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第1部 総論
I. 電子商取引のための国際取引ルール構築への取組み
― ebXML TPAについて ―
はじめに
 国連CEFACTは、OASIS(構造化情報標準促進団体)との協同で推進しているebXMLイニシアティブに関連して、電子情報交換に関するモデル当事者間協定書(TPA)の開発を進めています。1987年に米国法曹協会は、商取引法部会の下部組織である統一商法典委員会の電子商取引分科会の下に「電子メッセージサービス専門委員会」を設置して、米国におけるEDI取引が契約法(特に、米国統一商法典)の基本原則および関連する法的諸問題に及ぼす影響について調査・研究を始めました。その成果に基づいて、同専門委員会は、1989年に「モデルEDI取引当事者間協定書」(Model EDI Trading Partner Agreement:TPA)および詳細な注釈書を発表しました。このモデルEDI取引当事者間協定書は、他の国の同種のTPAとともに、1995年の国連ECE勧告第26号「モデルEDI交換協定書」を開発する際に参考資料として利用されました。
 
 1990年代に入って、電子商取引、電子メッセージ、電子データ交換などに関する法制度が着々と進められているのと、情報通信技術の目覚しい進歩がありました。その結果、インターネットを利用する電子商取引の発達・普及が見られましたので、2000年に国連ECE勧告第31号「モデルEC協定書」が採択されました。電子商取引のための国際ルール構築の必要性については、昨年の本特別委員会報告書で取り上げました。そこでは、契約的解決策への取組みとして、EDI交換協定書、電子商取引(EC)協定書などについて概要を説明しました。これらはいずれも取引当事者間協定書(Trading Partner Agreement)です。今回は、電子商取引のための国際ルール構築の一環として、ebXMLイニシアティブに基づいて開発が進められているTPAを取り上げてみたいと思います。
 
1. ebXML TPAの開発
 2001年3月にジュネーブの国連欧州本部で開催された国連CEFACT第7回総会の冒頭で、CEFACT運営グループ議長は、過去12ヵ月間の各作業グループの総括報告を行いましたが、その中で「ebXMLイニシアティブ」の進捗状況に言及して、予定通り2001年5月にebXMLの技術仕様が完成する見通しであると述べました。これに関連して、法律問題作業グループ(LWG:2002年5月の組織改革後、現在の法律問題グループ(LG)という名称になりました)は、2001年度の作業計画の中に「ebXML取引当事者間協定書(ebXML TPA)」の開発を挙げています。ebXMLイニシアティブは、国連CEFACTとOASISによる協同イニシアティブで、グローバルな規模で利用されるebXMLの国際標準の開発を目的として、IT業界における大手ベンダーや主要なユーザーによる参加が実現し、またRosettaNet、GCI (Global Commerce Initiative)、OTA(Open Travel Alliance)、その他多数の業界団体のサポートを受けています。
 
2. ebXMLの概要
2.1 ebXMLの構成要素
 ebXMLの構成要素として、(1)ビジネスプロセス(Business Processes:BP)、(2)ビジネスドキュメント/コアコンポーネント(Business Documents/Core Components:CC)、(3)コラボレーションプロトコルプロファイル(Collaboration Protocol Profile:CPP)、(4)コラボレーションプロトコルアグリーメント(Collaboration Protocol Agreement:CPA)、(5)レジストリ/リポジトリ(Registry/Repository:R&R)、(6)メッセージングサービス(Messaging Services:MS)から成り立ちます。
 
2.2 CPPの内容
 ebXMLでは、各当事者が「コラボレーションプロトコルプロファイル」(Collaboration-Protocol Profile:CPP)を作成し、ebXML準拠のレジストリに登録しておく必要があります。CPPは、ebXML仕様に則ったビジネスプロセスとサービスインターフェイスに関する必要情報を、取引相手先のシステムが理解できるような方法で記述したXML文書です。CPPには、取引当事者の連絡先情報、業界区分、サポートしているビジネスプロセス(BP)、インターフェイス要件(メッセージングサービス要件等)、通信プロトコル、セキュリティ関連のプロトコル情報、取引当事者がサポートする電子商取引に関するシステム能力などの情報が含まれます。
 
2.3 CPAの生成手順
 また、電子商取引を具体的に履行するためには、取引当事者間で相互にサポートしているビジネスプロセス(BP)やビジネスドキュメント(BD)の送受信に使用する技術などについての詳細な情報を調整する仕組みが必要になるので、そのために当事者間で「コラボレーションプロトコルアグリーメント」(Collaboration-Profile Agreement:CPA)を取り決める必要があります。手順としては、(1)まず、企業A(例えば、売り手)および企業B(例えば、買い手)がそれぞれのCPPをリポジトリ(R&R)に登録します。(2)買い手企業Bが、リポジトリに格納されている企業AのCPPを探し出し、自社のサーバーにダウンロードします。(3)買い手企業Bが、互いのCPPから合意のとれると思われるCPAを作成して、売り手企業Aに送付します。(4)企業Aと企業Bの間で、合意が得られるように調整(交渉)します。(5)コンピュータ上で動作可能となるCPAを生成します。(6)そこで、当事者間の電子商取引が開始することになります。
 
3. ebXML TPAの草案(Draft V1.0)
 LWGは、ebXML標準に基づく「ebXML取引当事者間協定書」(ebXML Trading-Partner Agreement:ebXML TPA)の開発を検討しました。LWGの説明によると、TPAの基本的性格は以下のとおりです。TPAは、それ自体が独立した協定(書)ではなく、EDI交換協定書の技術的付属書に含まれている情報伝達規約や情報表現規約などの取り決めに関するもので、いわゆるプロトコル、仕様書、技術的付属書、メッセージインプリメンテーションガイドライン等の性格を持つ文書です。
 
 LWGの「ebXML Trading-Partner Agreement」(CEFACT/2000/G020, December 2000)は、TPAの最初の草案(Version 1.0)です。この文書は、OASISの ebXML Trading-Partner Teamによって作成されたもので、「コラボレーションプロトコルプロファイル(CPP)とコラボレーションプロトコルアグリーメント(CPA)に関する仕様の要件を定義するものである」旨が冒頭に述べられています13。本協定にいう「取引当事者」(Trading Partner)とは、他の取引当事者との商取引に従事する企業を意味し、他の当事者とメッセージ交換を実施する各当事者の商業・ビジネスの範囲および技術的能力が「取引当事者プロファイル」(Trading-Partner Profile:TPP)と呼ばれるドキュメントに記載されます。当事者間に合意にいたった交信内容は、「取引当事者間協定書」(Trading-Partner Agreement:TPA)と呼ばれる文書に作成されることがあります。あるいは、コンピュータによって取引当事者のTPPを作るときに、TPAが生成されることもあります。当事者のメッセージ交換能力は、CPPによってTPPの中に記述することができます。また、取引当事者間のメッセージ交換協定は、CPAによってTPAに記述することができます。14
 
4. TPA(Version 02.00)に至るまでの経緯
 上記のebXML TPA第一次案(Draft V1.0)の後に出たのが、RosettaNet、EDIFICE、ESIAとUN/CEFACT/LWGが共同で開発したTPA第二次案(Draft V0.2)で、2001年9月には発表されました。この「取引当事者間協定書」(Trading Partner Agreement:TPA)は、「電子情報交換」協定書(“electronic information exchange”agreement)を構成する一組のモデル条項をTPAのユーザーに提供するものです。TPA第一次案は、「ebXML TPA」という表題であり、それ自体が独立した協定(書)ではなく、EDI交換協定書の技術的付属書に含まれている情報伝達規約や情報表現規約などの取り決めに関するもので、CPPおよびCPAに関する仕様書、技術的付属書の性格を持つ文書です。これに対して、TPA第二次案は、構成および内容が大きく変わっています。TPA第二次案の1ヵ月後の2001年10月にTPA(Version 01.00)が発表されました。これは、第二次案に若干修正を加え、「付属書1ポータルサービス」、「付属書2XMLサービス」および「付属書3 EDIサービス」にそれぞれ用語解説が追加されました。最新版はTPA(Version02.00)で2002年1月下旬に発表されました。本稿ではこの最新版に基づいて説明します。
 
 以下、簡単にTPA草案(V0.2)以降の経緯を説明します。RosettaNetの関係者会議が2001年5月に開催され、TPA標準化に関する作業グループを設置する決議が採択されました。TPAイニシアティブはRosettaNetのFoundational Programとして、国連CEFACTの法律問題作業グループ(LWG)を始め、各国の政府機関および業界のEDI協定書や電子商取引協定書に関する勧告を分析・調査し、これらに共通する法的諸問題に関する標準的な条項を基礎にTPAモデル条項を起草することになりました。ebXMLによって電子商取引がインターネット上でオープンに行うことができるので、基本的には、CPPおよびCPAを取り決めればよいのです。しかし、電子商取引に関する法的環境がまだ十分に整備されていない現状では、当事者間の法的問題点について確り合意しておくことが望ましいと考えられます。また、EDI交換協定書および電子商取引協定書については、国連勧告第26号および第31号がありますし、その他各国の業界団体の標準EDI協定書があります。けれども、EDIとebXMLが相違するので、後者による電子商取引を行う当事者のためにモデルTPA協定書が必要であるとの結論に到達しました。
 
 そこで、RosettaNet、EDIFICEおよびESIAに加盟する企業が、電子ビジネスを希望する取引当事者間の法的な権利・義務を規制する共通のTPAを提案し、普及するために協同イニシアティブを立ち上げることになりました。TPA作業グループは、RosettaNetが開発資金を拠出し、RosettaNet、EDIFICE、ESIAおよびUN/CEFACT/LWGが参加するという、国際的な協同チームです。TPA作業グループは、(1)電子情報交換を規制する一般的なeビジネスTPAがまだ存在しないこと、(2)グローバルな電子商取引に関する法的基準がまだ確立していないこと、および(3)EDI情報交換とXML情報交換の相違に起因する法的問題点がまだ十分に調査されていないことを認識し、このような認識に基づいて、電子情報交換の法的側面に関する多目的TPA(multipurpose TPA)の創設および世界中のeビジネス業界に承認されるような標準TPAの開発を目的としています。
 
5. TPAイニシアティブの支援団体
 ここでは、RosettaNet、EDIFICEおよびESIAについて簡単に紹介します。
 
5.1 RosettaNet
 RosettaNetは、1999年に設立され、会員数は400社を超えています。ハイテク技術によるグローバルなトランザクションネットワークの発達に不可欠な共通言語と開放的Eビジネス手順の創造によるインターネット・ビジネス標準の協同開発と迅速な展開を推進するために設立されたコンソーシアムです。関連業界は、情報技術(Information Technology:IT)電子部品(Electronic Components:EC)、半導体製造業者(Semiconductor Manufacturers:SM)、ソリューション・プロバイダー(Solution Providers:SP)です。
 
5.2 EDIFICE
 EDIFICE(EDI Forum for companies with Interests in Computing and Electronics)は、電子計算、電子工学および電子通信に関心をもつ企業のための標準化された電子商取引フォーラムです。EDIFICEは1986年に創立された非営利団体です。現在64会員で、その80%はヨーロッパ電子業界の代表的企業です。EDIFICEは、電子商取引の発展ならびにUN/EDIFACTベースのメッセージガイドラインの普及に当たっています。
 
5.3 ESIA
 ESIAは、ヨーロッパ半導体産業協会(European Semiconductor Industry Association)の略称で、ヨーロッパ電子部品製造業協会(European Electronic Component Manufacturers Association:EECA)の一部です。〈www.eeca.org/esia.htm
 

13 LWG ebXML Trading-Partner Agreement, (CEFACT/2000/G020, December 2000) §7 Introduction. p.5.
14 ibid. §8 Vision. pp.5〜6.







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