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序論
1. 平成14年度貿易手続簡易化特別委員会の活動
1. 特別委員会の付託事業計画
1.1 事業計画の名称と内容
 貿易手続簡易化特別委員会は、前年度に引き続いて、電子貿易手続における国際取引ルールの構築に関する調査・研究を行いました。これまでに国連CEFACTは、UN/EDIFACT等の国際的なEDI標準を開発し、グローバルな電子商取引(EC)の普及を推進してきました。ECを実施するためには、電子貿易手続・取引のための新しい国際取引ルールの構築が不可欠と考えられます。例えば、国連CEFACTにおいては、EDIのユーザーに対する勧告として、1995年に『モデルEDI交換協定書』(勧告第26号)を採択し、また2000年に、インターネットの普及に伴ってEDIの他にe-mailやwebsiteを使用してECを行う当事者のために開発した『モデルEC協定書』(勧告第31号)を採択しています。本年度の主要な事業計画は以下の通りです。
 
1.2 ebXMLに関する調査研究
 電子商取引は1970年代から4分の1世紀以上にわたり業界標準または国内標準に従って行われてきました.特に、国際標準であるUN/EDIFACTが1987年の国連ECE/WP.4総会で採択され、国際標準化機構(ISO)によりISO9735として承認された以後、EDIによる企業間の情報交換が活発に行われています。しかし、EDIによる電子商取引は膨大な技術知識を要し、その実装により特定企業との密接な取引関係が求められ、専用回線で結合されるなど、相当高額の費用が必要になります。そのために、EDIによる電子商取引は大企業に限られています。
 
 そこで、低コストで使いやすい技術的環境の整備が、特に中小企業や発展途上国などのEC参加に必要です。国連CEFACTとOASIS(構造化情報標準促進団体)による共同イニシアチブは、2001年5月にebXMLの主要な技術仕様を完成しました。その技術的側面については、昨年報告しましたが、実用化に向けての技術開発が進められているので、継続して調査を行います。また、ebXML標準に従ってPCとインターネットによるECが行われる場合を想定して、国連CEFACTでは、新しいモデルebXML取引当事者間協定書(ebXML Trading Partner Agreement:TPA)の開発を計画しています。本年度の事業計画の第1は、ebXMLベースのECまたはEビジネスに関する技術的および契約的側面の調査研究です。
 
1.3 オンライン裁判外紛争処理(ODR)に関する調査研究
 PCとインターネットの普及によって、中小企業だけでなく、仮想市場でECに参加する個人または消費者(C)も増えています。インターネット上のECがクロスボーダーの性格を有するので、B2B、B2CおよびC2Cの電子商取引から生じる紛争の公平、迅速かつ低廉な解決が必要になってきています。特に、消費者(または個人)に関わる取引の場合、消費者保護、個人情報などの法的問題が絡んできますので、情報処理に注意が必要です。また、消費者の取引は物品売買に限らず、種類が多様化しており、通常、一件当たりの取引金額が小さいので、これらの取引から生じる紛争を裁判外紛争処理(Alternative Dispute Resolution:ADR)によって解決する件数が増えています。さらに、インターネットによる取引の急増に伴って、国際的性格の紛争も増えており、これらの迅速な解決を行うためにオンラインADR(Online Dispute Resolution:ODR)が利用される傾向が見られます。昨年度は、欧米におけるODRの現状と問題点について調査研究を実施しました。また、国連CEFACT/LGがODRに関する勧告案を作成したので、これに対する意見書を提出しました。本年度の事業計画の第2は、ODRに関する最新情報の収集および国連CEFACTの勧告案について調査研究を継続して行うことです。
 
1.4 貿易手続簡易化に関する情報の収集
 総合物流施策大綱(平成9年)、新総合物流施策大綱(平成13年)および国際物流改革プラン(平成13年;塩川イニシアチブ)により、税関手続、港湾手続などのワンストップ化やシングルウインドウ化計画が進められています。また、行政手続だけでなく、貿易取引、運送・保険・金融、港湾物流などの貿易関連分野で電子化が行われています。電子貿易取引ルールの構築に関する調査研究は、国際商取引に関与する多数の当事者の現実の事務処理に重大な影響を及ぼす問題です。国連CEFACT/LGでは、電子署名のクロスボーダー認証および認証機関に関するガイドライン、モデル仲介協定書などの開発の検討が計画にあがっています。当特別委員会は、これらの問題の検討状況をフォローするとともに、わが国における貿易関連業界の電子ビジネスへの対応の現状についての最新情報を貿易関連業界に提供しています。
 
2. 特別委員会の開催と主要課題
 平成14年度貿易手続簡易化特別委員会は8回開催されました。各委員会における主要な報告を以下に述べます。
 
2.1 第1回貿易手続簡易化特別委員会(平成14年7月24日)
2.1.1 平成14年度委員会活動方針について
(1)事業計画、(2)今年度の課題、および(3)EDIセミナーについて意見交換を行いました。
 
2.1.2 ODRに関する勧告案(改訂案)について
 朝岡委員長は、「ODRに関する勧告案」について報告を行い、これに関連して以下のように説明をしました。「ODR勧告案(CEFACT/2001/LG14/Rev.2)に対するコメントを国連CEFACT/LG(法律関係グループ)に提出しました。LGは同勧告案を改訂して02年5月の第8回総会に提出すことを予定していましたが、改訂作業が遅れています。本委員会で配布した資料はLGが6月に出したODR勧告案(CEFACT/2002・LG14・Rev.6)です。なお、ODR勧告案に対するICCのコメントは7月に開催されたLGの会合に提出されたものです。」
 
 早坂委員より、ICCのコメントについて、「(1)ニューヨーク条約との関係で書面性の問題がでてくる点、(2)仲裁で良くても法廷で負けるケースがあること、(3)ODR手続の結果を遵守する旨を勧告案に明記すべきであるとの提案に賛成であるが、(4)手続の結果について秘密保持はすべきでなく、判断資料として開示が必要である」との見解が述べられました。
 
 伊東氏(国連CEFACT副議長)より、ODR関連として、6月にジュネーブで開催された「ODRに関する国連ECEフォーラム」の概要報告がありました。「フォーラムは6月6−7日に開催され、ECE域内から40名、域外から13名、うち日本からは2名(伊東、窪田の両氏)が出席しました。スピーカーは大学関係、産業界、国際関係機関で、窪田氏(東京電力顧問)は「日本におけるODRの現状」と題して講演され、内容が具体的で好評でした。」
 
2.1.3 国連CEFACT第8回総会の報告
 朝岡委員長より国連CEFACT第8回総会の報告が行われました。「今年は5月27〜31日に国連CEFACT総会がジュネーブの国連欧州本部で開催され、わが国からは8名が参加しました。電子ビジネスの調査研究に効率的に取組むため、国連CEFACTの組織改革が承認されました。今回の総会では、ODRに関する勧告案は内容が未熟ということで先送りされました。ebXMLに準拠したTPA勧告案がまとまれば、今年中に出てくると思われます。法律連絡ラポータより、(a)行動規範の普及、(b)電子商取引に関する交換協定書の開発、(c)電子署名のクロスボーダー認証、(d)ODRなどを中心にLGの活動が報告されました。」
 
2.1.4 国連CEFACTの組織改革の報告
 伊東氏(国連CEFACT副議長)より国連CEFACTの組織改革について報告がありました。「これまで6つあった常設作業グループが5つのグループに再編され、『UN/CEFACTフォーラム』と呼ぶことになりました。また、ポリシー開発グループと啓蒙普及グループが国連CEFACT運営グループを補佐する形で新設されました。第1回のUN/CEFACTフォーラムは9月に開催されることが正式に発表されています。」
 
 山内委員より、法律ラポータ報告(b)に関連し、「ebXMLの目的にオンラインで協定を結ぶことになっているが、勧告第26号はそれを含んでいるのか、また、ウェブでシェアウエアをダウンロードするとアグリーメントの同意が求められるが、そういうイメージになるのか」との質問がありました。それに対して、伊東氏より「ebXMLでは取引相手に対してCPP、CPAをオンラインで使って行うことになる」との回答がありました。また菅又委員は、「CPP、CPAにはリーガルバインディングはなく、リーガルバインディングのオンライン化はロゼッタネットが検討を始めている」と回答されました。
 
2.2 第2回貿易手続簡易化特別委員会(平成14年8月28日)
2.2.1 平成14年度委員会報告書の構成について
 平成14年度委員会報告書についての委員長案が説明され、これに関連して意見交換が行われました。
 
2.2.2 EDIセミナーについて
 「EDIセミナーの案内」に関する事務局案について意見交換が行われました。
 
2.2.3 税関手続申請システム(CuPES)について
 財務省関税局業務課通関第一係長南里修治氏より「電子インボイスの流れについて」と題して報告を頂きました。概要は次のとおりです。
 「インボイスは税関提出必須書類ですが、企業からは従前からインボイスの電子化の要請がありました。システム化にあたりまず項目の統一を行いました。輸出入者は税関手続申請システム(CuPES)にインボイスを送信し、そのデータを使って申告情報をNACCSに送る仕組みとなっています。共に扱い量が膨大なためNACCSとCuPESは別個のシステムとしました。稼動は電子化一括法の成立と同時になり、今年度内を見込んでいます。項目は、関税法で必要なもの、システムで必要なもの、不正取締り上必要なもの等から成っています。定義はISO7372に準拠したフラットファイルです。ebXMLは不確定要素とファイルサイズの問題から、またUN/EDIFACTは複雑さとバージョン変更によるコスト高の問題から、使用を見送りました。電子B/L、電子保険証券は第二段階で受信可能とする予定です。」
 
2.2.4 ebXML TPA(Ver.2)について
 朝岡委員長より「RosettaNet TPA(Ver.2)について」報告が行われました。概要は次のとおりです。「昨年5月以降RosettaNetでは、ebXMLに準拠したリーガルフレームワークの開発に取組んでいます。当初は書面形式によるAgreementを作る計画ではありませんでしたが、ここに出てきたものは書面の形となっています。TPAは昨年9月に原案、10月にVer.1、今年1月にVer.2が出てきました。これがたたき台になって、CEFACT/LGで勧告案の作成を検討することになると思われます。EDIによるデータ交換を行うときの技術的および法的問題の取り決めに関する項目は、今回のTPAにはカバーされていません。また、これらを個別的特約とするのか否かも不明です。これらの点について、TPAにはもう少しきちんとした内容を盛込む必要があると考えます。」このあとで、TPA(Ver.2)の構成について説明が行われました。
 
2.3 第3回貿易手続簡易化特別委員会(平成14年9月24日)
2.3.1 P&I Clubによる保険填補について
 早坂委員より、本議題について概要以下のような説明が行われました。「P&I Clubは船主責任保険組合で、船舶海上保険で填補されないリスクに対処するため船主相互保護の目的で結成された組織です。世界の主要なP&I Clubが集まってInternational Group of P&I Clubsが構成されています。BOLERO等のPaperless Tradingに対しP&I Clubは保険契約規定を原則不填補としており、保険は別途手配しなければなりません。International Group of P&I Clubsは、Paperless Tradingスキーム毎に分析を行い、別途手配の保険付保の適否判断を行っています。」
 
2.3.2 Trading Partner Agreement (TPA)の基本条項について
 朝岡委員長より、以下の項目等について説明が行われました。
(1)ebXML TPAの草案 (Draft V1.0)
(2)TPA Version 02.00に至るまでの経緯
(3)TPA Version 02.00の構成
(4)General Legal Provision(GLP:一般法的条項)と勧告第26号、31号との比較
(5)Non-Disclosure Agreement(NDA:非開示協定書)と同上勧告との比較
 
 菅又委員より、次のような補足説明がありました。「ebXML TPAに関する2000年UN/CEFACT文書(Draft V1.0)と2001年同文書(Draft V0.2)では概念が変わり、TPAとCPAは別物になっています。TPAは広い概念でLEGALが絡んだ問題ですが、CPAはそれより狭い概念で、ebXMLではCPAを使っています。ebXMLではもともとTPAが自動化できることで進んだのであるが、法的面をはずしてCPAとして進めることになった経緯があります。ロゼッタネットは、CPAがカバーしないTPA部分を扱っています。また混乱を避けるためebXMLではTPAという言葉を一切使っていません。」







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