい通信方法と契約締結は、特別の紛争処理メカニズムの必要性を引き起こした。
ODRがオンライン取引に有益である主な理由は、インターネットがグローバルな規模で企業対消費者間の少額取引を促進させていることと、裁判手続による救済が、しばしば費用の点で商業的に非現実的であることである。これに加えて、多くの場合に、消費者は、消費者と売主が異なる遠隔地に住んでいるという事実に由来する、言語や文化の相違、不便や費用がかさむこと等を伴う、オンライン取引から生じるトラブルを解決するという独特な難問に直面する。訴訟に持ち込む必要がある場合でも、消費者はまた、管轄権および適用法の決定、判決の執行などの問題に遭遇する。さらに、企業は、管轄権に服し、法律が適用される法域を決定する責任を負う。複数の管轄地域の法律を遵守し、多数の法廷で訴訟に対応することは、明らかにオンラインでビジネスを営む費用を増加させることになろう。
したがって、紛争処理のための迅速、適切かつ低廉な制度が、国の裁判に代わって、電子商取引の信頼と信用を創造するために置き換えられることが必要である。電子ビジネス環境の特異性のため、このような紛争処理に関する代替方法もまた、電子的手段によって遂行されるようになっている。多くの紛争処理を行っているオンライン機関では、すでにインターネットでサービスを提供しており、オンライン紛争処理(Online Dispute Resolution;ODR)は現実のものとなっている。すべてではないが、多くの場合に、このことが、ODRと現行の国内法および国際法の枠組みとの両立性、ODRを規制する規則等に関する問題を引き起こしている。しかしながら、多くの管轄地域においては、ODRは現行の法的枠組みに適合している。
ODRを規制するルールに4種類のものがある。これは以下の通りである。
a. 国内立法;
b. 国際的な法律文書:例えば、条約、協定、指令;
c. 私的契約による解決:この契約には、UN/CEFACTの勧告第26号および第31号に提案されているような条項を挿入することができる。
d. 自己規制文書:例えば、(UN/CEFACTの勧告第32号に提案されているような)行動規範(Codes of Conduct)がある。行動規範は法的拘束力をもたないが、ある法的環境においては、自発的な行動規範に従わなかったことが、損害を被った当事者に法的な救済手段をとることを認めている。この基本的な自己規制文書は、その他の電子商取引の促進方法と連携して作用することができる。UN/CEFACTの勧告第32号は、行動規範のような自己規律文書の使用を提案し、このような文書の執行可能性に関する問題を扱っている。さらに、同勧告は、ODRのメカニズムが行動規範を補強し、オンライン環境の信用を強化する手段であることを指摘している。62
上記の法律文書はすべて電子的環境における紛争処理に関連するものである。
・若干の国内法は、電子商取引から生じる紛争処理に関連する問題について規則を備えている。このような規則は、例えば、ドイツの民事訴訟法63およびイタリアの法律64に見ることができる。また、スペインの「情報社会サービス及び電子商取引に関する法案」も電子的手段による紛争処理の可能性を規定している。65さらに、スペインの民事訴訟法66は、民事訴訟に最新の電子的手段を適用することを認めている。67国内法における規則は、一般に電子商取引における消費者保護に関連している。
・The ICANNのUniform Dispute Resolution Policy(UDRP)は、ドメイン名(domain name)に関する紛争の分野における自己規律メカニズム(self-regulatory mechanism)の良い例である。68
・さらに、国家のレベルを超えた規則の例は、EU加盟国における法廷外紛争メカニズムの創設を明示的に勧告している欧州連合の「EU電子商取引指令」(Directive 2000/31/EC)、69「仲裁判断の執行に関する国連条約」(the United Nations Convention on Enforcement of Arbitral Awards)、「仲裁判断の執行に関する米州条約」(the Inter-American Convention on the Enforcement of Arbitral Awards)、「仲裁に関する欧州条約」(the European Convention on Arbitration)、および「ニューヨーク条約」(the New York Convention)がある。これらの条約文書はすべて、仲裁に関連するODRに適用できるメカニズムの創設に役立つようなガイドラインを提供し得るであろう。
60 ICC Doc.373 - 34/5, 10 February 2003.
61 The Global Action Plan for Electronic Businessの2002年第3版は、次のホームページを参照。
63 ドイツ民事訴訟法第1031条(v)項は、電子的手段による仲裁条項の締結を認めている。
64 電子的形式による仲裁条項は、イタリアのLegge Bassanini Nr. 59/1997 GU. Nr.63 S.O. 56/L. vom 17.3.1997およびthe Art.4 Abs. I des Decreto del Presidente della Repubblica, n. 513 vom 10.11.1997, GU.60/1 from 13.03.1998によって認められている。電子的手段による仲裁手続および仲裁判断の審議については、イタリア民事訴訟法第837条を参照。
66 Ley 1/2000 de Enjuciamiento Civil (LEC), of 7th January 2000, last amended on 28.07.2001.
67 次の条文を参照。Art.162 sec.1及びArt.135 sec.5、Art.152 sec.2 subsec.2a. LEC。
69 O.J. EC 2000 Nr. L/1
|