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7. TPAに関するコメント
 電子情報交換に関する取引当事者間協定書(TPA)について基本的解説がないので、多少理解不足があると思いますが、後掲(第II部)の「電子情報交換に関するモデル当事者間協定書」を読んだときに気付いた点を以下に記します。
 
7.1 TPAの目的:
7.1.1. TPAは、TPAユーザーに対して、「電子情報交換協定書」(Electronic Information Exchange Agreement)を作成するためのモデルとなるような一組の条項を提供するものです。それは、グローバルな事業や企業がeビジネスを実施するために必要な事項について、多数の国のモデル交換協定書を比較検討して得られたものです。これらを比較検討したとき、商取引上あるいは法的問題に関連して、いくつかの相違点が見いだされました。これらの問題点は、電子情報交換の使用を妨げるものではないにしても、グローバルなeビジネスを実施する場合に、法的に不明確な問題を引き起こす可能性が考えられます。このような問題の解決策として、もっとも実践的な方法の一つは、当事者間の契約によるフレームワークを構築することです。
 
7.1.2. TPAの目的は、ユーザーに対して、企業が自社の電子商取引に関するTPAを起草する場合に、たたき台として参考になるモデル協定書を提供することです。国境を越えた各国の取引当事者がこのようなモデル協定書を使用して契約を締結することによって、この種の協定書の内容の統一化・標準化が行われるならば、電子商取引に関するグローバルなフレームワークの構築やセキュリティの促進に貢献すると考えられます。
 
7.2. 「本協定(書)」(this Agreement)とは何か:
7.2.1. 一般論としてのTPAの目的は上記のとおりですが、「TPA-GLP」の「1.2. 目的および範囲」で、「これらの条項(these provisions)の目的は、当事者間の協定書(Agreement)の取引条件(terms and conditions)を規定することである」と述べています。「TPA-GLP」の表題は、原文では「Trading Partner Agreement」となっているので、この文書が「協定書」であると考えられます。けれども、この文書の2頁の目次と3頁の最上段に「1. General Legal Provisions」と明記されています。すなわち、最初の文書は、協定書の一部である「法的問題に関する一般条項」です。NDA、その他の文書は、いずれもTPAモジュールです。
 
7.2.2. GLPの「1.3. 一般取引条件」(General Terms and Conditions)第1パラグラフで、「本協定書は、当事者間で署名された(契約)、それに添付されている書類およびすべての付属書に記載されている一般取引条件を、参照することによって採択し、その一部に組み入れる」と定めています。また、第4パラグラフで、「本協定(書)は、書面による合意なしに譲渡できない」と規定しています。
 
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7.2.4. TPA-NDAは、GLPとは別個の独立した協定書です。ここでも「本協定(書)」という文言が使用されていますが(1.2.、1.4.、1.5.、1.7.、1.8.、1.9.、1.10.、1.12.、1.13.、1.14.)、この文言は、NDAに限定しています。
 
7.2.5. 「本協定書」あるいは「Trading Partner Agreement」は、何を指すのでしょうか。最初の文書(TPA-GLP)の最後に、「上記を証し、両当事者は本協定を締結する」と記して、両当事者が署名します。ここで言う本協定は、狭義の「TPA-GLP」なのか。「1.12. 適用法」、「1.13. 本協定の終了」、「1.14. 無効規定の波及切断」に言う「本協定(書)」は、少なくともGLPだけを指すのではないから、広義の「本協定書」が存在すると考えられます。
 
7.2.6. したがって、TPAないし「本協定書」というのは、「GLP+付属書」を指すのであって、これにはNDAを含まないと考えてよいのか。GLPは「一般取引条件」であるから、当事者間の取引に関連する「特約条項」があると考えられるが、取引当事者が実際にTPAを起草する際に、このような条項をGLPに追加すればよいのか。これらが疑問になります。
 
7.3 一般取引条件について
7.3.1. TPAは、当事者が電子情報交換を運用するときに取組まなければならない法的問題に関する条項を規定しています。法的問題に関する一般条項の一部は、受信確認、記録の保存、秘密性、電子署名、セキュリティ等、技術的または通信業務に関連していますが、これらの事項については、さらに詳細な仕様が必要です。そこで、サービス・モジュールと呼ばれる付属書がTPAを補完するのであり、当事者はサービス・モジュールの技術仕様の記入欄に必要事項を書き込むことになっています。
 
7.3.2. 現在の法的環境条件では、法的問題に関する一般条項は、当事者が「協定(書)」を締結する意思を有することを明示するために署名しなければなりません。RosettaNetのTPAイニシアティブは、TPAに伴う権利・義務およびその他の法的問題は、当事者間における電子情報交換の運用に関する本協定書(this Agreement)に基づくのであり、また、本協定書が当事者間の電子情報交換の関係を規制するだけであり、当事者間の別段の合意がある場合を除いて、電子情報交換の運用によって有効に実施される商取引の実体を規制するものではない、と説明しています。
 
7.4 当事者
7.4.1. TPA-GLPの1頁に当事者の会社名および所在地の記載欄があります。そこに、「(以下、「当事者」という)および(両当事者という)」と書かれています。また、最後の頁(10頁)に、両当事者は本協定を締結すると述べて、会社名、署名、氏名、役職、年月日、場所を記す欄が設けられています。これらの欄から、TPA-GLPは、1対1の当事者間の取引と考えられます。このTPAは、多数当事者間の取引にも使用できるのか。XML/EDIはどちらかというと多数当事者間の協定を前提とするEビジネスに使用するのではないのか。この点を明確にする必要があるのではないでしょうか。
 
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7.4.3. TPA-Portal Services、XML Services、EDI Services の技術仕様に、「企業A」および「企業B」という欄が設けられているが、GLPとNDAの「当事者」との関係がはっきりしないので、この関係を明確に定める必要があると思います。
 
7.5 国連勧告第26号および第31号との関係
7.5.1. 国連勧告第26号は電子データ交換(EDI)のための取引当事者協定書です。この勧告には、付属文書としてモデルEDI協定書の一般取引条件、逐条的コメンタリー、および技術的付属書が収録されています。今回のTPAの「付属書3:EDIサービス」は、勧告第26号のモデルEDI協定書の技術的付属書のモデルとして使用できるので、その意味で、これは勧告第26号の補完的役割をもつものと考えられます。TPAには、この他、「付属書1:ポータルサービス」および「付属書2:XMLサービス」があるので、これは勧告第26号よりも広い内容の汎用的な協定書です。したがって、勧告第26号は、「電子データ交換に関する取引当事者間協定書」(Trading Partner Agreement on Electronic Data Interchange)であるのに対して、今回のTPAは、「電子情報交換に関する取引当事者間協定書」(Trading Partner Agreement on Electronic Information Exchange)と呼ぶべきものです。TPAの目的は、電子情報交換に関する当事者間の権利・義務および電子情報交換サービスの仕様を取り決めることです。TPAは、あくまでも電子情報交換の運用に関連する技術的問題点(情報交換のためのインフラ)を対象としており、これによって実施される原因契約の成立、契約の内容等は対象外です。
 
7.5.2. これに対して、国連勧告第31号は、どちらかと言えば、電子的な手段による申込文書と承諾文書によって電子商取引の契約を締結するという、「電子商取引の成立に関する当事者間協定書」(Trading Partner Agreement on Formation of Contract through Electronic Means)ですから、勧告第26号や今回のTPAとは、次元が異なります。
 
7.5.3. したがって、もしTPAに関する新規の勧告案を作成する場合には、勧告第26号および勧告第31号との関係を明確に示すとともに、これらの間の整合性を保つことが必要であると考えます。







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