2. 平成14年度CEFACT/LGの活動
1. CEFACTの改組とLGの新役員
国連CEFACTは、第8回総会で組織改革を行い、これまで6つあった常設作業グループを(1)TBG(国際貿易・ビジネスプロセスグループ)、(2)ICG(情報コンテンツ管理グループ)、(3)ATG(応用技術グループ)、(4)TMG(技術・方法論グループ)および(5)LG(法律関係グループ)の5つに再編しました1。その結果、従来の「法律問題作業グループ」(LWG)は「法律関係グループ」(Legal Group:LG)と改称され、Rob van Esch氏をLG議長に、David Marsh氏を副議長に選出しました。以下、2002年5月以降に開催されたLG会議の議事録に基づいて2、LGの主要活動を報告いたします。
2. オンライン裁判外紛争処理(ODR)
2.1 ODR勧告案の改訂およびこれに対するコメント
2002年7月に開催された第1回LG会議にODR勧告案(Rev.7)3、JASTPROのコメント4およびICCのコメント5が資料として配布され、意見交換が行われました。その結果、ODRのB2BとB2Cへの適用の相違に関する説明を追加することになりました。また、前記の2つのコメントを参考にして勧告案が改訂され、9月に開催された第2回LG会議にODR勧告案(Rev.8)6が提出されました。この改訂勧告案に対して米国からコメントが提出されています。最新版はODR勧告案(Rev.12)7ですが、これに対するコメントがICC8およびUNCITRAL9から提出されています。
2.2 インターネット取引とODR
第2回LG会議でODRに関するプレゼンテーションが行われ、報告者は、すでに実施されているODRシステムの中からインターネット・ユーザーが自由に選択できるような仕組みを設ける提案をしました。これらのODRシステムは、何時でもユーザーが取引を希望するホームページのサイトに現れるようにします。そして、当事者双方が選択したODRシステムに合意した後でないと、契約に署名ができない仕組みにします。この際に問題となるのは、当事者がODRシステムを選択するとき、紛争処理サイトを管理している機関を知ることができることです。管理機関は、インターネット・ユーザーの信頼を得るためにも、国際社会のコンセンサスを得ている国際機関が望ましいと考えられます。特に、この方法が紛争処理サイトのホスト機関の信用と結びつくとき、成功は間違いありません。この信用は、当該機関の独立性、普遍性、効率性および有能性によって得られるということです。
2.3 ODRのグローバルシステム
電子商取引契約から生じる紛争を解決するために、ODRのグローバルシステムについて意見交換が行われました。電子商取引契約に国際物品売買に関するウィーン条約が使用できるが、ODRにUNCITRALのモデル法が適用できるか否かという質問がありました。Sorieul氏は、これらの問題を解決するには、ニューヨーク条約の見直しが必要であるが、それは容易でないこと、また、UNCITRALにおいて仲裁に関するグローバルシステム開発の提案があったが、UNCITRALはこの提案に否定的であったことを説明しました。提案されたメカニズムは、モデル法と一組の規則から構成されていましたが、執行性の問題が未解決であったということです。
2.4 ODR勧告案の目的
David Marsh氏は次のように説明しています。B2B取引とB2C取引ではODRの扱い方が異なり、多くの問題は、ODRの定義如何にかかっています。ICANNのメカニズムがうまく稼動している理由は、これがクローズドシステムで、執行可能であることです。すなわち、ドメイン名紛争のためのICANNシステムは、他の分野におけるODRとして使用できないのです。Marsh氏は、ODR勧告案の核心を要約し、ODRがまだ初期の壊れやすい段階にあるので、その発展を妨げる法的障害を除去することを強調するのが勧告案の目的であると述べました。
3. 取引当事者間協定書(TPA)
3.1 RosettaNetのTPA
LGがTPAに関する議論を数回行っているので、その結論およびRosettaNetのTPAを国連CEFACTの次回総会に提出する提案が検討されました。結論として、LGは、TPAが技術的に中立を保ち、「1対1」の取引にも「1対多数」の取引にも適用できるものであること、および誰が標準を所有するかということの2点に合意しました。Marsh氏は、知的財産権問題について、国連CEFACTとOASISの間にMoUが存在することを説明し、LGに対して、ebXML開発に関する法的問題(例えば、リポジトリーの所有権、「1対1」、「1対多数」、「多数対多数」間のebXML取引における法律問題等)に注意を喚起すべきであると述べました。また、第8回総会時には、LGのebXMLプロジェクトのリストにRosettaNetのTPAが含まれていなかったとの指摘がありましたが、このリストは完全に網羅したものでないので、特に問題がない旨の説明がありました。
3.2 ebXMLの法的問題
LGは、共通の法的問題を理解するために、電子ビジネス・ソリューションに関するTMGの提案を検討しました。Marsh氏は、法的問題の理解には幾つかの層があり、その中の一つが、使用するシステムに関する法的問題で、ここでは、リポジトリー、コアコンポーネント、これらを保守管理する当事者の責任、標準の公開性が該当すること、また、本プロジェクトの範囲をもう少し詳細に定義する必要があると述べました。彼は、少なくとも4つの異なる問題点,―即ち、消費者と電子商取引の関連性、契約成立の方法、特定のプロトコル(ebXML)に関する法的諸問題、および契約成立の法的効果が存在し、この意味で、ebXMLが反復取引をベースとするB2B取引に関わるものであると述べました。さらに、彼は、ebXMLの法的側面には、リポジトリーの保守管理、不履行などに責任を負う当事者が誰かという困難な問題があることを指摘しています。
3.3 本プロジェクトの限界
e−ビジネス契約の内容に法的条項が含まれているので、コンピュータが契約中の法的部分を識別する方法を開発することが重要であり、その意味で、LGがTMGとの共同プロジェクトに取組むことが必要であるとの発言がありました。また、「電子的に自動処理できる」契約の概念をLGのプロジェクトの中に入れるか否かが議論されました。この問題は現段階では解決が不可能であるが、そのためにまず、コンピュータが解読できるセマンティックスを開発することが必要であるという意見でした。Marsh氏は、このプロジェクトの研究に使用できる資源が非常に限られているので、LGが貢献できる分野は、リポジトリーを保守管理する担当者の権利義務に関するものであり、電子的自動処理商談のような問題に深入りすべきではないと述べました。
4. 電子署名、クロスボーダー認証および認証機関
David Marsh氏は、この問題が2000年〜2001年度には重要であったが、その後の急速な技術の進歩により、問題の1つであるデジタル署名や署名認証機関が実務上ほとんど必要とされないので、本件をLGの作業計画から削除することを提案しました。しかし、結論として、LGの作業計画に残すことになりました。
5. CEFACT第9回総会
5.1 第9回総会の概要
国連CEFACT第9回総会は、2003年5月12日〜15日にジュネーブの国連欧州本部で開催されました。参加国73カ国、国連機関、国際機関など参加機関26機関、参加者(登録ベース)総数450名でした10。総会は、法律ラポーター(Joint Legal Liaison Rapporteur)と法律関係グループ(LG)の合同報告書11を確認し、取引当事者間協定書(Trading Partner Agreement; TPA)12を承認しました。また、本項の冒頭で、「法律関係グループ」の改称に際して、オランダのRob van Esch氏がLG議長に選出されたことを述べましたが、都合により同氏が辞任され、後任として、David Marsh氏が議長に、ドイツのKlaus Brisch氏が副議長に選出された旨が報告されました。
5.2 LG関係の主要議題
5.2.1 交換協定書およびTPA
勧告第26号および第31号に加えて、LGは、RosettaNet、EDIFICEおよびESIAと協力して、XML、EDIを含む「取引当事者間協定書」(Trading Partner Agreement)の開発に当たりました。これは勧告第26号と勧告第31号の原則に一致するものですが、これらの勧告に置き換わるものではないとのことです。TPAの「Version2.00」を本報告書に掲載しましたが、今回の総会に提出された文書は若干修正されています。
5.2.2 モデル認証機関条項(Model Certification Authority terms)
電子署名、クロスボーダー認証および認証機関に関する勧告案の作成が必要と考えられるときが来るまで、本件への取り組みを休止することになりました。
5.2.3 ODR勧告案
本件は、最初の議案書に載っていましたが、改訂議案書では削除されました。しかし、LGは来年の総会にODR勧告案を提出する予定であるとのことです。
5.3 その他
LGは、TBG(国際貿易・ビジネスプロセスグループ)およびTMG(技術・方法論グループ)とそれぞれ新しい合同プロジェクトに取組む計画を検討しています。
(朝岡 良平)
1 Proposal for Future Structure and Organization of the UN/CEFACT Permanent Working Groups (TRADE/CEFAC.T/2002/8/Rev. 1, 27 June 2002).
2 Report of the First Meeting of the Legal Group of UN/CEFACT, 1〜2 July 2002, Cologne (CEFACT/2002/LG11/Rev. 1, 22 July 2002), Report of the Second Meeting of the Legal Group, 9〜13 September 2002, Geneva (CEFACT/LG/02, 13 September 2002), and Report of the Third Meeting of the Legal Group, 26〜27 Copenhagen (CEFACT/LG/05, 2 October 2002).
3 Draft Recommendation on Online Dispute Resolution (ODR), (CEFACT/2001/LG14/Rev.7).
4 Comments Concerning Draft ODR Recommendation, of Mr. Ryohei Asaoka from JASTPRO (CEFACT/2002/LG04).
5 ICC Comments on the Online Dispute Resolution Draft (CEFACT/2002/LG07).
6 Draft Recommendation on Online Dispute Resolution (ODR) (CEFACT/2001/LG14/Rev.8).
7 Draft Recommendation on Online Alternative Dispute Resolution(ODR) (CEFACT/2001/LG14/Rev. 12, 3 January 2003).
8 ICC Response to the UN/CEFACT draft recommendations on online alternative dispute resolution (ODR), 10 February 2003.
9 Comments by the UNCITRAL Secretariat on a draft recommendation on online alternative dispute resolution (ODR). 17 January 2003.
10 UN/ECE/CTIED, List of Participants, as of 15 May 2003.
11 TRADE/CEFACT/2003/13, 28 March 2003.
12 TRADE/CEFACT/2003/19, 27 February 2003.
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