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4. 極端な個人主義を改める
 日本人の自立は、個人主義的なものではなく、相互依存的な自立が合っているのではないかと思います。アメリカは個人主義的な自立を求めます。日本の社会は共依存的ですから、自立についてはあまり考えてはきませんでした。家庭は共依存的な社会の温床といっても過言ではないでしょう。国際化や少子高齢化という社会の変化の中で自己責任や自立が強調され始めると、誰にも頼らないで何でも自分だけでしなければならないと思うようになりました。そのように自立を理解することがどちらかというと個人主義的な自立に向かわせたといってよいでしょう。極端から極端に揺れてしまったのです。
 現代の日本の家族を見ると、相互依存関係よりも、個人主義に陥っているように思われます。共依存的であったものが自立ということになると、適切な関わりをもつのがむずかしく、関係を断つような極端から極端に向いてしまうのです。それを私は個人主義的な自立といっています。
 アメリカの場合は、社会が個人主義的ですから問題は少ないのですが、日本の社会は相変わらず依存的ですから、個人主義的な自立を求めると、周りからも異質の存在と見られて孤立してしまいます。それがまた自立するのにブレーキになってしまうという悪循環を辿ることにもなります。
 それでは極端な個人主義は家庭の中でどのように生じてくるのでしょうか。共依存的な家庭で育った場合、子供が思春期になると共依存的な関係を拒否して家族の誰とも関わらず、部屋から出ないで自分の世界に閉じこもってしまうようになります。このような関係が改善されずに進学や就職のために家から離れてしまうと、家庭の中で適切な人間関係を学習する機会を失ってしまいます。このような人々は社会でも適切な関わりをもつことが困難になり、孤立するリスクが高くなっていきます。父親が仕事から帰ってきても自分の部屋から出てこないとか、あるいは居間に家族と一緒にいてもテレビや新聞だけが相手で、誰ともコミュ二ケーションをとろうとしない、さらには、それぞれ自分の部屋でテレビゲームやインターネットに熱中して出てこないのです。
 最近はコンピュータ依存やインターネット依存がたいへん増えていると指摘されています。コンピュータからはいろいろな情報が入ってはきますが、これも依存症の一種です。時間の制限もなく、全エネルギーを使い切ってしまいます。これでは適切な人間関係を築くことができません。ITはこれから生きていく上で不可欠なものかもしれませんが、人間の自立とか人間関係などを同時に強調していかないと、それを使う人間はITの奴隷になってしまうことになります。これが依存症です。子供たちが十分な自我の確立がなされていない中でこのような世界に投げ出されると、どうしていいかわからなくなって、自分で主体的にITを使うというよりは、ITに潰されてしまうことにもなりかねません。
 適切な関わりのできない個人主義的な自立では、現代社会を生き抜く上でも障害となります。これを防ぐには家族関係を上手に築くことが必要です。
 
5. 許しと和解によって不一致の解決を図る
 家族、夫婦、親子の問題を扱っていきますと、許しと和解は切っても切り離せないテーマであることがわかります。
 アメリカでの例ですが、妻は日本人で夫は白人という50代の夫婦ですが、夫が不倫をしました。夫は国家公務員です。妻は夫より年上でしたから、一足先に退職していました。妻には暇がありますから、日本人の友人と毎晩のようにカラオケに行き家を空けました。夫は温厚な人ですから、何も文句を言いません。夫は日頃から同じ職場の離婚していた中年女性の家庭の相談にのっていました。ちょっとしたきっかけから数カ月彼女と肉体関係をもったのが妻に知られてしまいました。夫は妻と離婚したいとは思っていないのですが、妻は夫に離婚状をつきつけました。この夫婦は、アメリカ人の専門の結婚カウンセラーからの紹介で私のところにくるようになったのですが、妻はたいへんな剣幕でした。夫が私のオフィスに入ってくる姿を見て、私はゾッとしました。今日にでも海に飛び込むかのような血の気の失せた顔つきだったのです。
 夫からも話を聞きました。確かに不倫はよくないことですが、夫を無視しつづけた妻にも相当の問題があるのです。それから約半年間カウンセリングを続けました。最初は別々に、そして後半は一緒にしたのですが、いろいろなことが出てきました。夫は謝っているのですが、妻はどうしても許せないと言うのです。夫はもちろん自分が悪かったと認め、すぐに相手の女性とは別れたのですが、妻は腹の虫が収まらないのです。カウンセリングのセッションが進むにつれて、妻は最終的には自分も悪かったということを認め、この2人は最後には互いに許し合い、和解できたのです。しばらくして私のところに見えたときには、「いまはセカンドハネムーンです」と言って、これまでの結婚生活でもいまのような幸せはなかったと言っていました。これはまさに許しと和解にぴったりのケースです。
 夫婦カウンセリングや家族カウンセリングは、許しと和解が基本です。







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