2. 歪んだあるいは硬直しているパターンや協力関係を変えていく
私がよく見かけるのは、家庭の中で父親の存在感が薄いということです。その分、母親が大きくなります。父親の存在が家庭の中で大きくないと、子供が2歳や3歳ではそれほど問題はないのですが、中学、高校くらいの思春期になる頃には、不健全なパターンができてしまいます。この時期には父親は40代から50代であることが多いのですが、父親はほとんど家庭の外にいます。しかし、いまは父親はリストラに遭ったり、あるいは子会社に出向するケースも少なくありません。父親にもある程度時間の余裕が生まれ、家にいる時間が増えてきます。しかし父親は家庭に自分の居場所がないなどということに気づいてはいないのです。実際に父親が居間に入ってきて、みんなが見ているテレビを一緒に見たりすると、家族から文句が出たりします。これまでに父親抜きの協力関係やパターンができていますから、家族全体に不快感が生じてくるのです。父親の存在感がない家庭で居心地がよかったのに、会話もスムーズに運ばなくなり、父親は自分の存在感が脅かされていることに気づくようになってきます。
父親が内向的で軟弱な人であればまだこの関係の中に小さくなっているのですが、ある程度意志があり我の強い人だったりすると、ここでバトルが始まります。そこにさまざまな問題が生じてきます。妻を批判し、子供たちにいろいろと命令する。そうすると少しずつ協力関係が混乱し、硬直して歪んだりしてきます。そういう中で長女が大学へ入ったら家を出たいなどと言うと、母親はあわててしまい、感情的に反対してしまうのです。なぜかというと、母親にとっては父親ではなく娘が相談相手だからなのです。また、子供たちが家にいたとしても友人との関わりを優先しますし、家を出れば残されるのは夫婦だけになります。母親はちょうどその頃に更年期にさしかかっていることが多いのです。こうなると問題はさらに複雑になり、家族関係の変化に対応できないのです。
問題が起こらなければもちろん私のところに相談に来ることはないのですが、歪んだり硬直したパターンの協力関係に問題が起こると非常に深刻になることがあります。関係は硬直していますから、変えようとすると誰かに相当の痛手を与えることになってしまうのです。それを覚悟しないと、なかなか変えることはむずかしいのです。このような場合には、積極的に専門的なサポートを求めないと、痛みに耐えることはできなくなります。
父親が介入し始めたばかりの段階であれば、私はまず夫婦の関係を整えます。父親と子供の関係は休戦状態にして、まず父親を家族の中に入れて、存在感を受け入れられるようにするというところから始めていきます。このときには父親にもこれまでの家族関係が理解できるように助けていくことが大事です。話し方や関わり方にも注意が必要です。また、受け入れる側も父親の気持ちや置かれている状況に配慮することが必要です。このような協力関係を確立できれば、硬直したシステムを改善する雰囲気や意識が自然にできてくることになります。
母親は、父親が不在の分、家族の硬直した関係を作り上げていたのですが、父親は母親とは違った価値観を家庭の中に持ち込むようになり、子供たちも母親からは許されていたことが父親からは許されないということも出てきます。また、父親もこれまで許されていたわがままが、家族の中にいることで許されなくなることも出てきます。それがいいのです。それが上手に噛み合うことによって、よりよいパターンが出来上がっていくのです。このように家族のシステムをまずしっかりと築いていくことが大事なのです。そして、夫婦間の協力関係が確立したところで子供たちとの関わりを改善していきます。夫と妻が協力して、子供たちに対して同じ価値観やしつけの基準をもって対応していくというシステムをつくっていくといいと思います。
3. バウンドリーの確立
問題のある家族は親と子との間にバウンドリーがなく、互いに侵しあっています。家庭内のバウンドリーの土台は両親間のバウンドリーです。父親と母親の間に適切な関わりがないと、母親は限りなく子供を受け入れるようになったり、また、子供のバウンドリーを侵してしまっていることがあります。
夫婦間のバウンドリーが確立していないと、親子間のバウンドリーも確立できません。母親は気づかないのですが、子供たちのバウンドリーを侵してしまうのです。その結果、子供たちが自立する頃になっても、母親が巧妙にそれを妨害してしまいます。「あなたのために言っているのよ」というように、あたかも子供のためというような大義名分を掲げるのですが、実際は自分の都合なのです。娘であれば何かの事実をつくったりして親から離れようと試みます。“できちゃった結婚”などはこのようなケースです。あるいは大学や就職する会社を自宅からは通えないところを選んでしまうのも同じような心理が働いていることがあります。それは無意識的にすることが多いのです。
バウンドリーを侵して母親が関わってきた子供が自立しようとするのは、母親からみると自立ではなくて裏切りととってしまいます。
娘や息子が非常な犠牲を払って家を出たとします。その後、結婚して家族をもち、これで一安心という段階で初めて問題が起こってくることがあります。夫婦間に親密さがもてない、互いの顔色をうかがい不安になる、伴侶のことより親のことが気になり毎日のように電話をする、ドメスティックバイオレンス(DV)、子供が生まれた後に夫を受け入れられなくなるなどの問題ですが、これらの問題の背後には母子分離がなされていなかったために生じていることが少なくありません。これはバウンドリーの混乱している環境で育ったために、母子間に適切な距離が保てず、そのために自分の家庭で伴侶や子供とのバウンドリーがうまくとれずに問題が生じてくるようになるのです。
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