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4. システムはルールによって支配される
 システムというのは、ルールによって支配されています。家庭の規則といってもいいかもしれません。しかし、暗黙のルールがあるとシステムが機能しなくなります。この暗黙のルールが家族問題に関わりがあるかどうかをチェックする必要があります。ルールは家族の中で明確であることが必要だからです。
 暗黙のルールの中によくあることは、本音は話してはならないとか、怒りなどの否定的な感情は隠しておくとか、家族の誰かのギャンブル問題、精神病などについて触れてはならないなどということです。このような暗黙のルールがあると、システムが機能するのは困難です。このようなことはむしろ家庭でオープンに話すべき重要なテーマですが、それが隠されていると、子供たちの発達にも大きな障害となります。また、問題に対する適切な対応がなされないわけですから、家族のシステムが機能することはあり得ません。ある期間は問題が表に出てこないかもしれませんが、隠し切れなくなって問題が表に出る頃には大きなダメージを家族に与えることになってしまうでしょう。
 家庭のルールは誰もがわかるようになっていなければなりません。そのルールを侵せばどのような罰があるかも共通認識としてあることです。システムが機能するためにはルールが必要ですが、暗黙のものであってはなりません。
 
5. バウンドリーが確立されている
 バウンドリーとは境界線のことで、家族関係を分離するサブシステムです。何度も言いますが、家族は夫婦が基本になります。夫婦がまずあって、子供があるのです。これは子供が夫婦より重要でないということではありません。夫婦が基本となった家庭こそが子供が本来の子供として成長できるということです。夫婦の関係が確立されていると子供たちと適切な距離をとることができます。母親と子供という関係にも分離を与えるのです。
 バウンドリーが明確であることが健全な家庭生活には不可欠だということです。親子の関係に明確な境界線がなくなってしまうような状態であれば、それはたいへん問題のある家族ということになります。よくあるケースですが、娘が自立しようとすると母親にとっては裏切り行為であるかのようにとられるような母娘の関係は両方にとって悲劇です。これはバウンドリーが確立されておらず、錯綜している家族関係です。これでは家庭内は機能していないのです。
 
6. 役割がある
 システムには役割があります。その役割を果たさないと、システムは正しく機能することができません。父親としてあるいは夫としての役割を果たさなければ、自然に母親が父親の役割も果たすようになってしまうのです。本来果たすべき人が果たさないと、システム全体が歪んでしまいます。母親が父親的役割を果たすようになると同時に、長男が父親的役割を果たすようになったりする。母親が父親の役割を果たしたらどうなるでしょう。十分に果たせるわけがありません。それから、本来、子供であるのに大人の役割、たとえば長女が母親の役割を担わせられるとか、娘が母親の相談相手としての大人の役割を担わされるなどすると、役割の混乱が生じます。家族関係は非常に混乱してしまうことになります。これらのことを頭に入れながら、自分の家庭、両親の家庭を見ていただきたいのです。システムとしての家族には何が問題なのかということを考えてほしいと思います。
 家族をシステムとして見て、さまざまな家族の問題がシステムとして機能すると、その中で問題は修正され改善していくのですが、正しく機能しないと問題が悪化するか、あるいは新しい問題をつくり出してしまうことになります。ですから、問題が起きないように必死で努力して、子供に「こうしなさい、ああしなさい」と口うるさく言ったり、あるいは夫婦間で思っていてもけんかになるからと何も言わないで表面をつくろっても問題を未然に防げるものではないということに気づくでしょう。
 夫と妻というシステムがあります。父と母というシステムも出てきます。子供同士もそれぞれシステムとしてつながっています。夫が会社でのさまざまな問題を家庭で吐き出します。これは夫としてあるいは父としての本来のあるべき姿ではないのかもしれません。しかし、妻がそれについて黙っているならば、夫はそれでいいのだと思ってしまいます。本人はすっきりするかもしれませんが、周りはたいへんです。これはシステムとしては働いていないということです。自分の気持ちをあたり構わず家庭の中で撒き散らしてしまう。それを我慢して受け止めてあげた。それが一定の線を越えた。ここにはまさにバウンドリーが必要かもしれません。これはいけない、妻はここではっきり言おうと思って、「会社で何かあったのはわかるけれども、家族に当たり散らすのは人間として道を外れているのではないかしら」と言ったとします。それを早い段階で言いますと、夫のほうもなるほどとわかります。夫も自分の姿に気づくでしょう。そこで家に帰ったときには自分で自分の気持ちをある程度コントロールする。それができるようであれば、会社に行ってもプラスに働くのです。
 では、父親と子供の関係ではどうでしょうか。父と子のシステムが機能しているのであれば、確かに父親は尊敬すべき存在ではあるけれども、子供たちも父親に対して、ある一定の線を超えたならば親に向かってはっきり言ってかまわないのです。「お父さん、それは子供じみています」と。親はそのように言われたら相当ショックかもしれませんが、自分の姿を振り向くきっかけになるでしょう。これが家族がシステムとして機能するということなのです。
 妻が夫に対してはっきり言うことによって、子供たちは母親の行動を通して、自分が将来結婚したときに、夫婦というのはそういうものなのだということがわかってくる。決して間違った形で忍耐や我慢をつづけるようなことはしなくなるでしょう。夫のほうでも20年、30年と同じ関係をもってしまったら変えられるような状態ではなくなってしまっているでしょう。システムというのはそのような性質をもっているのです。家族はみんなそれぞれ不完全ですが、家族というのはシステムが働くことによって修正されていくものなのです。夫のギャンブルは育った家族関係が問題だとすれば、妻がそれに気づいたときに毅然とした態度でバウンドリーに基づいた対応をする、つまり家族のシステムという機能が働くことによって、すぐには直らないかもしれませんが、問題が改善していくというモードの中で、家庭生活が行われていく。そうすると、5年、10年と家庭生活を送っていく中で相当変化が出てくるのです。しかし、現実に行われていることの多くはそうではありません。20年、30年という同じ状況の中で、我慢に我慢を重ねてしまうので問題が解決されないばかりか、悪化し、また新しい問題までつくり出してしまうのです。
 私のバウンドリーの本を読んで、夫の呪縛から解放されたといった方がおられます。その人は仕事をもっているのですが、職場でも「あなたの顔つきが変わった」と言われたそうです。家族としての機能が働いていないということは、どんなに多くの影響が及んでいるかということがわかります。それぞれ人間には短所・長所があるわけですが、機能が働いてくればくるほど、機能している家族には問題点が少しずつ改善されて、人間として成長を遂げていくようになるのです。
 家族の問題を考えるときには、システムということを頭に入れながら問題を見ていただきたいと思います。健康的なシステムでなければならない、不健康なシステムでは逆に問題が悪化してしまうということです。







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