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[資料III−1] EUのODRに関する政策と活動
1. 国連ECEのODRフォーラム
 2002年6月6〜7日、ジュネーブの国連欧州本部で国連ECEは、CEFACTとの共催で「オンライン紛争処理(ODR)に関するフォーラム」を開催しました。このフォーラムの主要目的は、新しい情報通信技術(ICT)の普及・発達に伴って発展したODRの生成過程、情報化社会におけるODRシステムの役割とメリットの評価、クロスボーダーODRシステムのための相互運用性の問題の検討、貿易・投資・企業開発のためにODRによる最善の実務の啓蒙促進、ODRの障害となっている技術上、法律上、実務上の問題点の把握、主要国で取組んでいる作業状況の理解などです。2つの基調講演と23の報告が行われました。スピーカーは、大学(ジュネーブ大学、マサチューセッツ大学、ロンドン大学、ワシントン大学、情報技術と紛争処理センター)、産業界、国際機関(EC、ECODIP、WIPO,UNCITRAL、CEFACT、OECF、UNCTAD、ICC)の関係者です。日本からは(株)東京電力顧問の窪田芳夫氏が「日本におけるODRの現状」45と題して、わが国におけるADRの変形としてのODRの実例を統計的に分析した資料に基づいて報告し、参加者の関心を惹きました。CEFACT/LGのODR勧告案の根底に欧州連合(EU)のODRに関する政策的な考え方が感じられますので、EUの政策的な背景を理解するために、以下に、国連ECEフォーラムの冒頭で行われた基調講演46を紹介させていただきます。
 
2. ODR分野におけるEUの政策の背景
 欧州連合(EU)は、ODRサービスの開発を促進する必要性について、欧州理事会(European Council)が開催される都度確認してきました。2000年3月のリスボンで開催された特別欧州理事会は「電子商取引における消費者の信頼を、特に裁判外紛争処理システム(ADR)によって、促進する方法」の検討を、欧州委員会(European Commission)および欧州理事会に求めています。また、2000年6月19日〜20日ポルトガルのSanta Maria da Feiraで開催された欧州理事会で“eEurope Action Plan”が承認されましたが、“eEurope Action Plan”の中心は、「裁判外紛争処理(ADR)の促進」です。
 
 2001年3月13日付け“eEurope 2002:Impact and Priorities”と題する文書47の中で、欧州委員会は、“eEurope Action Plan”の進捗状況を評価し、今後重点が置かれる分野の優先順位を示すリストを提示しました。この中で、欧州委員会は、「EUレベルおよび国際的レベルのオンライン紛争解決システムおよび電子商取引に関する行動規範の迅速な開発が消費者信頼を高め、ビジネス予測を伸ばすために緊急の課題である」ことを強調しています。同委員会は、「これらの開発および普及の促進方法について具体的な提案を行う」旨の声明を出しています。
 
 2001年3月23日〜24日にストックホルムで開催された欧州理事会で、“Presidency Conclusions”に記されているように、欧州委員会は「オンライン紛争処理システムを促進する文書」を提出する考えを発表しました。
 
3. ADRの分野におけるこれまでのEUの活動
 インターネット取引に関する「裁判管轄権」(jurisdiction)と「適用法」(applicable law)に関連する問題、裁判によって一般に低額のクロスボーダー紛争を処理するのは非常にまれであるという現実的な問題が、ODRとして知られている、低廉かつ有効な紛争処理方法を政策的視点から生み出したのです。一般にADRが果たしてきた役割は、EUおよび国際的レベルで確認されており、インターネットおよび電子商取引の出現によって、近年に至ってODRの分野における政策的活動が加速されてきました。
 
 ADRの利用を勧める一方で、クロスボーダー電子商取引から生ずる紛争を解決するために、ODRサービスの迅速な開発を積極的に支援する作業が、EUおよび国際的なレベルのイニシアチブとして進められています。
 
 EUレベルでは、ADR関連イニシアチブは主として次の4つの分野で進められています。
加盟国内の法律問題:民商法および、特にブラッセル規則(Brussels Regulation)に関連する。
 
EU域内市場:電子商取引および金融サービスに関連する。特に、電子商取引に関するEU指令48が加盟国に対して、ADRの使用(電子的に行われるもの、すなわちODRを含めて)を妨げるすべての法的障害を除去することを要請している点に注意すべきです。欧州委員会は最近、特に金融分野における紛争解決のためにEU加盟国間のADRネットワーク(FIN-NET)を発足させました49
 
eEurope:情報社会における「電子的信頼性」(eConfidence)とビジネス予測を確保するためにオンライン紛争処理(ODR)の開発と利用のスピードアップを支援する。
 
消費者保護:消費者保護に関する基本的問題点がADR機関によって守られることを確保して、消費者に対する公平なアクセスの改善に努力する。欧州委員会は2つの勧告(98/257/CEおよび2001/310/EC)50を採択しました。この勧告は、一連の基本的保証によって消費者を適切に保護するという、ADR機関のためのガイドラインを定めています。加盟国は、順法的なADR機関を欧州委員会に通知します。これらの機関は、加盟国内に設置されているクリアリングハウスのネットワークにリンクされます。これは、“the European Extra-Judicial Network(EEJ-NET)”51呼ばれるネットワークで、クリアリングハウス相互間の通信の迅速化と消費者のためのアクセスの促進化をはかるために、ICTインフラストラクチャーによって支援されています。EEJ-NETは、現存する407のADR機関52によって構成されていますが、現在はまだオンライン調停(online mediation)の機能を持っていません。
 
 国際的レベルでもイニシアチブが推進されています。OECDの「消費者保護ガイドライン」(Consumer Protection Guidelines)及び「電子商取引に関するグローバル・ビジネス・ダイアログ(GBDe)」は、2000年9月に「ADRに関する包括的ガイドライン」53として採択されました。その他の国際的なイニシアチブとして、次のものがあります。ICANNの“Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy (UDRP)”は、ドメイン名に関する紛争を処理するものです。その外、国際商業会議所(ICC)の「ADR計画」、コンシューマー・インターナショナル(Consumer International:CI)の「ODRに関する報告」があります。また、米国政府はADR活動を奨励していますが、特にこの分野で、米国と欧州連合は協力しており、「電子商取引における消費者信頼の構築および裁判外紛争処理の役割」に関する合同声明を発表しています。これらのイニシアチブの普及は、情報社会および電子商取引に関連してADRの促進が必要であるという点について、広く国際的にコンセンサスが得られていることを裏付けるものです。
 
 EUレベルでは、「民商事事件に関する管轄権および判決の承認と執行」に関する理事会規則」(一般に、Brussels Regulationと呼ばれている)54の準備と交渉の過程で、特にクロスボーダー紛争のために、これまで以上に容易かつ低廉に利用可能な、裁判に代わるADR(オンラインADRを含む)の役割が重要視されました。最終的に採択された文書は特にADRに言及していませんが、このRegulationを採択する過程では、欧州議会(European Parliament)、欧州理事会および欧州委員会のすべてが、電子商取引に関する問題点を認識し、ADRおよびODR計画の開発を急ぐことが重要であることを確認しています。
 
 Brussels Regulationで合意された消費者契約に関するシステム(15〜17条)が将来改正される場合に、ADRおよびODR計画の利用可能性を考慮すべきであるという点についても、欧州議会、欧州理事会および欧州委員会が同意しました。
 
 Brussels Regulationは2002年3月1日に発効しました。その第73条は次のように規定しています。「本Regulation の発効後5年以内に、欧州委員会は、欧州議会、欧州理事会および経済社会委員会に対して、本Regulationの適用状況に関する報告書を提出すること。」
 
 本条は、2000年10月26日付けの欧州委員会の修正提案に沿って読むことが必要です。提案された新しい説明部分の14a項に次のように示されています。「Regulationの発効後に作成される報告書には、ADRおよびODR計画の開発を考慮して、第15条〜第17条(消費者契約)に規定されているシステムの再検討を含めること。」また、ADRの利用可能をスピードアップすることを要請しています。
 
 さらに、Regulationを採択した理事会の議事録(2000年12月22日付け)55に記載されている理事会と委員会の合同声明でも、この見解が確認されています。合同声明は、特に電子商取引に言及し、次のように述べています。「理事会および委員会は、報告書の作成にあたり、Regulationの消費者および中小企業の契約に関連する規定が、特に電子商取引にどのように適用されているかという点に配慮すべきである。このために、委員会は、適切と考える場合には、Regulationの第73条に述べられている期間の満了前に、Regulationの改正を提案することができる。」
 
 欧州議会は、Brussels Regulationに関連して、ADRの使用の促進に非常に意欲的です。欧州議会は、Brussels Regulationに関する意見書(2000年9月18日付け)56で、ADR機関に対する消費者紛争の付託条項を認可する規定を設けるように修正する考えを示しています。
 
 換言すれば、消費者と供給者は、訴訟に持ち込まれる前に、欧州委員会が認可した「認可されたADR機関」に紛争処理を付託する旨の契約条項を合意することができる、ということです。
 
 この点について、Brussels Regulationが将来、特に電子商取引を考慮して改正されると考えられます。このような改正は、電子商取引に関連して、このRegulationが実際にどの程度適用されるか、また電子ビジネスに及ぼす影響如何によります。
 
 また、Regulation改正の見通しは、高い質のADRおよびODR手続が利用可能であるか否かによって左右されると思われます。このようなADRおよびODRは、一定の手続的および技術的な保証またはガイドラインを遵守することを条件とした「認可」が必要であると考えられています。
 
4. ODRの分野におけるこれまでのEUの活動
 オンライン紛争解決の分野について、欧州委員会は、技術的な作業に取組むとともに、一連のワークショップを組織して57、専門家および関係者の意見を聴取しました。これは、ODRの開発と使用を促進し、技術的要件を検討し、標準化の手順を支援することを目的とするものです。また、これは、最近のODRビジネスモデルの調査を兼ねていました。
 
 欧州委員会におけるODRに関する作業は、1999年11月の「クロスボーダー電子商取引のための裁判外紛争処理制度」(out-of-court dispute settlement system for electronic commerce)に関する研究によって開始しました。この作業では、電子商取引に関する裁判管轄について火花を散らす議論が行われ、これがBrussels Regulationを準備するときに、大きな難問をもたらしたのです58
 
 この研究の目的と追跡調査は、特にインターネット上のクロスボーダー紛争を扱うとき、伝統的な法廷制度に代わる有効な制度としてのODRを調査することでした。主たる関心は、消費者信頼とビジネス予測を高めることができるソリューションの追求でした。
 
 最初の調査の後、2000年3月21日にワークショップが組織され、そこで研究成果が発表されました。このワークショップの目的は、関係者の意見聴取することと、現存する各種のイニシアチブを調査することでした。このワークショップでは、技術的要件を含めて、ODRシステムの基本的な基準またはガイドラインを開発することが有益であり、かつ、このような基準またはガイドラインが国際的レベルでの主要関係者との意見の積み重ねとコンセンサスに基づく手続を経て開発すべきであるという結論に到達しました。
 
 そこで、関心を持つ当事者と情報交換および討論を行うためのプラットフォームとして、“eConfidence Forum”websiteの開設が決定されました。このwebsiteは、2000年9月から稼動しています〈http://econfidence.jrc.it〉。また、討論リストによって、技術的作業が支援されています。
 
 さらに、技術的なワークショップが2000年10月にブラッセルで、また2001年3月にイタリアのイスプラにあるthe JRCで開催されました。これらのワークショップで、欧州委員会は、現在進行中の調査活動および特に技術的デモンストレイターの開発について説明し、海外の専門家の協力を得て技術的基準の見直しを行うことが認められました。
 

45 Mr. Yoshio Kubota (Senior Advisor of TEPCO), "Present Status of ODR in Japan," (ODR/2002.14,6 - 7 June 2002, Geneva).
46 Mr. Timothy Fenoulhet (European Commission Information Society Directorate-General), "The Policies and Activities of the European Union in the Field of Online Dispute Resolution (ODR).," (ODR/2002.01)
47 COM (2001) 140 final.
48 Article 17 of Directive 2003/31/EC of 8th June 2000 on certain legal aspects on information society service, in particular electronic commerce, in Internal Market (Directive on electronic commerce)
54 Council Regulation (EC) No.44/2001 of 22nd December 2000.
55 14139/00 Annex I, JUSTCIV 137,14th December 2000.
56 A5-0253/2000.







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